日々の抄

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 自己チュウなマニアは困ったものだ

2010年2月17日(水)

鉄道マニアの迷惑行為が伝えられた。こう言うのを「迷惑鉄ちゃん」というのだそうだ。
 大阪府柏原市のJR関西線河内堅上駅付近の線路内に数人が入り込んでいる姿を運行中の快速列車の運転士が発見し列車が停止。運転士が退去を求めたが数人が聞き入れず、周辺駅から応援の駅員を呼んだり、パトカーが出動する騒ぎになり,上下計19本が運休、26本が最大約40分遅れ、約1万3000人に影響した。
 撮影の対象となったのは,運行回数の少ない団体用お座敷列車「あすか」で車内を座敷に改装した珍しい車両という。線路内への立ち入りは鉄道営業法で禁じられており、列車が止まった場合は刑法の往来危険罪が適用されることもある。

デジカメが比較的安価で手にすることができるようになってから,写真撮影のハードルは下がってきた。嘗てのように,マニュアルフォーカスで,絞り値もシャッター速度も自分で判断してきたことと異なり,ただカメラを対象に向けてシャッターをきりさせすれば,それらしい画像が記録できる簡便さは,功罪を残している。携帯電話での画像撮影は当初「撮メール」と称して始まった。何も考えず相手に携帯電話を向けて指を動かせば撮れる簡便さは,便利さの一方,「撮られる者」の立場は殆ど眼中にない。所構わず,カシャ,カシャと撮られて迷惑している人も少なくあるまい。ひどい場合,夜景や,花火もストロボ付きで撮影する。そんな姿を見ていると腹が立つこともある。楽友協会での演奏会中,演奏者の目の前で小型デジカメでバカッとストロボをたいて撮影している者がいた。それも,日本人らしいことがわかり,腹立たしくも恥ずかしい気持ちになったことを想い出す。高機能化したデジカメでの撮影もそうした,携帯電話での簡便な撮影の延長線上にある場合が多いらしい。

私も「迷惑鉄ちゃん」に似た,周りが見えなくなり迷惑千万な場面に遭遇した経験がある。
 県内で行われた流鏑馬のこと。馬場と観客の間に1メートルほどの側溝があり,安全確保から,側溝より内側に入らないよう注意喚起が繰り返しあった。馬が動き始めると,3人の年配の某新聞社カメラクラブのバッジをつけた男性カメラマンが,側溝を渡って馬場にかぶりつきの位置に移動。撮影に邪魔だといいながら近くの花を刈り取り始めた。多くの観客は,この3人の迷惑カメラマンに目の前を占領され,撮影しようと思っても,馬の前の迷惑オジサンが大きく写って断念せざるをえなかった。何頭もの馬が行き交った後,当の御仁達は,「きょうはイイ写真が撮れたぞ!」などと喜んでいた。自分たちが,刈り取った目の前の花の何倍も邪魔な存在だったことにまったく気づいてないことは呆れるばかり。
 湿原でのこと。前日に降雨があり,木道の先に幻想的な景色が現れかけている。グループで来ているらしい集団は,木道に三脚を所構わず広げ,身を捩らなければ前に進めない状況だった。後ろから来たひとが前に進もうとすると,「邪魔だから,前に行くな!」と罵声が飛んだ。ここは天下の公道。「いい場面なので,ちょっとだけ待って貰えますか」と言われれば別だが。人生経験を豊富に積んだはずのいい年のオジサンがこんなところにいるのが恥ずかしい,と思わされた。
 ムーミン号と呼ばれる列車が運行すると聞いて出かけた。踏切付近は絶好のスポットらしく,沢山の三脚が立っていた。しかたなく近くの田んぼ道に行って見ようと思っていたところ,明らかに「オタク風情の漂った若年寄」が,撮影に邪魔だから場所を移動しろ,と言う。彼の姿も,後ろにいる人にとって大変迷惑な存在であることに気づいていないらしい。
 藤棚の下でのこと。藤の花を入れて家族の記念撮影をしていたオバサンカメラマン。近くにいた若者に,「そこ,邪魔だからどいて!」と叫んだ。若者は,「おお。こぇー!」と首を竦め,ビックリするのみ。恥を忘れた人は救いがたい。
 他にも不愉快になったり,他人への迷惑行為と思う場面になんども遭遇したが,「カメラマンは迷惑」と十把一絡げにされたくない。特に最近増えている年配カメラマン諸氏は,「今の若い者は」などと言う前に,「今の年寄りは」などと反論されないようにしたいもの。単独でのカメラマンが迷惑という場面はあまり見ないが,複数人になると迷惑行為におよぶ場合が多いように感じる。複数人になると,「自分たちの世界」の中に入り込んで,他人への迷惑に気づかなくなるらしい。「みんなで渡れば怖くない」と考え,「グループの行為の責任を,自分だけでも負う」,という気持ちを持たない限り,迷惑カメラマンはなくならないだろう。「撮られたくない」と思う対象のひとが自分だったらどうか,と思うことも同様だ。

「他人様(ひとさま)にご迷惑をおかけできない」「お天道様に顔向けできないことはしない」という,当然と思われていた日本人の美徳がまた失われつつあるのだろうか。

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