日々の抄

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 国民は欺かれていた

2010年3月11日(木)

日米間の四つの「密約」を検証してきた外務省の有識者委員会は9日、報告書をまとめた。
それによると、問題の密約が検証された対象は
1.1960年1月の安保条約改定時の、核持ち込みに関する「密約
2.1960年1月の安保条約改定時の、朝鮮、半島有事の際の戦闘作戦に関する「密約」
3.1972年の沖縄題還時の、有事の際の核持ち込みに関する「密約」
4.1972年の沖縄返還時の、原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」
の4件である。
 有識者委員会での「密約」とは
『かつて帝国主義外交の時代には、しばしば、秘密協定が存在していた。日本でいえば、1907年の日露協商など、公表部分とともに秘密部分があって、しばしば後者のほうが重要であった。それらは、二国間の場合、両国間の合意あるいは了解であって、国民に知らされておらず、かつ、公表されでいる合意や了解と異なる重要な内容(追加的に重要な権利や自由を他国に与えるか、あるいは重要な義務や負担を自国に引き受ける内容)を持つものである。厳密な意味では、密約とはそういうものを指して言うべきであろう。
以上を「狭義の密約」ということができるだろう。その場合には、当然、合意内容を記した文書が存在するわけであるが、他方で、明確な文書による合意でなく、暗黙のうちに存在する合意や了解であるが、やはり、公表されている合意や了解と異なる重要な内容を持つものがありうる。これを「広義の密約」ということができるだろう。本報告書は、狭義の密約のみならず、広義の密約をも対象とする』と定義している。
 要約すれば、証拠の残されたものが「狭義」、証拠が残されず暗黙の了解によるものが「広義」ということである。

「密約」の有無についての結論は以下の通りだった。
1.「核搭載艦船の核持ち込み」密約については
 60年1月の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使が事前協議制を巡って交わした「討議の記録」のコピーなどが見つかったが、解釈を巡り日米間にずれがあった。63、64年にライシャワー駐日大使が大平正芳外相、佐藤首相に米艦船の核持ち込みを「事前協議の対象外」にする立場を伝えた。日本側は米側に解釈を改めるよう働きかけず黙認し、米側も深追いせず、「暗黙の合意」が形成されていった。
2.「朝鮮半島有事」密約については
 60年1月の藤山外相とマッカーサー大使が交わした「朝鮮議事録」のコピーなどが発見され、密約と認定。半島有事に出撃する在日米軍の戦闘行動の際、事前協議なしに米軍が在日米軍基地を自由に使用できることを例外的に認める内容だが、日本側は「事前協議の意義を減殺させる不本意なもの」とも認識。後の沖縄返還交渉で米側に同議事録の失効を求めたが、調整はつかなかったことも判明した。
3.沖縄返還時に「有事の際の沖縄への核再持ち込み」密約については
 佐藤栄作首相とニクソン米大統領が1969年11月の日米首脳会談の際にひそかに交わした「合意議事録」について、拘束力はなく「必ずしも密約とは言えない」と否定的見解を示した。また、一連の文書検証にあたって「不自然な欠落」が判明。廃棄された可能性があるとみて、調査を求めた。
4.「沖縄返還時の原状回復補償費肩代わり」密約については
 密約とみなした最大の根拠だったスナイダー駐日米公使と吉野文六外務省アメリカ局長による71年6月の議事要旨が、外務省調査では見つからなかった。米側の公開資料を精査した結果、報告書は、議事要旨の「狭義の密約」性を否定。しかし、米側が「自発的」に支払うとした400万ドルの肩代わり合意と、日本側が支払う3億2000万ドルへの積み増し了解は「両国政府の財政処理を制約する」として、「広義の密約」と判断した。

1.2..4は密約と認定されたが、3.沖縄返還時に「有事の際の沖縄への核再持ち込み」は「必ずしも」密約とは言えない、としているが、昨年12月佐藤首相とニクソン米大統領の間で交わされたとされる有事の際の核持ち込みに関する「密約」文書が佐藤氏の遺族に保管されていることが明らかにされている。有識者委は、『佐藤首相は合意議事録を自分限りのものと考え、長期的に政府を拘束すると考えていなかった』として「密約」を否定しているが、この文章には両氏のフルネームの署名が入れられており、「拘束すると考えていなかった」ことの根拠は明らかにすべきである。
 「沖縄返還時の原状回復補償費肩代わり」密約については、元毎日新聞記者西山氏が71年、記事で指摘していたことが事実であったことが裏付けられた。事の発覚を恐れ、スキャンダル事件に転嫁してしてきたことを関係者はどう考えるのか。

これらの「密約」を自民党政権は否定してきた。麻生前首相は『当時の国会・国民への説明ぶりは、わが国の安全保障を確保するとの観点に立った賢明な対応だった』、安倍元首相は『当時は冷戦時代で指導者が日本を守るために判断した。秘密を暴露して、過去にそういう判断をした人たちを非難するのではなく、今後、日本の安全に資する形で考えていくべきだ』などとし、国民を欺いてきた事への反省の弁はまったくないのはどういうことなのか。

「核兵器を持たず、作らず、持ち込まさず」という「非核三原則」は国是ではないのか。「持ち込まさず」が「密約」の発覚から日米関係に影響するという懸念がある。だが、『92年以降、米軍艦船に配備されていた戦術核はすべて撤去され、米軍はアジア・太平洋地域で、核弾頭を載せた潜水艦や空母を日本に寄港させたり、日本領海を通過させたりする必要はもはやないので、核持ち込みの密約自体が、すでに意味を持たない』との見方があるものの、有事の場合はどうなるのか。

佐藤栄作氏は74年、非核三原則の提唱などが評価されノーベル平和賞を受賞した。この受賞は「密約」という、国民を欺いていたことに基づいており、受賞の評価対象から外されて然るべきではないか。
 今回の報告で明らかになったことは、国の存亡に関わることが、外務官僚の手で闇に葬られていたことである。公式文書は、何年か後には公開される仕組みが早急に求められているのではないか。

それにしても、これだけ国民に対する欺瞞が明らかになったのに謝る人物が誰もいないのは不思議である。

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