日々の抄

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 ギョーザ事件は解決するのか

2010年3月29日(月)

07年12月に発覚し、日本中に食品安全不信をもたらした、いわゆる「中国毒ギョウザ事件」の容疑者と思われる製造元の臨時工員だった中国人の男性を捜査当局が26日拘束したと報じられた。容疑者は食堂の管理人をしており、長期間、臨時工をしていても正社員になれないことが不満で、07年10月(事態が日本国内で発覚する4か月前)、工場内の冷凍庫に忍び込み、注射器で殺虫剤の成分であるメタミドホスを混入させたという。

容疑者の拘束に対して首相は、「中国側関係者の努力を評価し、さらなる真相究明を期待する。引き続き中国側との間で意思疎通を密にし、相互に協力していく。本件が早期に解決し、日中関係がさらに発展することを期待する」。外相は、「中国当局の大変な努力の結果、ここまでこぎ着けていただいた」と述べ、中国側の対応を評価しているが、少しおかしい気がする。

事件発覚後、中国政府は当初中国国内でメタミドホスが混入したことを否定していたが、日本国内で事件が発覚してから8か月後中国国内でで中毒事件が判明。中国政府が調査に乗り出しが、中国国内でメタミドホスが混入した可能性が高いことが7月に日本政府に伝えられた。だが、当時の福田内閣はそのことをひと月近く国民に公表しなかった。その後、ギョーザ製造元が使用を否定していたメタミドホスは芝生の農薬として使われていたことが判明している。

中国江蘇省太倉市では、1997年から2002年にかけ、メタミドホスによる中毒事故が654件発生、210人が死亡していたことが分かっており(「中華中西医雑誌(03年8月号)による」)、07年使用禁止になったものの回収されてないという。中国国内のウェブサイトでは、「こんな事件を起こすから、中国食品は信用されなくなる」「中国のメンツは丸つぶれ」との声がある一方、「日本メディアがまた中国の悪口を誇張して書き立てている」「日本人はあまりに虚弱体質だ」と反感を表す書き込みもみられたという。中国人はどれほど薬物に強いのか聞いてみたい。また、国際問題専門紙「環球時報」は「原因が未確認の段階で、責任は中国側にあると(日本は)推測している」と批判。「中日関係の強化を好まない人間による政治問題化を防がないといけない」としていた。中国国家品質監督検査検疫総局副局長は、「中日友好の発展を望まない少数の過激分子が極端な手段に出たのかもしれない」とし、日中関係に不満をもつ者の犯行の可能性を示唆していた。

だが、ギョーザ製造元の臨時工員が容疑者として拘束された。中国政府は日本国に対し、まずなすべきは謝罪ではないか。中国からどのような連絡があったのか詳しく報じられてないが、少なくとも謝罪の意は聞こえてこない。中国国内では、「08年、日本向け輸出ギョーザで中毒事件が発生して以来、中国政府は当事件を非常に重視してきた」「中国のたゆまぬ努力によってメタミドホス投入事件の真相が明らかになった」と報じられたそうだが、都合の悪いウエブサイトを潰すことなど茶飯の国で、自国に原因があり、被害者である日本国民に非があるが如く言いたい放題にさせておきながらの結果は如何なものなのか。

容疑者が拘束されたについて不自然な点がいくつかある。
第一は、犯行に用いられたとみられる注射器2本が本人の自供により下水から押収されている。その注射器の針からメタミドホスが検出されているというが、事件が発覚して二年もの歳月が経過しているにも関わらず、薬物が入ったまま放置されていることは信じがたい。
第二は、強力な捜査権限をもった当局が容疑者拘束まで二年もの年月が必要だったのか。ギョーザ製造元の従業員を対象に捜査していたはずなのに、二年もの時間はあまりに長すぎる。
第三は、注射器でメタミドホスを注入したというが、何百、何千もの数のギョーザに刺すことが果たして可能だったのか。この点が最も疑問である。
第四は、未開封の袋からも薬物がメタミドホス以外にもジクロルボスなどが検出されていることから、今回の容疑者だけの犯行か疑わしい。

日中両国間で食の安全を協議する「日中食品安全推進イニシアチブ」が設置されることになっているというが、今回の展開はそのための布石なのだろうか。中国では、今回の場合の罪名は「危険物質投与」で、最高刑は死刑というが、容疑者と同様、ギョーザ製造元に勤務しボーナスを受給できなかったという妻の証言が事件解決のきっかけだったということは信じがたい。

容疑者が犯行に及んだ理由が臨時工として低賃金、長時間労働などとしているというが、夜までの労働で月給1000元(約1万4000円)程度の従業員もいるというが、経営効率を上げるため、働く者を人間として扱っていないように見える。日本国内でも状況は大きく変わるものではあるまい。

事件が解決する方向に進んでいるらしいが、多分に政治の匂いがしてならない。いずれにしろ、まじめに働こうとする者が報われないことが事件の原因なら悲しくも寂しい話である。

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