日々の抄

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 こんどは詰め込みですか

2010年4月12日(月)

新学期が始まった。近くの小学校にもピカピカの一年生が咲きそろった桜の下をそそくさと緊張の面持ちで通学を始めた。子ども達のそうした姿を見ると、安全で学校に行くことを楽しみにし、友達を作ること、学ぶことが楽しみになれるよう願うのみである。

文部科学省から、2011年度から小学校で使われる教科書全9教科の検定結果を発表された。それによると、学習指導要領が「脱ゆとり」へ向かい、04年の検定で合格した現行教科書に比べ、ページ数は各社平均で算数33%、理科37%、全教科合計でも25%増加。「ゆとり教育」全盛時の01年に検定で合格した教科書に比べると、算数・理科はともに67%、国社算理の4教科は50%、全教科では43%増えた。

具体的には、5年算数に台形の面積の公式が、理科では4年の「骨と筋肉の働き」、6年の「食物連鎖」などの単元が復活。「円周率は3.14」と明記。素数(5年算数)、電気の利用(6年理科)などの新たな項目が盛り込まれ、対称な図形(6年算数)、文字を用いた式(同)などが復活。算数は練習問題が増え、実生活とのかかわりを学ばせる応用問題も充実。理科では写真、図表をより多く使う傾向に。また、 単位表現はm→m、kgkgl →Lに変更される。
 国語、社会で日本文化や伝統を扱った題材が増加。道徳や伝統文化の記述は「おれいの気もちをつたえよう」(1・2年生活)、神話の「いなばの白うさぎ」(2年国語)などが登場。5年社会の地図で、日韓両国が領有権を主張する日本海の竹島の記載に「国境線について理解し難い」と検定意見が付き、韓国との間に国境線を引く修正が施された。6年生社会では、沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)に関する記述が3冊になったが、いずれも「集団自決」で軍の関与に言及する記述はない。また、学童疎開船「対馬丸」の紹介が1冊から2冊に。

「ゆとり教育」から大幅に内容が増えたことについて、「ゆとり教育」の「旗振り役」と称される、元文科省官房審議官は『(内容が約3割減った学習指導要領が施行された)02年度の教科書も実はこういうものにしたかった。メディアが「教える量が少ないのがゆとり」と言ったからおかしくなったが、本来は「いろんな学び方ができるゆとりを作っていこう」という話。内容の豊かな教科書になればなるほど、学びの幅が広がる。勉強が苦手な子のためにかみ砕いた記述をして、得意な子のために発展的内容も入れれば、厚くなるのは当然。当時の文科省では「教師は教科書を全部教えるものと思い込んでいるから、厚くしたらパニックになる」との意見が多数派だったが、そうした強迫観念は今だいぶ薄まっている。しかも、逆立ちしたってこんな教科書全部教えられない。』と、語っている。
 「ゆとり教育」がうまくいかず、学力低下を招いた原因がメディアの誤った報道によるものであるかのように語っていることは責任回避にしか聞こえず腹立たしい。

現行過程で発展的内容とされた項目の多くが指導要領の範囲内となり、教科書の本文で扱われたため「発展」の記述割合は大幅に減少。文科教科書課は今回、「発展学習以外でも現場の判断で取捨選択できる部分はある。必ずしもすべて教える必要はない」とし、「最低限教えなければいけないもの」としていた従来の見解を変えたことを示している点は大きな転換である。だが、授業内容が増加する中、今年度から移行措置が始まり、小学校では既に年間の授業が35コマ程度増加。時間をやりくりするため、約3割の学校が行事を減らし、約1割が夏休みや冬休みを短くすることを余儀なくされている。来年4月から全面実施される新指導要領では理科、算数の授業時間が以前より各16%程度拡大しているのみであるという。

どうみても、現行の授業時間数で新教科書を教材とすることには無理がある。詰め込み過ぎとの評価に対する、「必ずしもすべて教える必要はない」との文科省の見解は「責任回避」がにじみ出ているように思える。地域の子どもの実態に応じた結果、内容を割愛すれば、「あの学校は、あの先生は大したことを教えてない」と憤るモンスターペアレント達の批判に学校現場の教員が晒され、窮していく姿は十分に想像できることである。また、「ゆとり教育」で学んできた新人教員が自分たちが経験してこなかった内容を教えることにも危惧がある。実施が進むに従って「詰め込み教育」の再来が予想できる。詰め込みによって引き起こされてきた落ちこぼれ、学校の荒廃が予想できるなら、正に子ども達が教育の実験台にされているだけではないか。

授業時間が限られ、内容が増えるなら、いくら指導法を研究しても限界がある。授業時間数を確保し、現状よりも児童、生徒、教員が少なからず余裕を持てる対策に「土曜日の授業日復活」がある。土曜日を休業日にしはじめた時期は、親も土曜日が休みになり家庭で親子のふれ合いの時間を増やすことも理由の一つであったはず。失職をはじめ経済的に不安を抱えている現実を考えれば、暢気に週末を親子で過ごすことなど過去の話である。ましてやハッピーマンデーなどは一日も早く撤廃すべきである。

PISAで順位を下げたからといって、あたふたした拙速は禁物である。「ゆとり教育」で学力が低下したことは確かだろう。だが、それは子ども達が悪いわけではない。国家百年の計としてこの国の教育を考えず、振り子がふれるようにしてめまぐるしく、目先を考えている結果ではないか。最も必要なことは、子ども達が「学ぶことは楽しい。もっと知りたい」と思えるようにすることである。

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