日々の抄

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 事故原因の究明が先ではないか

2010年7月28日(水)

 7月23日,スイスの氷河鉄道と称されるマッターホルン・ゴッタルド鉄道路線のラクスLax =フィーシュFiesch間で脱線事故が発生した。日本人38人を含む計42人がけが。日本人1名が死亡した。この路線はアルプスを時速30キロで走行し食事をしながら展望ができることから日本人に特に人気があるという。私も同時期に旅行を計画したこともあり,場合によっては事故に遭遇したかもしれないと他人事には思えないでいる。
 事故原因の解明は専門家によって進められているが,いまだ明らかになっていない。脱線事故の原因に関係しそうなことは,事故現場は緩い左カーブで数日前に路面の補修工事が行われていたこと,高温の日が続き線路に異常を来したかもしれないことなどの他,車両の欠陥,運転操作ミス,速度超過も影響する可能性がある。  
 脱線した列車の画像を見ると左カーブの外側に車両が転倒している。カーブの路面はカントと称する内側が低く反対側を高くする傾きをもたせるが,これは走行速度と無関係ではない。路面工事で路面の緩みが生じ,適切な傾きを失う可能性はありうる。また,所定のカントに応じた速度を超えればカーブの外側に脱線する可能性を残す。また,事故時にレールが変形していると運転手が証言しているが,その後の調査ではそのことは否定されているが,事故時と同様の温度でなければ高温による変形は証明できない。いずれにせよ,事故車両の前3両は脱線することなく後部3両だけがなぜ脱線したのかの説明は簡単ではあるまい。

 脱線原因に関係するかもしれない事例が日本国内にある。ひとつは2000年,営団日比谷線脱線衝突事故,もうひとつは1963年国鉄(当時)鶴見線で発生した列車脱線多重衝突事故である。これらの事故原因は,乗り上がり脱線(車輪を横に押し出す力による車輪の浮き上がり),競合脱線(車両の問題・積載状況・線路状況・運転速度・加減速状況などが複合原因)とされる。

 驚くことに事故原因が判明しないにも拘わらず,事故後2日目に運行を再開していることである。氷河鉄道の運行会社である Matterhorn Gotthard Bahnによると,「事故後3回の無人の走行検査を行い,時速10キロの走行とする」によって安全は保証されるとしているらしい。日本では原因が明白になるまで運行を再開することは考えにくい。その後氷河鉄道を利用する日本人旅行者は「運行するからには安全なのだろう」などと考えている人もいるらしいが,余りにも無防備に見える。

 約270キロを約7時間半かけた老後の楽しみにしていた旅が死への旅になるなどとは誰も思うまい。一日も早い事故原因究明と運行停止を望む。肝心なのは事故防止である。80年間死亡事故はなかったなどということはなんの説明にならない。たった一度の事故で失われた命を戻すことはできない。事故原因が「競合脱線」などだったら,何の問題解決にもならず,事故防止にはなるまい。

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