日々の抄

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 正義の味方は誰だ

2010年9月26日(日)

 実体のない障害者団体「凜の会」に、郵便料金割引制度の適用を認める偽証明書を作成したとして、厚生労働省元局長ら4人が虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた事件で,元局長の無罪が確定したが,あってはならないことが起こった。検察の担当者が証拠の捏造をした。これは戦後からあった,でっち上げ事件となんら変わることはない,悪意のある冤罪事件である。
 
 元局長が部下の係長に命じて不正が行われたことにするための「検察による筋書き」に矛盾がでないように,大阪地検特捜部主任検事が押収したFDの更新日を書き換えた。そのFDは裁判では証拠品として採用されなかったが,奇っ怪なことに更新日を改竄したFDが元局長の下に返却されていた。これを同僚検事に指摘されると改竄した担当検事は「FDに時限爆弾を仕掛けた。プロパティを変えた」と明かしたという。データを書き換えることで、捜査報告書が公判に出なければ捜査段階の供述調書の補強になると考えた可能性があることを「時限爆弾」と表現したらしいが,当初はFDをいじっている内に誤って書き換えてしまったという幼稚な言い訳をしていたが,日付を書き換えるPCソフトを使って改竄していることは明らかに犯罪行為である。
 
 さらに問題なことは,FD書き換えを当時の上司が承知していたことである。特捜本部長,副部長は検事正に問題ないと伝えていたことから,事の重大さを承知していなかったのか。でっち上げに手を貸していたことになるのではないか。大阪地検の関係者を最高検が取り調べているが,検察が検察を取り調べて正確に事を明らかにすることができるか疑問である。それができるなら今回のような事件は起こるまい。

 刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造した場合,懲役2年以下または20万円以下の罰金刑というが,証拠物件を改竄するという信じられない行為は,正義の味方と思っていた検察への不信はあまりにも大きい。改竄した検事はその職を辞することは当然ながら,永久に法曹界から去るべきである。

 腹立たしい気持ちでいたところ,昨日61年前に起こった「三鷹事件」の再審への報道があった。逮捕された10数名の内のひとりだけが死刑判決を受け,獄中死している。単独犯で列車を転覆することができるか否かを,遺族が証拠を揃えて再審請求するという。当時の下山,松川事件を含め謎があまりに多い事件の一つだが,正当な証拠に基づいた判決だったのか。証拠の捏造がなかったのか。また死刑判決を含め諸事件にも証拠の改竄はなかったのかをも疑いを向けたくなる。

 民主国家の裁判で最低限守るべき事は,正当な証拠に基づいた公正は判断だろう。検察は捜査権を含め強大な権力をもっている。都合にいい偽の証拠を並べ立て,罪なき人をしょっ引いて処刑するのは江戸時代の悪徳与力と何ら変わりない。裁判員制裁判が展開される中,裁判員は検察の出した証拠が本物かどうか疑いを持ったら,裁判員制度は成り立たないことになるだろう。今回のようなことが起こりうるなら,検察をチェックできるシステムが考えられなければなるまい。

 マスコミは,検察がまさかデータ改竄をすると思わなかっただろうが,元局長が犯罪行為におよんでいると報道してきたことは確かであり,報道について検証をしっかりすべきである。「元局長の言い分も報道してきた」のだから問題なし,とはいかない。今回のデータ改竄に気づき指摘したのは,当の元局長だというから驚きである。事件を垂れ流すだけでなく,事件の不自然さ,矛盾点をマスコミが見つけ出せなかったことは,「ウラをとって報道する」という大原則に反しないのか。権力の言うがままに報道してきた戦前戦中の反省はどう活かされているのか。
 
 データを改竄した主任検事は功名心,立身出世の欲から犯罪に手を染めたのか。検察が犯した「悪意のあるデータ改竄」はあまりに罪は重い。
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