日々の抄

       目次    


 未臨界核実験は許されるのか

2010年10月17日(日)

 米国が未臨界核実験を9月15日に実施していたことが判明した。実験は2006年8月以来4年ぶりというが、「核のない世界」を提唱しノーベル平和賞を受賞したオバマ政権下で行われたことが,核廃絶に淡い期待をもっていた全世界の人びとを失望させたことは言うまでもない。実験はロスアラモス研究所がネバダ核実験場で実施したという。
 米国は,核分裂連鎖反応が起きない量のプルトニウムに爆発の衝撃を与え、その動きを調べる内容で、核爆発は起きなかったとしているが,本当に連鎖反応が起こらなかったどうかは外部から判別できないという。
核分裂連鎖反応が起きず,データを収集し、保管中の核兵器が爆発事故を起こさない「安全性」や、実際に使う時に設計通りの破壊力が出せる「信頼性」を維持することが目的だというが,いずれ連鎖反応の起こるデータをとるための実験が許されはずはない。
 目の前で核分裂が連鎖的に起こらなければ、包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反しないとしていることは詭弁にしか過ぎない。日本政府は未臨界核実験を容認していることは被爆国として適切ではない。友好国として率先して抗議すべきである。核兵器を安全に廃棄するための作業ならいざ知らず,こうした実験を行わなければ「保管中の核兵器が爆発事故の防止」が担保できないとするのか。なら一層のこと,一日も早い核兵器廃絶の作業を開始すべきである。自国で世界最大級の核兵器を保有しておきながら,新たな核保有国を増やすな,という論法は通じない。「テロリストに核兵器が渡ったら危険」だから,自国から核兵器は廃絶できないとするなら,永久に核兵器はなくなるまい。できることは,各国の核兵器はすべて日限を切って廃絶し,国連などの国際機関がテロリストに対抗することができるような方法を考えることである。オバマ氏の言論不一致はノーベル平和賞辞退に値する。

 一方で我が国も戦後非核三原則が叫ばれているときに,近隣諸国からの脅威に対抗するため,核保有を検討していたことが明らかにされている。信じがたいことだが,当時関係していた官僚のひとりがNHKの取材に対し「自国を守るために核保有を考えてどこが悪いのか」と証言していることはショッキングである。非核三原則が対象となってノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相も,米国との密約が明らかになり国民への背信行為が明白になったことを考えれば,これも受賞辞退に十分値することである。

 ノーベル平和賞は多分に政治的である。物理学,化学賞のように30年も40年も前の成果を対象とした受賞はその後に与えた影響も考えてのことなのだろうが,平和賞もそうした配慮が必要に感じる。国民や,世界市民を裏切る行為が平和賞に値するなどと誰も考えまい。

<前                            目次                            次>