日々の抄

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 元日の社説を読んで

2011年1月2日(日)

 新しい年が明けた。政治の混迷,近隣諸国との軋轢,生活不安が日本列島を覆っている。自ら命を絶つ国民が3万人にもいる現状が最小不幸の社会と言えるのか大いに疑問である。元日の各紙の社説はそんな現状に対しどのような見解を持っているか。概観してみる。

朝日 「今年こそ改革を―与野党の妥協しかない」
 『党利党略に堕し混迷している政治の現状へのやりきれなさが社会を覆っている』とし,『現役世代の減少が日本経済の長期低迷の根底である』としている。だがそれが『人類の歴史で初めて体験する厳しい事態といっていい』としているが,「人類」でなく「日本国」の間違いではないのか。
 政権与党に対し『ムダ退治と予算の組み替えで、財源はいくらでも出てくる。そう言ってあれもこれもの公約を掲げ、民主党は政権交代を実現したが、財源が空手形だったことは隠しようもない。甘い公約は疑い、苦い現実を直視することが大切であることを、国民も学んだ』とし,『公約を白紙に戻し、予算案も大幅に組み替える。そうした大胆な妥協へ踏み出』し,『政権交代の可能性のある両党が協調する以外には、とるべき道がないではないか』としている。現状の危機の脱出には『税制と社会保障の一体改革、それに自由貿易を進める環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加。この二つを進められるかどうか』としている。

 人口の年齢構成,現役世代の減少が憂慮される事態になることは何年も以前に想定できたことである。「甘い公約は疑い、苦い現実を直視することが大切であること」をマスコミは検証してきたのか,などを考えると,マスコミは政治のチェックをする使命をもっている意識はあっても,最近は評論家化しているきらいはないのかと思わされる。

毎日 「扉を開こう 底力に自信持ち挑戦を」
 『日本を元気にするために、次の課題について一刻も早く道筋をつける必要がある。
(1)経済の再生と地方の活性化。日本の創造性と魅力(ソフトパワー)を鍛えること。(2)安全保障と通商の基盤の確立。日米同盟を揺るぎなくする一方で日中関係を改善すること。(3)少子高齢化による人口減の打撃を最小限化する対策。子育てにも若者にも最大限の支援をすること。(4)消費税増税を含めた財政再建、社会保障、高齢者介護の立て直し。(5)人材育成と教育の再建。創造的で人間的な力のある若者を育て科学技術や文化の振興をはかること。』とし,これらを実行するために,版元蔦重の働きかけが歌麿,写楽を世に登場させた如くして何らかの仕掛けが必要であるとしている。
 内容が饒舌で散文化して時間に追われて論述した散漫な感を持たされる社説である。

読売「世界の荒波にひるまぬニッポンを 大胆な開国で農業改革を急ごう」
 『民主党主導の日本の政治の舵取りは国の沈没の危険の不安を感じさせる』からはじまり,現状分析として,近隣諸国に対する外交力の劣化と安全保障の弱体化を憂える。また,『食糧安全保障の観点から、主要農産物の自給を確保することは重要だが、農業が開国を妨げ、日本経済の足を引っ張るようでは本末転倒』としている。
 提案として,『自国の安全は自らが守る決意と、それを裏付ける防衛力の整備という自助努力の上で、日米同盟関係を堅持し、強固にする』,『消費税率上げは不可避』,『暫定的な連立政権の構築の模索』
などである。連立政権構想は,福田内閣時代に読売社主が働きかけ頓挫したときからの念願なのだろう。
また,『日本の農業総産出額は8兆円余り。その中でもコメは1.8兆円で、国内総生産(GDP)の0.4%に過ぎない。…・農業が開国を妨げ、日本経済の足を引っ張るようでは本末転倒になる』とするなら,米農家が立ちいかなることが自明であることに対する提案まですべきである。車,家電製品を有利に輸出するため農業が犠牲になってきたことをどう考えるか聞きたいところである。

東京「年のはじめに考える 歴史の知恵 平和の糧に」
 論調を近隣諸国との関わりに絞って明快である。『二十一世紀のアジアで経済発展が軍備拡大とナショナリズムの台頭を招き、米欧や周辺国と摩擦を強めているのは中国です』とし,歴史学者の朝河貫一について記している。『日露戦争を韓国、満州を支配し外国を締め出そうとするロシアと、領土を保全し市場開放を目指す日本の戦いと描き、日本に対する支持を訴えました』と述べつつ『「日本もし不幸にして清国と戦い」「米国と争うならば」「文明の敵として戦う」ことになると警告しました』としている。
 また『中国に懸念を表すだけで対話や協力を求めるのを怠れば、中国は軍拡で対抗するでしょう。ましてや、中国に対するナショナリズムをあおるなど感情的な対応は百害あって一利なしです。むしろ、世界の潮流に背き国の破滅を招いた痛苦な体験を持つ「先輩」の日本が中国に助言できることは少なくないはずです。日本は第二次世界大戦の惨禍から学んだ人類の知恵ともいえる「戦争放棄」を盛り込んだ憲法九条を擁し「核なき世界」を先取りする「非核三原則」、紛争国に武器を輸出しないと宣言した「武器輸出三原則」を掲げてきました』とし,「力には力」の考えを諫め日本の進めるべき方法を提案している。
 大局的な論調に好感は持てるものの,毎年元日の社説に記されてきた,働く者の苦しみ,将来への不安などについて述べられてないのには意外な感をもった。

 最近の新聞をはじめとするマスコミの論調は,「財源がないから消費税を上げることやむなし」,「TPP参加は国是」などとしているが,あれだけマスコミが騒ぎ立てた「天下り」はなくなったのか,マスコミとしての検証をしてきたのか。TPPが国是なら,ますます食料自給率が低下することへの危惧をどう考えているのか,これらに対する見解を知りたいと思う。批判や評論は安物のコメンテーターでもできること。マスコミはもっと大局的な検証,論調を国民に示すべきではないか。

 
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