日々の抄

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 大本営発表の如し

2011年5月23日(月)

 福島原発は一向に冷温停止という安心できる状態に至ってない。最近になって気になることが沢山出てきている。その殆どは,すでに判明していたことがなぜ今になって公表されるのかという疑問である。

 なぜ,今になって16日に地震直後の「当直員引き継ぎ日誌」を公開したのか。
  これらはとっくに公表できたはずである。1号機の原子炉建屋については3月11日午後9時51分、「入域禁止」と日誌に記載され,緊急時の冷却が約10分で止まっていたことが分かったと発表。東電は、1〜3号機のデータからは、津波による電源喪失の前に地震の揺れで配管が破断し、炉心から大量の冷却水が失われたような兆候はみられなかったとの見解を示している。1号機では地震発生から間もない3月11日夜には既に原子炉建屋内が高い放射線量だったことが分かり、津波襲来以前に原子炉の重要な設備が地震の揺れで損傷していた疑いが浮上しているという。
   また,東電は17日、6日に撮影された福島第一原子力発電所の映像を公開。映像には、津波の影響で圧力抑制室に水を供給するタンクの海側や下の部分がへこみ、近くには、津波に流された乗用車が横転している様子が映されていた。1号機からおよそ500メートル離れた事務本館の近くには巨大な重油タンクが流れてきている様子が記録されていた。
   これらは,津波による被害なら想定外の人災と詰られ,地震なら天災が原因だから仕方ないだろうと言わんばかりの報告である。この映像は東電の協力会社によって提供され最近になってその存在が判明したために公表が遅くなったと弁明している。

 なぜ,1号機の冷却が遅れたことの事実関係が交錯しているのか。
 1号機では、地震発生の翌日に水素爆発が起きた後、原子炉を冷やすために海水を入れる作業を始めたが,作業開始後まもなく、海水の注入を1時間近く中断していたことが明らかになっている。東電は「運転員が止めたとしてもその判断は責められない」としたが、非常用復水器を動かし続ければ燃料の損傷が遅れ、爆発の原因となった水素の発生を抑えられた可能性があるという。非常用復水器による冷却システムはその後、断続的に動いた形跡があるという。官房長官は17日、東電が1号機に津波が来る前、冷却水を原子炉内に注入する「非常用復水器」を手動で止めていた可能性を示すデータを公表したことについて「報道で初めて知った」と不快感を示しているが,東電はそれまで復水器停止は津波が原因と説明してきている。
 東電は「総理大臣官邸で『海水を入れると核燃料が再臨界を起こす危険性がある』という議論をしていると聞いたためだ」と説明。官房長官は22日、「少なくとも私自身の認識では、東電がやっていることを止めたようなことは一度も承知していない。何度も、『なぜ早くやらないんだ』と催促したことは知っているが、逆方向のことは、一切ない」と述べ、総理大臣官邸から海水注入の中断を指示したことはないという認識を示している。
 政府・東電統合対策室は21日に,12日午後7時過ぎに注入を始めたのも中断したのも東電の判断によるもので、その事実を官邸は最近まで知らなかったとしている。中断が冷却作業に与えた影響について原子力安全・保安院は「現時点では分からない」としている。
 複数の政府関係者によると、東電から淡水から海水への注入に切り替える方針について事前報告を受けた首相は、内閣府の原子力安全委員会の班目委員長に「海水を注入した場合、再臨界の危険はないか」と質問。班目氏が「あり得る」と返答したため、首相は同12日午後6時に原子力安全委と原子力安全・保安院に対し、海水注入による再臨界の可能性について詳しく検討するよう指示。首相が海水注入について懸念を表明したことを踏まえ、東電は海水注入から約20分後の午後7時25分にいったん注入を中止。その後、原子力安全委から同40分に「海水注入による再臨界の心配はない」と首相へ報告があったため、首相は同55分に海江田経産相に対し海水注入を指示。海江田氏の指示を受けた東電は午後8時20分に注入を再開した。その結果、海水注入は約55分間、中断されたという。
   これらの事実関係がいかなるものか不明だが,自民党の谷垣総裁は21日、首相の意向により、海水注入が中断されたとして,「その事が事態の初動を遅らせたとすれば、人災と言わねばならないのではないか。よく検証しなければならない」と述べ、週明けの国会審議で徹底追及する方針を表明しているが,自分に都合のいいことだけ鵜呑みにしている感を否めない。縦しんば首相に然るべき判断があったとしても,原子力の専門家でない首相が判断を専門家の長である斑目氏に聞いての決断なら,谷垣氏はなぜ斑目氏に問うことをしないのか。為にするための攻撃ではないか。いずれにせよこの点は東電と政府の見解が異なることは不可思議である。

 なぜ,東電はメルトダウンという言葉を使いたがらないのか。
 「メルトダウンが、炉心の形状を維持せず、圧力容器の下に崩れ落ちているというのであれば、それで結構」として東電は1号機の状態について、初めてメルトダウンであることを認めたが,この発言は甚だ腹立たしい感を強くしないわけにいかない。まるで,他人事のように聞こえ,技術評論家が冷ややかに語っているように聞こえてならない。東電および原発を推進してきた原子力行政関係者は,福島原発の大事故でどれほどの人々が苦しんでいるか理解しているのか。自分が原発のために漁ができなくなった漁師に,農耕地が農耕に供さなくなったと断じられた農民に,愛情を注いで育てた家畜が避難地域にあり餓死した姿を見た酪農家に,親の勤務のために家族が各地にばらばらに居住せざるを得なくなった住民に,体が不自由で身動きをとれない老いた親と別れ々にさせられた家族に,入学が決まっていながら進学先の校舎を失われた高校生になったらどうか,という想像力を働かせることができないのか。少しでも痛みの分かる人物なら「・・・で結構です」などという言葉は出てこないだろう。今回の事故後、原子力安全・保安院は「燃料が溶けて下に落ちる状態」をメルトダウンと定義したそうである。

なぜ,政権を放棄した前首相が政権を批判できるのか。
 民主党の鳩山前首相は21日、福島第一原発事故について、「想定が十分できる範囲の事故だったにもかかわらず、いまだに放射能流出を完全に止めることが出来ていない。事実も必ずしも国民に明らかにされておらず、政府の責任を大変重く受け止めなければならない」と述べ、菅政権の対応を重ねて批判しているが,自分が政権に関与できない遠吠えにしか聞こえない。側面で援護する努力はできないのか。沖縄問題で国民に背信行為をし,議員を続けるの続けないのと迷走している人物の発言を取り上げる価値があるのだろうか。鳩山氏は原発使用が減少した場合,2009年に国連総会で声高に宣言したCO2の25%削減をどのようにしたらいいかを考えたらいい。

なぜ,国産ロボットが実用に供しないのか。
 原発事故での使用を想定し、国の予算30億円で開発・製造された遠隔操作ロボットが、東京電力などが「活用場面はほとんどない」と判断したために実用化されなかったそうである。予算が逼迫し,その日の生活にも窮している国民が多くなっている昨今を考えれば30億円がどれほどのものか。責任は当然問われるべきだろう。それにしても放射線量が多すぎてロボットの登場が期待されて然るべきだが,福島原発に登場したのは米国製のロボットというのはどういうことなのか。大学や研究機関で歩行したり,楽器を演奏したり,スポーツをすることができるロボットを見たことがあるが,日本のロボット研究は人命を助けることはできないのか。遊びのレベルの研究なら趣味でやればいいこと。ロボット開発はすでに長い年月が経過しているのではないか。歯がゆい限りである。

 なぜ,震災対応が不適切として倒閣を訴えているのか。
 震災対応が不適切として首相を辞任に追い込むつもりがあるなら,自公民および与党民主党の反菅派ないし小沢支持派は今までの原子力行政の非を頭を垂れて国民に陳謝し,これからの日本の電力供給をいかに計画し実行できるかの積極的な内容を示すべきである。具体的な対案がなくしてただ,倒閣だけを叫んでいる国会議員は自己顕示だけしたい我が儘者しかすぎない。対案が妥当なものであるなら国民は支持するはずである。現状ではそうした内容は全く示されてないのではないか。今は震災対応を与野党関係なく力を合わせて行うべき時である。首相が信用できないから復興対策に参加できないなどと言っている政党を国民がどうみているかよく考えてみるといいだろう。いまは正に「急な流れに船を変えるべきでない」時なのだ。倒閣は震災対応が一段落し,原発が冷温停止してから大いにやればいい。
 一方で,西岡参院議長はあからさまに菅首相のすべてがダメであると断じ,直ちに辞職せよと訴えているが,自らが参院議長であることを認識しているとは思えない暴挙である。小学生でも知っている三権分立の原則から考え,そのひとつの長たる参院議長が一方の長である首相に辞任を繰り返し訴えている異常さは信じがたい。もしさらにその主張を続けたければさっさと参院議長を辞すべきである。西岡氏は常軌を逸している。
 首相が褒められるような震災対応していると思えないまでも,自民党幹事長は「首相には人間として問題がある」としている。いかに自由主義国家での発言は自由といえど,発言者の人格を疑う言葉には問題がある。悪あがきに聞こえて仕方ない。人間として問題があるのは東日本震災を「天罰」などと言った幹事長の父親の方ではないのか。

 いずれにせよ,東電,政府の原発に関する公表は,かつての大本営発表に似ている気がして仕方ない。意図的としか思えない東電の情報提供を見ると,本当はもっと怖ろしい事実が後に発表されるのではないかと思わされる。福島原発の事故は人類が初めて経験するものである。試行錯誤も必要だろうが,日本だけで問題解決せず他国にも大いに依頼すべき事は依頼すべき時が来ている。仮設住宅に一日も早く入居したいと願っている人の希望が叶えられるよう願っている。だが,仮設住宅は夏期は冷房がなければ蒸し風呂に,冬期は寒さ対策,室内の凍結対策を今から備えておかなければなるまい。
 東電の社長は辞任して責任をとるつもりだそうだが,辞めて責任回避になっても責任をとったなどとは到底思えない。敵前逃亡の感は否めない。首相は風雪に耐え辞せずして責任を全うすることを願う。

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