日々の抄

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 安心して飲める茶はいずこ

2011年7月3日(日)

 東日本大震災が発生してから4ヶ月近く経過したが,事故を起こした福島原発は冷温停止にいまだ至ってない。事故発生以来長い時間が経過してから,特定の地域に多大な放射線量を観測していたことなどを含め,「新たな事実」が発表されたことから,いまだ国民に知らされてない怖ろしい重大な事実が隠されているのではないかと疑いがもたれている。「国民にパニックを起こさないために知らせなかった」などと東電,政府に考えがあるなら,思い上がり以外の何ものではあるまい。

   最近になって原子炉の水素爆発のような突発的な放射線量の増加は見られないが,メルトスルーなどという考えられない事態が引き起こす「本当のこと」が重大な事態を引き起こすのではないかとの不安から逃げることはできない。
  我が家に最も近い位置の文科省発表による空気中の放射線量は関東地方で最も低く安定している。以前は降雨によって放射線量が増加したが,最近はそうしたことはない。ところが,その放射線量を測定する高さがそれぞれ異なることを知ると必ずしも安心はできない。前橋市の測定値は高さ21.8mという。日常生活に最も関係しているのは地表近くであり,最近になって地上1mの値が報じられるようになってきた。その値は高さ21.8mのおよそ3倍程度である。各県で測定する高度が異なるから,より地上に近い値で判断しないと意味はなさそうである。

  私の居住している前橋は福島原発から約200キロの位置にあり,とりあえずは心配せずにいられると思っていた。ところが6月30日の新聞が「荒茶からセシウム 桐生産 規制値超、出荷自粛へ」と報じた。桐生市は前橋から東におよそ30キロ先にある。同市の荒茶一キログラムあたり放射性セシウムを1010ベクレル検出した(暫定規制値一キログラムあたり500ベクレル)。県は五月下旬に同市産の生茶を検査し、放射性セシウムは暫定規制値以下だった。生茶と、生茶を乾燥半加工した荒茶で同じ暫定規制値を使用することが妥当かどうかで国の判断が分かれていたが、5月27日、安全検査を荒茶で行うという国の方針が示され、県も今回の検査を行った。
  その桐生市で幼稚園児が恒例の茶摘みをしていることが5月20日の地方紙に報じられていた。「元宿浄水場で園児が茶摘み・桐生」というもので,同市元宿浄水場で恒例の茶摘みが行われ,地元の保育園や幼稚園児、お年寄りら約180人が参加。ヤブキタ茶の木から新芽や若葉を丁寧に摘み取り,6月に行う浄水場の一般開放で来場者に振る舞われているという。
  また,県内では5月26日にわが家から北に20キロほどにある渋川市子持地区で採取した生茶葉から暫定基準値を超える780ベクレルの放射性セシウムが検出されたと報じられている。

  茶葉については以前,福島原発から300キロも離れている地域でも暫定基準値を超える値が測定されている。
  5月9日,東京板橋区内の茶畑で、区立小3校の4〜5年生が参加して茶摘みをした。区の検査の結果,製茶した一番茶から放射性セシウム134が1キロ当たり1300ベクレル、放射性セシウム137が同1400ベクレルの計2700ベクレル検出されたという。
  5月11日,神奈川県は同県南足柄市内で採取した茶葉から放射性セシウム570ベクレルが検出されたと発表。茶葉のサンプルを採取したのは9日で,1回目の検査で550ベクレル、別のサンプルで調べても570ベクレルだったという。
  5月19日,栃木県では鹿沼市と大田原市の生茶葉から放射性セシウムが検出されたと発表。17日に採取した生茶葉から、放射性セシウムが鹿沼市で1キログラムあたり890ベクレル、大田原市で同520ベクレルが検出されたという。
  5月20日発表によると福島県塙町930ベクレル、茨城県城里町1030ベクレル、同県坂東市830ベクレル、同県茨城町822ベクレル、千葉県八街市985ベクレル、同県大網白里町751ベクレル、宇都宮市610ベクレルなどであった。
  6月9日,静岡県は静岡市葵区の茶工場が生産した「本山(ほんやま)茶」の一番茶の製茶から、679ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。
  6月21日,神奈川県は、「足柄茶」の最大産地の山北町など3市町の一番茶の乾燥茶葉(荒茶)から、山北町産が1250ベクレル、相模原市産が1290ベクレル、松田町産1140ベクレルが検出されたと報じた。

 他の野菜についても茶葉と同様に放射性物質がどれほどの影響を与えているか。原発から300キロも離れた地域にも深刻な影響を与えていることは国家的問題である。この期に及んでも「原発は必要である」などと唱えている政治家の発言は信じがたい。

  我が家では家庭菜園で野菜を栽培している。群馬県産のほうれん草が出荷自粛していた頃,ブロッコリーを食べるに躊躇があった。茶葉のように栽培時期になって放射線量が問題になることを考えると,収穫前の馬鈴薯,隠元,トマト,キューリ,ナスをはじめとする野菜を果たして安心して口にしていいものなのか不安は否めない。すべては人体実験にしか過ぎない。
  国にすべての地域のすべての食物について,「これは安全」などと断言できる根拠の持ち合わせはなさそうである。
  ただ,茶についてだけ考えれば,荒茶での放射線量でなく,お湯をさして飲む段階での多量の湯で希釈された状態での放射線量の安全を判定材料にすることが妥当なのではないか。
  茶の廃棄を余儀なくされる専業農家を考えると,「がんばれ東北」だけでは済まない。廃棄した放射線に汚染されたとされる茶はどこに廃棄されるのか。各地から輩出される放射線に汚染された汚泥はどこに廃棄すれば次の世代まで安心できるというのか。

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