日々の抄

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  本当に安全なのか

2005年10月06日(木)

 BSE(牛海綿状脳症)確認以降、輸入停止となっている米国産とカナダ産牛肉の「生後20カ月以下の牛に限って検査なしで輸入することの安全性について」食品安全委員会のプリオン専門調査会が10月4日、「食肉への汚染の可能性は、非常に低い」と評価する方向で大筋合意した。11月にも、同委員会として正式な結論を出すという。

 本年5月に安全性について政府から諮問された同委員会のプリオン専門調査会でこれまで7回審議してきたが、10月4日の審議では、安全性の評価をまとめた座長案をもとに、検査なしで輸入した生後20カ月以下の米国産、カナダ産牛肉と国産牛肉の病原体の汚染度について比較した。その内容は「米国、カナダの飼料規制に不備があり、長期的にみるとBSE感染牛は今後も発生すると指摘。20ヵ月以下のBSE感染牛が日本では今後年間1〜2頭、米国では32頭、カナダでは22頭出ると推計」した。しかし、日本に比べて飼育頭数が米国は約20倍、カナダが約3倍のため、100万頭あたりの感染牛は米国の方が「日本よりやや少ない」、カナダは「日本と同等」と分析。輸入対象の20カ月以下では病原体が検出されにくく、病原体がたまる脳や脊髄などの特定危険部位もすべて除去されるとすると、米国産、カナダ産牛肉の汚染は「非常に低い」と評価した。

   同委員会プリオン専門調査会委員の品川森一・動物衛生研究所プリオン病研究センター長が、BSEの全頭検査緩和を容認した報告書のまとめ方に不満を持ち、昨年12月に同委員会の寺田雅昭委員長に辞表を提出しようとしていたことが7月27日判明している。品川氏は報告書をもとに政府が検査対象を生後20カ月で線引きする案を示したことを批判。

 政府は、同調査会が昨年9月にまとめた報告書を受けて翌月、生後20カ月以下の牛を検査から除外する案を同委に諮問、日米政府はこれが認められることを前提に若齢牛の検査なしでの輸入再開を基本合意した。20カ月以下をどう区別するかについて、米国側は、肉質による判定や出生証明で十分可能としていた。日本側には、米国の月齢の判別方法やBSE対策の徹底に疑問もあったが、政府の諮問はこうした対策が守られることが前提になっていた。

しかし8月15日、米農務省はBSE対策である特定危険部位の除去手続きをめぐり、04年1月から05年5月までに1036件の違反があったことを明らかにしている。同省は、違反がわかった場合には是正措置を取らせたとして「危険部位は消費者に届いていない」と説明している。違反事例の中には、牛の年齢を区別しないで処理したり、除去に使った道具や装置の洗浄が不十分だったりする例があったという。

 米国では03年12月に初のBSE感染牛が確認された後、牛肉加工業者に対し、原因物質がたまる脊髄や脳といった危険部位を生後30ヵ月以上の牛から除去する手続きなど新たな規制を導入したというが、こんなことがあって信頼に値すると言えるのだろうか。牛肉に印が付いていることはない。はたして大丈夫なのか。

米政府が06年1月に小泉首相を公式招待する方針を固め、日本政府と日程の調整に入ったという。BSEの発生以来、日本が03年末から止めている米国産牛肉輸入の再開にもメドをつけたい考えのようだ。米国の関係者の不満は当然なのかもしれないが、牛肉の安全を政治の判断で行っていいものなのか。あくまでも国民の食の安全は科学的でなければならない。

10月3日の報道によると、『「外食産業政治研究会」(ファミリーレストランなど外食産業約800社で作る日本フードサービス協会の政治団体)が昨年までの3年間で、農林族を中心に国会議員や議員候補者に総額約3500万円を献金していた。同会が総務省に提出した政治資金収支報告書によると、献金は02年が国会議員20人余に計約830万円。03年は26人に計約860万円のほか、衆院選の陣中見舞いで国会議員ら14人に計約920万円を支出した。04年は1人あたり6万〜100万円、計32人に約890万円を献金。04年9月末に農水相に就任した島村宜伸氏、農水相経験者の中川昭一や武部勤、大島理森、羽田孜の各氏のほか、農水政務次官や農水副大臣経験者など農林族を中心に献金していた。』という。こうした関係企業からの政治献金が、内なる圧力になって食の安全に関わる結論を早めないことを願わずにいられない。

 米テキサス大などの研究チームが、BSEや変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の原因となる異常プリオンを血液から検出する技術を本年8月開発した。異常プリオンは体内に入ると正常プリオンを異常型に変え、脳や脊髄などにたまる。血液に含まれる量はわずかなため、検出が難しかったが、試験管内でたんぱく質を1000万倍に増やすことに成功したためで、プリオン病の早期診断や拡大防止に役立つと期待されるという。ハムスターを使った結果だというが、牛にも有効なら殺さず短時間に診断が可能になると期待されている。

 米国の月齢の判別方法が信頼に値するか、病原体がたまる脳や脊髄などの特定危険部位もすべて除去されるとする前提が徹底できるか、現段階では「安全だ」と言えるのだろうか。「長期的にはBSE感染牛は今後も発生する」と指摘しておきながら、なぜ輸入が再開されようとしているのか大いに疑問である。確率的にはゼロに近いなどといっても、自分の口に入ったものが例外であるなら、死も覚悟しなければならない不幸が待っているだけだ。短時間にBSEを診断する方法が確立しつつあるのに、なぜ輸入再開を急ぐのか。「食肉への汚染の可能性は、非常に低い」ということは、汚染もありうるということだろう。政治家が輸入再開を政治的判断したとしても、国民が口にしなければそれまでであり、強烈な食の安全に対する意思表示だろう。いままでの輸入再開への経緯を考えると、安全だと宣言しても安心ではなさそうだ。

輸入が再開され、おいしそうに牛丼を食べて喜ぶ人がいるだろう。不幸にして安全の例外に該当しても、それは最近の日本人が好む「自己責任」だろう。起こってほしくないBSEの汚染が起こったなら、米国産とカナダ産牛肉の輸入再開を政治的判断した政治家の責任はあまりに重い。

 私は命がけで牛丼を食べたいとは思わない。

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