日々の抄

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 そんなに急いでどこに行く

2011年7月26日(火)

  恐れていたことがとうとう起こってしまった。中国の高速鉄道網のあまりにも短期間の実施には安全性の確保がなされているのか以前から不安を感じていた。中国浙江省で23日夜に起きた高速鉄道の追突・脱線事故で,高架から転落した4車両の乗客を含む35人が死亡、けが人は192人に達したという(7月25日現在)。
 事故は午後8時38分(日本時間午後9時38分)に発生。落雷による停電で緊急停車していた浙江省杭州発福建省福州行き高速鉄道D3115号(カナダの技術供与による車体)に北京南発・福州行きD301号(日本の技術供与による車体)が追突した。双方の列車とも16両編成で、合計6両が脱線、うち追突した4両が高架橋から落下した。乗客は合計千数百人とみられ、死傷者数もまだ混乱している。ATS(Automatic Train Stop)が正常に動作しなければ今後も同様の事故は発生し続けるに違いない。前方に停止している車両を確認できず,停止できない鉄道ほど危険なものはない。
 この事故でいくつかの疑問を感じる。なぜ安全面を確保せずに急いで高速鉄道網を作らなければならなかったのか。中国国家指導部の威厳を示すためと考えれば納得できるが,事故が発生した場合の信頼失墜の方がどれほどリスクが高いか考える余裕はなかったのか。第二に疑問なのは事故車両が高架からぶら下がっている状態から強引に地面に引きずり落とし,待ち構えたように重機で「地面に埋めた」ことである。日本では事故が発生すれば同様の事故を防止する観点からも,事故車両の詳細な検証と事故原因の追及のため証拠物件は原因が究明されるまでは保存されるだろうが,中国での一連の行為は,臭いものには蓋をするという言葉がぴったりの行為である。証拠隠滅と言われても否定はできまい。事故車両には遺品が残されている可能性も十分あるだろうことを考えれば,地面に埋めるなどという行為は考えられない。当局は早期の幕引きを図りたいらしいが,24日夕追突されて高架橋にとどまっていた列車の最後尾車両で,救助隊員が車体を解体しながら遺体を収容した際,女児を事故発生から約20時間ぶりに救出したという。生存者の確認をしないまま車体を解体するなど考えられないことである。
  さらに,事故発生から現場復旧に時間を割き,半日後には運転を再開していることは信じられない。原因も明らかになっておらず,落雷が原因の説もある中,前方に停止している車両の確認もできない列車に事故後も乗っている人々の気が知れない。落雷による停電が事故の原因ということなら疑問がある。追突した列車は停電なのになぜ走行できたのか。
  鉄道省の報道官は24日深夜、現地で会見し,中国の高速鉄道は「開業から日が浅く、安全面を含む多くの新たな試練に直面している」と認めながらも「技術には依然として自信があり,先進的だ」としているが,死者を多数出しながら,「自信のある技術」とはいったい何なのか。国家のメンツばかりを重んじ,人命を軽んじているとしか思えない国家を信じるわけにいくまい。国家を信じ,事故で亡くなった人々に全く罪はない。
   中国の高速鉄道は日本,カナダ,ドイツなど多国の技術に学んで中国が開発した技術だそうだが,それをもって世界各国に特許を申請しているというから信じられない。安全軽視が特許内容なのか。日本は新幹線技術の特許は外国には出してないそうだ。人命軽視の営利主義にしか見えない技術ほど危ういものはない。
  中国情報関係機関はすでにマスコミ関係者に情報統制を思わせるメールを送っている。「中国高速鉄道は世界一速い棺おけだ」と批判する人民の口に蓋はできまい。同様の悲劇が再び起こらないことを祈るのみである。
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