日々の抄

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 国民は騙されない

2011年12月20日(火)

 16日,首相が東京電力福島第一原発の事故収束に向けた工程表ステップ2(冷温停止状態の達成)の終了を宣言した。首相は記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と事故収束を宣言した。その根拠は,「1〜3号機の炉の温度は9月下旬以降100度を下回り、今月15日現在は38〜68度だったと報告。放射性物質の外部への飛散も毎時6千万ベクレルで、事故時の1300万分の1に減少。発電所の敷地境界で追加的に被曝する線量も最大年間0.1ミリシーベルトと、目標の年間1ミリシーベルトを下回った」というものである。
 原発の「冷温停止」とは核燃料棒が冷却用の水の中にあり100度以下の通常の安定的状態をいうが,東電および政府の言う「冷温停止状態」はこれとは異なる。つまり,「原子炉圧力容器底部の温度が約100度以下であり,放射性物質の放出抑制・管理ができていること」であり,「状態」の言葉を附している点が「冷温停止」と異なることに注意をしなければならない。

 首相は「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」としてあたかも原発事故が安全な状態に至ったかのように思わせているが,事故終息宣言の翌17日に福島第1原発1号機の使用済み核燃料プールの冷却装置から水が漏れ,一時的に冷却が停止したと発表されている。これは放出抑制・管理ができていることに反する。
 また,(1)メルトスルーがあったとされる現状で核燃料が合計6千万ベックレル/時もの放射線を振りまきながらどのような状態であるか分からず,格納容器下部に温度計がない状態である。
(2)「原子炉圧力容器底部の温度が約100度以下」としながら,16日の東電の記者会見で2号機内で100度を超えている箇所が指摘されている。つまり,圧力容器ヘッドフランジ100.8℃,3RV漏洩118.7℃,101.4℃,CRDハウジング下部391.6℃と報告されている。
(3)1日に200〜500トンもの地下水が流れ込んで溜まり続けている汚染水が約19万トンにもなっている。

 こうしたことから今回の事故終息宣言は,政治的なパフォーマンスとしか思えない。原子炉内に100度を超える箇所があること,400度近い箇所があることをほとんどのマスコミが伝えてないのはどういうことなのか。メルトスルーが起こっているのに冷温停止状態などと言えるはずはない。ドイツのシュピーゲル紙が伝えている「Irrefuehrung=ごまかし」にしか思えず,膨大な地域の除染が行われなければ居住できないこと,福島県に限らず近県を含んだ農産物,魚介類の放射線汚染がいまだにあることを考えれば,事故が収束に至ったなどと思っている国民はいないだろう。
 
  今回の事故終息宣言は「危険な状態が安定的に続いている。格納容器の爆発の様な甚大な被害を与えることは当座なさそうだ」という程度であり,事故が収束してないことは確かだろう。事を急ぐばかりに日本国内のみならず国際的に信頼を失うような拙速は避けるべきであり,かつての大本営発表の気配がある。戦中の大本営発表の時代と違って現在の国民はお上の言ったことを鵜呑みにするほど愚かでないことを知るべきである。 

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