日々の抄

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 受験生の立場に立て

2012年1月22日(日)

  14,15日大学入試センターテストが行われた。一部の試験方式が変わることから混乱が危惧されていたが,全国で初歩的な誤り,変更点の周知徹底がなかったためと思われる手違いが多数あった。それらの多くは最高学府と呼ばれている大学関係者のお粗末さを露呈したと言えよう。

  今回から、「地理歴史」と「公民」は全10科目から2科目を選び、計120分で解答するよう変更された。本来ならば最初に「地理歴史」と「公民」の両方の問題冊子を配布するべきだったが、「公民」を配らないなどのミスが相次いだ。
  大分県立看護科学大で第1解答科目終了後に「公民」の問題冊子を配布。最初に本来第2解答科目とするはずだった「日本史」を解き、次に「倫理」を解答。希望と逆受験となり2科目終了後、試験官が誤配布を告知し、本来と逆になった受験生は申し出るように指示し別室で第1解答科目の「倫理」を、「日本史」を第2解答科目の解答用紙に、約20分かけてそれぞれマークし直しなおした受験生がいた。関西学院大B号館では、冊子を間違いなく配布するため開始時間が10分繰り下げとなり、1会場では全国最多となる270人の受験生に影響が出た。筑波大,北海道大などでは1冊しか配らず,受験科目の確認で手間取り試験開始が遅れた。北海道教育大では,最初「地理歴史」「公民」2冊の問題冊子が配布されたが受験生から「2冊配布していいのか」と問われて1冊回収した。この他にも説明に時間がかかりすぎて開始時間を遅らせた大学が複数あった。
  気仙沼高校で、英語のリスニングで必要なICプレーヤーが、200台不足し、試験開始が2時間ほど遅れた。

  試験の公正さを疑わせる事象もあった。15日に行われた理科で,第1科目と第2科目の試験時間の間に設けられた解答用紙の回収配布を行う10分間に、トイレなどに集団で退出する受験生が相次いだという。マニュアルでは、中の10分間は原則としてトイレに出ることは禁止されているが、受験生が手を挙げてトイレ退出を求めた時は、受験番号を控えたうえで試験監督が付き添ってトイレの前まで同行することになっていたものの,想定以上にトイレ退出を希望する受験生が出て、付き添うことができないケースが相次いだという。大阪市立大では「同じ学校の受験生が2、3人ずつ連れだって出て行き,第1科目として既に解いた友達から、自分がこれから解く第2科目の答えを聞くことも可能の状態だった」という。
  地歴公民では,時間が延長されていなくても、試験開始時間を遅らせたケースなどを含めると、影響を受けたのは計7515人に上った。
  この他,群馬大学では近隣のカラオケボックスからと思われる雑音が試験会場に流れ受験生がざわついたという。佐賀大では難病で別室受験していた受験生が職員の案内ミスで1時間以上遅れて問題が配布されるまでの間、この生徒に職員が何度も「なぜこの教室にいるのか」などと質問していても放置されていたという。

  採点に関係しないと言うが,「地理B」の設問で使われた世界地図。沖縄本島や千島列島の一部、地中海の島々などが欠落していたという。他にも理科総合B,数学2・数学B,地理B,外国語の韓国語などで訂正が計6カ所あったという。複数人による問題点検はないのか。

  21日,「地理歴史」・「公民」の問題冊子の配布ミスで、希望者への再試験が行われた。受験したのは、対象者約3500人のうち212人だった。この内、川越市の東京国際大でいったん受験を断った男子受験生1人を、約4時間遅れで受験させるトラブルもあった。この受験生は21日午前9時頃、同大を訪れたが、事前に再試験の希望を明確に示していなかったとして同大はセンターの指示に従い、「受験は認めない」と受験生に伝え受験生は一度帰宅したが、同11時頃、センターは理事長の判断で、「再試験を認めるべき」と対応を一転させ、同センターは男子受験生を新宿駅まで車で迎えに行き、東京都目黒区のセンター本部で受験させるという前代未聞の事態があった。

  21日夜の報道によると,大学入試センター本部の責任者は記者会見で「不手際がありお詫びしたいと思います」と立ち上がり,その後「どうも」と言うのみ。呆れた為体であり,受験生に与えた深刻さを理解しているようには思えず腹立たしかった。大学入試センターにとっては,「次回からこのようなことが起こらないようにする」と考えても,受験生にとっては心血を注いで臨んだセンターテストであり,その後の人生に大きな影響を与えることになるということの重さを感じるべきである。ことしの大学入試センター試験は,受験生の立場になって考える事前からの周到な準備があったとは思えない。

  旧帝大への受験記念のための受験生の足切りから始まったと言われる大学入試センター試験も再 考の時が来ているように感じられる。それにしても大学関係者のお粗末さには呆れた。現在の日本の大学の力量はこの程度なのか。

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