日々の抄

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 また「やらせ」ですか

2012年7月22日(日)

  2030年にどれだけ原子力発電に依存するかなどエネルギー政策について、国民の声を聞く「意見聴取会」が7月14日から8月4日までの間,埼玉,仙台、名古屋、札幌、大阪、富山など全国11ヵ所で開催され,その後8月上旬までの間,国民の意識をつかむための「討論型世論調査」を実施。8月4〜5日約300人が都内で議論。8月末に政府が新たなエネルギー政策を決定する予定という。
 政府は、30年の原発の割合を「0%」「15%」「20〜25%」とする三つの選択肢をつくり、選択肢ごとに、風力や太陽光などの自然エネルギーの割合や環境や電気料金への影響などもまとめ,この中から30年に目指すエネルギー政策を決めるという。
  意見聴取会では,選択肢ごとに3人ずつが選ばれ意見発表が行われる。こうした国民から直接原発依存をどれほどにするかを聴取することが行われることはいいことなのだろうが,たった9人だけが11会場で意見発表するだけで,多くの国民の意思を反映できるのか疑わしい。

  その意見聴取会で意図的な原発推進派のミスリードと思われる行為が行われた。以前問題視された九電のやらせメール事件の記憶は新しいところである。
   15日仙台市で開催された意見聴取会での9人しかいない発言者の1人が原発の新増設を前提とする20〜25%案を東北電力の執行役員と名乗って「会社の考え方をまとめて話したい」として原発は必要と自社の主張を述べた。また、原子力推進を目的に企業や商工団体などで組織する東北エネルギー懇談会の元東北電力執行役員待遇だった専務理事が「政府の案は再生可能エネルギーを大きく見積もりすぎだ」と、原発の積極的な活用を訴えた。9人の中には東京都の会社員二人、神奈川県の会社員一人が含まれており,なぜ仙台会場に他地域の人物が選考されたか意図的なものを感じさせる構成であった。これで地域の意見を聞いたことになるのか。
   16日に開催された名古屋会場では,発言者9人のうち4人が関東・関西在住だったという。ここでも,どこが地域の意見を聴するというのか。また発言者のうちの一人の中部電力の課長職が原発推進を主張。「個人としての意見」と断ったしたものの,「福島の原発事故による放射能の影響で亡くなった人は一人もいない」「(政府は)原子力のリスクを過大評価している。このままでは日本は衰退の一途をたどる」と発言し参加者から非難の言葉が投げかけられた。

   国民に広く意見を聴する目的の会に電力会社の関係者が堂々と電力会社を利するような意見を述べたことは,明らかに「やらせ」以外の何物でもない。特に名古屋会場での「福島の原発事故による放射能の影響で亡くなった人は一人もいない」は許し難い。福島原発事故の被災者に対する思いやりのない無神経きわまりない発言である。生活の場を現在も追われ異境の地に住まざるを得ない人が27万人もいることを,前途を悲観して命を絶った人のいることに思いを寄せることができない人物は原発事業に関わる資格はない。自分が原発がなくなれば生活が成り立たないと思っての発言なら,万死に値する発言である。自分の家族が福島原発の被害者と同じ境遇に今も置かれていたら同じ発言ができるのか。

   中国電力も7月12日付で、「経営企画部門を中心に(聴取会への)参加申し込みを行い、機会が得られれば当社意見を表明する予定」,OBや取引先への応募の働きかけについては「意見の代弁を依頼していると受け止められかねない言動は絶対に行わない」と禁止し組織として意見聴取会への参加を促していたというから,仙台,名古屋での「やらせ」が発覚しなければ中国電力の関係者から同様の発言があったに違いない。 政府は17日,電力会社社員に発表させないことにしたことについて,電事連会長は20日,「個人の意見表明を自粛させることには違和感がある」としている。違和感があると思っていることに多くの国民が違和感を持っていることを電気事業者は知るべきである。発表者の「会社の考え方をまとめて話したい」などという発言のどこが個人的発言なのか,電気事業者は政府と一体なのか,と思わせる発言ではないか。

  この意見聴取会を,総合広告代理店である博報堂が運営事務をしているということはどういうことなのか。政府が民間に業務を依頼すれば,業務依頼主の「意図」が反映される運営がなされることは自明である。政府が行うべきことを民間に委託することの意味が分からない。発表者の人選は公正だというが,別地域の発言者がいることのどこが公正なのか。

各会場で決まった短い時間の間だけ一方的に意見を述べ,議論することも許されることなく行われている「意見聴取会」は,明らかに国民の意見を聴したというアリバイ作りに過ぎない。原発の存続という国家の存亡に拘わる決定は,国民投票を行って意見聴取することが最も適切な方法ではないか。

   東京電力福島第一原発事故前の原発の割合は26%だったというが,本年5月,原発相が2030年時点での原発依存度は「15%が一つのベースになりうる」との認識を示している。国民的な意見を聴取したことにして初めから15%とすることを決めていることは見え透いている茶番に見えて仕方ない。
   意見聴取会場で参加者も発言が許されて議論がなされ,「自分たちも発言できた。いろいろな考えがあるのだ」と理解されれば国民の理解も得られるというもの。国が電力会社と仲良く一体となって原発事業を進めようとしていることが浮き彫りになった気がする。政府は,拙速に走って原発再開のせっかくのチャンスを自ら失ったどころか,信頼をまた失うことになったに違いない。こんな茶番で騙せるほど国民が愚かでないことを政府と電力会社は知るべきである。
 
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