日々の抄

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 命の代償に何があるのか

2012年7月23日(月)

  22日の朝刊一面の「線量計に鉛板,東電下請けが指示 原発作業で被曝偽装」の文字を目にして絶句し衝撃を受けた。
  福島原発事故の復旧工事で,下請け会社の役員が昨年12月,厚さ数ミリの鉛のカバーで放射線の線量計を覆うよう作業員に指示していたという。法令で上限が決まっている作業員の被曝線量を少なく見せかける偽装工作とみられる。役員はその前日,作業チーム約10人に対し,胸ポケットに入るほどの大きさの線量計「APD」を鉛カバーで覆うよう指示した。だが3人が拒んだため,2日夜に会社側3人と話し合いがもたれた。役員は録音内容を否定するが,この場にいた複数の作業員が事実関係を認めているという。
 役員の言葉を作業員が録音していた。その内容はあまりにも生々しい。
「年間50ミリシーベルトまでいいというのは,原発やっている人はみんな知っている。いっぱい線量浴びちゃうと,年間なんてもたない。3カ月,4カ月でなくなる。自分で自分の線量守んないと1年間原発で生活していけない。原発の仕事ができなかったらどっかで働くというわけにはいかねえ」,「線量がなくなったら生活していけねえんだ。わかる? 50ミリがどんどん目減りしていくわけだから」
などというものだった。
 当時,「鉛を着けても線量が高かった」と話す作業員もいたというが,セシウム137のガンマ線は,厚さ7ミリの鉛で半分,22ミリで10分の1になるとされる。APD前面のセンサーが鉛でふさがれれば正しく測定されず,線量が非常に高くても警報が鳴らない恐れもある。
 APDの画面では,作業員がその日に浴びた線量の積算が刻一刻と更新されていく。元請けの東京エネシスは毎日,このデータに基づいて各作業員の線量が限度を超えないように注意しているというが,作業員はAPDのほかに蓄積線量を調べるためのカードに貼り付けた特殊フィルムで線量を蓄積計測する「ガラスバッジ」という特殊バッジも着けていた。二つの測定値の照合チェックは東電でなく受注業者がしているため発覚しなかったとみられる。その鉛カバーを役員は,「ばれたらおおごとだから捨てよう」と放射線量が高いため,見つかりにくいと思って福島原発構内への投棄を指示したという。

  役員が鉛カバー使用を認めており,このことについて工事を下請けに出した東京エネシスは「ビルド社の詳しい調査結果を受けないとコメントできない」,発注元の東京電力は「東京エネシスの報告をまって対応する」としている。作業員の健康管理を適正に行うためには二重の線量計の照合をしていれば直ぐに発覚することであり,元請けである東電はまるで下請けが勝手に不適切な行為をしたと言わんばかりで,元請けとしての責任を果たしていると言えるのか。蜥蜴の尻尾切りにならないことを願いたい。

 健康障害の恐れがある環境で働かせる場合,企業は防止対策をとるよう労働安全衛生法で義務づけられており,線量計を鉛カバーで覆って作業させれば,6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金,実際に装着しなくても上司が不正行為を迫れば,刑法の強要罪にあたる可能性があるという。厚生労働省は,本当の被曝線量を調べるには現物の鉛カバーで放射線の遮蔽効果を確かめる必要があるとして回収を目指すとしている。

  鉛カバーを拒否した作業員は仕事を外されてそうだが,会社の利益のためには作業員を危険に曝していたことは明白である。場合によっては短時間で許容被爆量を越えたり即死するほどの線量の現場もある。鉛カバーをつけて作業していた人に健康上の問題はないのか。家族への影響はないのか。放射線の影響は何年後に現れるか分からない。会社の利益を得るために社員の命を危険に曝している経営者は社員の家族に対してどう言い訳をするのか。事故原発の現場の最先端で作業している人々の働きによって国民の安全が守られていることを考えると,偽装を企て命じたことの重大な誤りを知るべきである。今回の偽装と同様の行為が他の下請け会社でも行われてなかったのか,厳密で早急の調査が必要ではないか。

  命が金銭と天秤にかけられていること,鉛カバーを外して作業していた人の健康不安を考えると心が痛い。命の代償に何があるというのか・・・・・・・・。
 
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