日々の抄

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  勇気ある行動を望む

2005年10月17日(月)

  とうとう首相が靖国神社に参拝した。17日の参拝が予想されていたこととはいえ、第2次大戦終戦60年のことし、中国、韓国両首脳が参拝に強い懸念を繰り返し表明しているなか、戦後A級戦犯が祀られていること、憲法の政教分離原則の観点から内外に批判が高まることは必至である。国内からは野党だけでなく、連立を組む公明党からも参拝自粛を求められたおり、内外ともに今後大きな問題を抱えることになるだろう。

 秋季例大祭は、17日「清祓(きよはらい)」(祭典の諸準備を完了した上で、祭典奉仕者と神域、諸具を祓い清め祭典の無事なる齋行を祈る儀式)、「霊璽奉安祭」、翌18日には、「秋季例大祭」(神前に御饌御酒をはじめ海の幸、山の幸などの神饌50台が供えられ、246万6千余柱の御祭神の慰霊顕彰と、国家の平安が祈念される)、同日には勅使が天皇からの御幣物を供え、御祭文が奏上される)、19・20日は、秋季例大祭第2日祭、第3日祭がそれぞれ執り行われ、最後に「直会」(4日間の祭典が無事奉仕した喜びを奉告する)、という宗教行事である。 政教分離の原則が問われるのは当然のことだろう。

 今回の参拝は柏手を打たない、記帳をしない、玉串を捧げず、本殿に昇殿せずに手前の拝殿の前で礼をしてさい銭を投じ、僅か5分足らずの慌ただしい参拝で、「私的参拝」を強調するための見え透いた姑息な感を拭えない。だが、本人が何と言おうとも日本国の首相が「A級戦犯が祀られている靖国に参拝した」ことには違いない。公務員が勤務時間外の政治活動で咎められたときに、「私的」行為だからとやかく言われる理由がない、などということは通じないことをどう説明するのか。公務員は24時間公務員である。

 「私的参拝です。大戦の犠牲になった御霊に参拝した。不戦を誓った」、と熱弁をいくらふるっても詭弁にしか聞こえない。近隣諸国にとって、私的だろうが公的だろうが、首相が靖国参拝すること自体を問題にしていることに気がついていないのだろうか。選挙で大勝したから国民も認めているなどと思うのは誤りである。すべてを白紙委任した覚えはない。靖国参拝に多くの国民は反対している。そもそも選挙の総投票数は、与党より野党の方が100万票多かったことは肝に銘じるべきである。小選挙区制があったからこその結果である。

 本年6月20日の盧武鉉韓国大統領との会談で、大統領は首相の靖国神社参拝について「この問題が日韓の歴史問題の核心だ」と述べて再考を促すとともに、新たな追悼施設建設の検討を進めるよう要請している。また、「靖国神社には、過去の戦争を自慢したり栄光に思ったりするような展示があると聞く。首相が参拝をどう説明しても、やはり過去を正当化するものと理解する」と述べている。
 また、中国の王毅(ワン・イー)駐日大使は本年5月26日、東京都内で開かれた国際会議の講演で、「一方で反省を表明しながら、一方では侵略戦争の指導者が祀られているところに行くということは、戦争被害国の国民から見れば、日本が真心を込めて反省したのかどうかという疑問が自然に出てくる」としている。

 中国や韓国が首相の靖国参拝を非難するのは、A級戦犯が祀られているからである。「いずれわかってくれる」と思うのは間違いである。そう考えるのは浅はかである。靖国に祀られている人々の多くが亡くなったのは、アジアで日本がはじめた戦争のためである。また祀られたくないという台湾の人の分祀を認めないというのも理解しがたい。中国はA級戦犯が合祀されていないなら、問題視しない姿勢のようだが、分祀していない現状で、一緒に祀られている霊のうちA級戦犯には参拝しなかったという理屈は通らない。韓国の唐外相は「日韓関係には靖国神社参拝、歴史教科書、独島(竹島)の三つの問題があり、世界が日本をどのように見ているか直視しなければならない」と述べ、「靖国参拝はA級戦犯にも頭を下げているように見える」と指摘。外交通商省幹部は、「三つの問題のうち、靖国問題が、比較的簡単に解決することができる」と述べている。

 最近、ぶれない政治家がもてはやされているようだが、政治には弾力性も必要である。強引に力に物言わせて事を運んでいくことが歓迎されている風潮に危険なものを感じているのは私だけだろうか。日本は米国だけでなく、近隣諸国との共存が大きな国益になることを忘れるわけにはいかない。国内でも靖国参拝の判断が分かれている。「やめる方が勇気を要するが、勇気のあることをするのが政治家だ」という先輩の言葉は通じなかったようだ。

 今回の靖国参拝に対する近隣諸国からの反発に対して、国益を考えたどのような対応を考えているのか、納得のいく具体的な説明を求めたい。「適切に判断していく」などという言葉で納得するほど国民は愚かではない。

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