日々の抄

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  責任のなすり合いか

2005年11月25日(金)

 またも国民の安全が脅かされる事態が生じた。17日の一報によれば、千葉、神奈川の1都2県のマンション20棟とホテル1棟について、構造計算書を偽造していたという。うち、完成済みのマンション2棟は震度6強〜7程度の地震に耐える基準を満たさず、震度5強程度で倒壊するおそれがあるという。書類偽造は建築基準法違反である。偽造をしていた建築設計事務所は個人経営で、偽造の動機は「コスト削減のプレッシャーを受けていた」ためという。

 国交省はマンション20棟のうち、工事中の4棟と着工前の3棟については建築主に作業の中止を要請。すでに完成している13棟は分譲、賃貸マンション計471戸で、耐震性の確認を急ぐとともに、補強や建て替えが必要になることも予想されるため、居住者受け入れのための住宅の確保を1都2県と都市再生機構に要請した。 国交省などによる5棟についての再点検の結果、すでに完成している千葉県船橋市と川崎市のマンションの耐震性能は基準の3〜7割しかなく、震度5強程度の揺れで倒壊する恐れがあるという。

 国交省と千葉県によると、この事務所は03年から今年10月にかけて、設計事務所6社からマンションなどの構造計算書の作成を請け負った際、耐震性について建築基準法の基準を下回る力で計算しながら、別の計算書を部分的に差し替えて基準を満たしているように装い、設計事務所に書類を提出した。計算書は、市役所などに代わって建築確認の審査をする都内の建築関連検査会社に提出されたが、偽造が分からないまま認められていた。今年10月、検査会社が過去の計算書の不審点に気づき、偽造の疑いが発覚した。

  その後の続報によると、該当する14棟は震度5強で倒壊の恐れがあり、すでに完成し居住者のいる千葉県船橋市と神奈川県川崎市のマンション各1棟は、耐震強度が建築基準法で定められた基準の3〜7割で、地震などがなくても長期的には自らの重みなどで壊れる可能性が高いという。該当する複数のホテルでは営業を停止している。また、最悪の場合建築物が崩壊したことによって当該住人だけでなく周辺住人、通行人にも被害がおよぶことを考えなければなるまい。
  さらに、千葉県の発表によると96年以降に構造計算などにかかわった建築物が、22都府県で計194物件にのぼった。耐震性不足の建物はこれまで、東京、神奈川、千葉の3都県で確認されていたが、被害がさらに広がる恐れもある。群馬県も3件が該当するという。

  ある1級建築士によると、「正規の地震時応力を入力した構造計算書」と「あらかじめ半分以下の地震時応力を入力した構造計算書」を作成し、「正規の計算書の前半」と「半分以下の応力での計算書」の後半部分を合体して一つのものとして構造計算書を作成すれば偽造が可能だが、チェックできるはずという。

  建築物を作るためには、建築主−設計者−検査機関・建築確認−施工−建設検査が必要である。今回の偽造で腹立たしいのは、いずれの関係者も責任の押しつけ合いをしていることである。設計事務所が下請けとして偽造した個人建築士に設計依頼しているが、当該の建築士は「私だけでは背負いきれないし、私だけの責任ではない。検査機関が普通にチェックしていれば書類がパスすることはなかった。指摘があれば続けなかったかもしれない。責任の一端は検査機関にあるのではないか」といい、建築確認を出した民間の検査機関は「偽造は巧妙で、審査に過失はなかった」「適切に確認検査業務を行っていると信じているが、本事件に与えた違法性のいかんについては国土交通省の判断に委ねている」といい、開発販売会社は「(責任は)一も二もなくチェックできなかった検査機関にある」と検査機関を批判。国は違法に対して事件の解明を進めているが、確認審査が民間になった事に問題はなかったのだろうか。役所が確認審査すれば今回の偽造が起こらなかったかどうかはわからないが、国民の生命、財産、安全を守ることが国の重大な使命なのではないか。


  なぜ建築士が偽造したのか。調査によると建築士は3つの会社の実名を挙げて「鉄筋の量を減らせと指示された」と証言している。このうち2社の固有名詞は判明している。このうち1社から「要求を拒むなら、事務所を替えると言われた」と話している。これに対して実名を上げられた会社関係者は「鉄筋を減らせなどといった指示は全くない」と否定してる。

  偽造は発覚後直ちに公表されたか。検査機関社長は国交省の発表よりおよそ20日前に建設主から「偽造の公表を差し控えるよう求められた」。検査機関社長が建築主や偽造した建築士に伝えたところ、建築士は偽造の事実をすぐに認めたが、関係者一同が同席した場で、建築主から「偽造を発見したといって正義感ぶって公表することが何の意味がある」「すでに建ってしまった建物も相当数あり、建て直すにしても建築主は補償できない。住民も困るだけだ」と言われたとの内容が電子メールに記録されている。これが事実なら建築主にも大きな責任がある。
  あってはならない偽造が起こっているのである。いい加減して貰いたい。今回の偽造事件の責任は関係者すべてにあることは間違いない。自分の保身のために責任を回避できると思うことが間違いだ。

  該当するマンション住人の、いつ崩壊するかわからない我が家にいなければならない不安、焦燥、怒りは計り知れないものあるだろう。住居という一生かけた莫大な買い物のために長期ローンをかかえ、家が崩壊すれば負債だけが残ることを考えれば、怒りをどのにぶつければいいのか。「何を基準にしてこのマンションを建てたのか。怒りがこみ上げる。おそらく基準は命ではなくて、施工期限やお金なのではないか。住宅のことはよくわからないが不安で仕方がない」という住人の声を関係者はどう聞くのか。自分が住人だったら同じことを起こせるのか。そうした想像力が働かない人間が人命に関わる仕事をする資格があるのか。


 儲かりさえすれば、バレなければいいと考えて不正をしてきた今回の偽造事件は、国民が安全に生活する事へ不審を抱かせる重大な犯罪である。偽造した建築士の免許を取り消しても何も問題が解決しない。一番の問題は、一個人一企業では賄いきれないことが見過ごされてきたことである。検査会社が過去の計算書の不審点に気づかずにいたら、どれだけの人命が失われることになったろうかを考えると恐ろしい。不幸中の幸いは、今回の偽造で今のところ人的被害が出てないことだけである。

  最大手の損害保険は22日、「地震保険は、契約者に重大な過失がなければ、震災被害にあった場合には支払われることから、問題の物件が仮に地震で倒壊した場合、地震保険に入っていれば、構造問題に関係なく保険金は支払う」ことを改めて確認している。だが、人命が失われたら誰が責任をとるのか。

  自分の仕事の偽りがいつバレるかヒヤヒヤしている建築関係者がいるかもしれない。今回の一件が氷山の一角ではないと願うのみである。国の責任は大きい。

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