日々の抄

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  また、放言ですか

2005年11月27日(日)

 とうとうマンション耐震強度偽造事件で犠牲者が出てしまった。構造計算を下請けに出していた東京世田谷にある設計事務所代表である。「周囲に迷惑がかかってしまう」などと書いたメモを残し、都の立ち入れ検査のときに「問題が起きてから、仕事が入ってこなくなった」「偽造とは知らなかった」との言葉を残している。痛ましいことである。
 東京都千代田区のマンション建築主は26日、希望する入居者については全物件を買い戻す方針を明らかにした。それも、部屋を買い取る際の価格は購入価格の106%に当たる金額だという。計算すると総額が100億円を越え保有資金力を考えると、とうてい不可能な金額との評価されている。できそうもないことをTVに頻繁に出てきて、声高になぜ語ることができるのか。

 それには理由があるようだ。偽造が公表される前後に計3回、国交省を訪ね、建て替え費用などの公的支援を求めていたという。偽造公表の2日前の今月15日に伊藤公介元国土庁長官とともに省内で同省建築指導課長と会ったことが明らかになり、それ以外に9日と22日にも同課を訪ねていたという。建築主である社長は4年前から伊藤元長官の資金管理団体の年会費16万円を納め、昨年9月にはパーティー券100万円分を購入している関係にあるという。陳情を受けた側の建築指導課長は「社長だけなら、通常は課長補佐が応対するが、議員が一緒だったので会った。圧力に感じることはなく、居住者の安全を図るという方針に影響はない」という。建築指導課長によると、社長は「検査会社が審査を通した物件なのに、今さら壊さなきゃいけないというのは困る」「建て替えに費用がかかり、100億円や200億円を国が負担してほしい」と言ったという。元国土庁長官は「間違ったことはやっていない」としているが、こういうのを政治的圧力というのではないか。
 どうも話しがおかしい。 公表前に国交省に「私たちは被害者だ。偽造を見逃したのは建築確認を出した検査会社であり、民間の確認業務を認めた国交省にも責任がある」と建築主としての「瑕疵担保責任」を負いながら、まるで他人事のような責任転嫁である。国交省に出向く前に、マンション住人の安全は考えなかったのか。当該のマンションに対する住民説明会で、建築主は『命に代えても責任を取る』と言っておきながら、それ以前に保身のための準備を進めていたことになる。同時に『阪神大震災で多くの建物が倒壊したが、建築主におとがめはなかった』とも語っているが、偽造が発覚するまでに大地震が起きてマンションが崩壊してくれていれば、住人の安全・生命など関係なく、自分は安泰だったのに、ということか。

 建築確認が阪神大震災以降、民間で行えるようになったことによる影響も無関係ではなさそうだ。民間に任せれば能率化を図り、国民のためになると思うのは早計だろう。いい仕事をする会社は、仕事が速い、安くできる、という風潮がはびこる結果、一番肝心な安全が見過ごされていたからだ。設計の手抜きをして、検査の手抜きもしていれば、速くて安い建物ができることは当然だろう。単純に官から民への移行を考えることの危なさを露呈した厳しい一例と思わなければなるまい。ところが、検査の甘さは民だけではなかった事例があちこちで発覚して仰天した。あちこちの自治体が行った建築確認も今回の建築士の偽造を見過ごしていたことが判明している。

また一方で、国交省は民間検査機関への立ち入り検査を建築基準法に基づき年1回程度「建築基準適合判定資格者の資格を持った1級建築士の数や確認書類の保存状況、利害関係のある業者への検査の有無など、事務上の不備に関する点検を中心」に行い。「構造計算書を個別に再計算することはなかった」として、検査会社へほぼ毎年、定期的に立ち入り検査をしながら、同社の審査態勢の不備を指摘してこなかったことが明らかになっている。全部の確認書類を点検することが無理としても、いくつかを抜き出して調べれば、偽造は判明したかも知れないことの重大さは認識すべきである。
偽造を意図的にやれば立派な犯罪だが、建築確認審査も同様にして偽造を見抜かなかったことに合わせて、見抜けなかったことへの責任はどうなるのか。「ごめんさない」と誤るだけで済むわけがない。今の日本は、官庁の公金横領に等しいような何百億円にもおよぶ無駄使い、甘い蜜を吸うことだけにしか見えない天下りに呆れることがあっても責任の所在の追求が甘い。していないに等しい。民間企業なら、ミスがあれば左遷か降格、ひどければ免職である。そうした甘さは許しがたい。

 さらに呆れる報道があった。自民党の幹事長が26日の釧路市での講演で、耐震強度偽造問題について「悪者捜しに終始すると、マンション業界は、ばたばたとつぶれる。不動産業界も参る。景気がこれでおかしくなるほどの大きい問題だ」「対応を気を付けなくてはいけない。寝られないでしょう、大きい地震が来たら自分のマンションがつぶれるという話ばかりされると」と述べた。

 ということは、偽造問題をうやむやにしていれば、マンション業界、不動産業界が安泰で、景気に影響しないからいいのだ、ということか。逆に読めば、景気を悪くしないために、偽造問題で真相の究明はやめとけ、ということか。これはとんでもない国民を愚弄した話である。今回の事件で多くの国民が住の安全に不安を抱え、今も自宅にいていつ壊れるかも知れないと、いても立ってもいられない人びとがいるのだ。だからこそ、何が事実なのか、安全なのかを一日も早く国民に明らかにすべきである。偽造された建物の住人の安全と財産を守り、真面目に建設された全く心配のない建物に住んでいる国民を安心して住まわせることこそ、行政のなすべきことだ。今回の偽造問題で迷惑している関係者は沢山いるのではない。プロとして責任ある仕事をしている人にも疑惑の目が向けられかねない状況である。偽造問題を明らかにすることこそ、マンション業界、不動産業界が安泰でいられるはずである。政治家は思いつきで言葉足らずの発言をすべきではない。「自分のマンションがつぶれるという話ばかり」が現実だからこそ問題視していることに気づいていないのか。

 といっても、発言の主は農水相のときBSE問題で、国内三頭目の感染牛が見つかっても、「まだまだ出るから、驚かないでください」と放言したり、「感染源が解明されないことは大きな問題か」「給食に牛肉を出さないのは情緒的」、被害総額も「詳しく調べていない」などと政治への不信をかった人物だから、『またかい』という感想しかもたないが、発言がお粗末すぎるし、無視できない無責任な放言である。

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