日々の抄

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 元日の社説を読んで

2013年1月3日(木)

  内憂外患の余るほどの諸般の事情を抱える日本社会に対し,ことしがどんな年でありたいか。新聞各紙の元日の社説を読み比べてみた。

朝日
  『混迷の時代の年頭に―「日本を考える」を考える』として,日本が向き合う課題に日本はどんな道を選ぶべきかについて考えている。
『諸問題の数々は、「日本は」と国を主語にして考えて答えが見つかるようなものなのか』と疑問を投げかけている。『「日本を、取り戻す」(自民党)、「日本再建」(公明党)、「したたかな日本」(日本維新の会)としても,未来の日本についてはっきりしたイメージは浮かび上がらなかった』としている。
  『なんでもかんでも国に任せてもうまくはいかないという思いだ。経済危機に取り組むには国の枠にこだわってはいられない。でも、産業育成や福祉、教育など身近なことは国よりも事情をよく知る自分たちで決めた方がうまくいく―。自信のある地域はそんな風に感じている。』とし,最後に『国家以外にプレーヤーが必要な時代に、国にこだわるナショナリズムを盛り上げても答えは出せまい。国家としての「日本」を相対化する視点を欠いたままでは、「日本」という社会の未来は見えてこない。』賭している。全般的に積極的は問いかけよりも論評の感がある。

毎日
  『2013年を展望する 骨太の互恵精神育てよ』として,今年は戦後日本の生き方が,(1)日本経済の底力,(2)日本政治の平和力と論点を絞っている。
  (1)に対しては『バブル崩壊後の20年余り、歴代政権は何もしてこなかったのではなく、金融政策としてはゼロ金利や量的緩和、財政政策としては公共事業を中心とした数次に及ぶ緊急経済対策を打ってきた。いわば類似政策を積み重ねてきた結果が、1000兆円にものぼる借金財政を生んだ、という事実だ。成長できない背景には、少子化による人口減と高齢化、新興国の台頭、資源・エネルギーの環境制約があるのだが、安倍政権にはこういった構造的要因にも手をつけてほしい。』『その際に心がけたいのは、互譲と互恵の精神である。相手に譲ることで自らが恩恵を受ける、豊かになる、それを相互に繰り返す、そういった心の持ちようだ』としている。
  (2)に対しては『台頭する中国とどう向き合うか、にある。尖閣諸島をめぐる対立は、中国側の領海、領空侵犯で武力紛争の可能性まで取りざたされるに至っている。戦後67年間一回も戦争をせずにこられた我が国の平和力を今一度点検し、どうすれば最悪の事態を回避できるか、国民的議論が必要だ。戦後の平和を支えてきたのは、あの戦争に対する反省からきた二度と侵略戦争はしないという誓いと、現実的な抑止力として機能する日米安保体制であろう。係争はあくまでも話し合いで解決する。もちろん、適正な抑止力を維持するための軍事上の備えは怠らない。そのためには、日米安保体制の意義、機能を再確認しておくことが大切だ。そのうえで1920年代の歴史から学びたい』とし,『安直な排外主義を排し、大局的な国際協調路線に立ちたい』としている。

読売
  『政治の安定で国力を取り戻せ』として,「成長戦略練り直しは原発から」「参院選が最大のヤマ場」「節度ある政権運営を」「"3本の矢"をどう放つ」「深刻な電力料金値上げ」「TPP参加で反転攻勢」と各論を詳細に論じているが,安倍新政権を歓迎し,大いに期待している様が読み取れる。『尖閣諸島国有化をめぐる中国との対立、北朝鮮の核・ミサイル開発などに対処するためには、集団的自衛権の行使を容認し、日米同盟を強化することが必要だ。こうした認識を共有できるよう、与野党で議論を重ねてもらいたい。』『「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の3本の矢で、デフレ脱却を図るとしている。妥当な考え方だろう』とエールを自民党,安倍政権に送っていて分かりやすい。

東京
  『年のはじめに考える 人間中心主義を貫く』をタイトルとして,『新しい年を人間中心主義の始まりに が願いです』を強調している。サブタイトル『若者、働く者に希望を』では,『〇二年からの「いざなみ景気」は「戦後最長の景気拡大」や「企業空前の高収益」とはうらはらに非正規雇用やワーキングプアを急増させ、死語だった「貧困」を復活させました。収益は労働者に配分されず、企業に内部留保されたり、株式配当に回ったのです。経済は大企業や富裕層のものだったのです。七十三カ月のいざなみ景気はジョブレス・リカバリー。賃金は下がり続け、労働は長時間化、一九九〇年に八百七十万人(全雇用の20%)だった非正規雇用は千七百五十六万人(同34%)に膨れました。人間中心主義の訴えは空回りだったといえます』として,働く者,特に若者の報われない労働状況を指摘している。また,『脱原発への決断は再生可能エネルギーへの大規模投資と大量雇用を見込めます。医療や福祉は国民が求めています。農業や観光も期待の分野。経済の再生と同時に人を大切にする社会とネットワークの構築が始まらなければ』としている点は他紙との違いが際立っている。社会を支えている,働く者への温かい眼を感じ歓迎できる。
  最後に『日本の新聞の歴史で最も悔やまれ、汚名となっているのは満州事変を境にしてのその変節です。それまで軍を批判し監視の役割を果たしていた各紙が戦争拡大、翼賛へと論調を転換させたのです。国民を扇動していったのです』として東洋経済新報の石橋湛山が帝国主義の時代にあって朝鮮も台湾も満州も捨てろと説いた「一切を棄つるの覚悟」「大日本主義の幻想」は百年を経てなお輝く論説です』と指摘している。『満州事変から熱狂の十五年戦争をへて日本は破局に至りました。三百万の多すぎる犠牲者を伴ってでした。湛山の非武装、非侵略の精神は日本国憲法の九条の戦争放棄に引き継がれたといえます。簡単には変えられません』としている。社説でマスコミのあるべき姿を鮮明にしている点は歓迎すべき事である。

  新聞各紙とも,新聞のあるべき姿,使命を再考し疲弊し尽くし,まじめに生きようとしている国民が報われる社会をいかにして目指しているか,そうした人々に光を当てて報道して欲しい。時の政権に阿る報道は興味を削がれるのみ。何が問題であり,どのような論点があるのかを指摘して欲しい。声の大きい政治家の前で萎縮しては思うつぼである。また,時のヒーロー,ヒロインを仕立て囃し立ては使い捨てにする手法は辟易である。
 
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