日々の抄

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 最下位でもいい

2013年1月12日(土)

  私が住む群馬県の,昨年の「地域ブランド調査2012」(ブランド総合研究所)の調査によるランクは,全国最下位である47位であった。同46位は茨城(昨年45位),45位は佐賀,44位は栃木と北関東が最下位に3県もある。この調査は「認知度」や「魅力」、都道府県に行きたくなる「観光意欲度」や住んでみたくなる「居住意欲度」、情報発信の頻度や露出度を示す「情報接触度」など72項目について調べている。2012年は全国の3万375人から回答を得たという。群馬県の経年変化は41位(2010)→44位(2011)→47位(2012)と暫時下降。
  日経リサーチ社が2年おきに実施する「地域ブランド戦略サーベイ」の地域総合評価でも、群馬県は(2008−43位,2010−47位,2012−47位)と最近2回は連続で最下位であった。
  一方で,昨年のgooランキング「実は一度も訪れたことがない都道府県ランキング」では26位,TV番組のナニコレ百景では18位である。 

  群馬県にある草津,伊香保などの温泉地は全国的に知られ,谷川岳,浅間山,至仏山をはじめとして日本百名山が11座を擁し,尾瀬もある。映画・ドラマでは,「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね」で知られる「人間の証明」の舞台になったのは霧積温泉。NHKドラマ「ファイト」の舞台は四万温泉をはじめとして群馬県全域だった。
  文人としては大手拓次,萩原朔太郎,山村暮鳥,伊藤信吉,萩原恭次郎,江口 きち,土屋文明など多数輩出している。詩人の多くは群馬の風土をうたっている。
  政治では,福田赳夫,中曽根康弘,小渕恵三,福田康夫の4人の首相を輩出している。
  明治初め養蚕が盛んだった群馬県に,日本で最初に設置された「模範器械製糸場日本の富岡製糸場」は間もなく世界遺産に指定される。県内のあちこちに古墳が散在し,昨年注目されたのは,国内で初めて「渋川・金井東裏遺跡」で発掘された「鎧着た人骨出土」がある。 

  いずれにせよ北関東,特に群馬県の認知度がなぜ低いのか。草津温泉,尾瀬や谷川岳は知っていても,それが群馬県と結びついてないということなのか。いろいろな理由はあるのだろうが,草津温泉に行くことがあっても,それが「群馬県に行く」ということではないのだろう。同じく「夏の想いで」の尾瀬に行くことがあっても,それが「群馬に行く」こととはつながっておらず,尾瀬に行ったがそこが群馬県だったという事のようだ。

  そう考えてくると,何も県の認知度が低いことは大した問題とは思えない。当の群馬県人は,群馬に在住していることについてどう思っているのか。昨年5月に「県長寿社会づくり財団」による調査(817人を対象に実施し,55歳以上の490人から回答)がある。それによると,幸福感を「とても幸せ」から「とても不幸」の度合いを10〜0点の11段階で集計。結果は10点17%、9点14%、8点24%、7点16%で、幸福感が高いとされる7点以上を72%が占めた。世代別には60歳未満が7点、60〜74歳は8点、75〜79歳は8点と10点、80歳以上は9点で、年齢を重ねるごとに幸福感が高まる傾向を示し,男女別の平均を見ると、女性(7.7点)が男性(7.5点)をやや上回っている。
  他県人が群馬県を知らなくても,群馬県人の年配の人はそこそこの幸福感を感じているということだ。全国の都道府県庁所在地の中で最安値であり,地価低下が未だ続いている。家を建てるのに同じ予算なら他県より二倍の土地を手に入れることができそうだ。県内の医療は地域の医院から第2次,第3次の専門病院への連携ができており,小児科も不足しておらず,病気しても安心していられる。病院のたらい回しなど聞いたことはない。内陸のためか大地震の心配はなく,大規模の台風被害もほとんどない。また晴天率が高く太陽電池パネルの設置が増えている。派手さはイマイチでも住むにはいい環境が揃っている。

  全国での認知度が県の存在価値や県人の品格を計ることでないことは当然だが,それでも知られないより,知られる方がいいと考えて,「ぐんまの野望」なるアプリを県人の青年が作ったり,「ゆるキャラグランプリ」で昨年第3位になったのは県民の賢明な努力の賜だったようだ。
  群馬県知事も認知度が低いことを気にしているようだが,県知事そのものが全国版のマスコミで取り上げられることはほとんどなく,知事の認知度が低いのが実情だろう。マスコミに出てくるタレント出身などの知事がその県のイメージアップにつながっていることを考えると,そんなことで認知度が低いことになんら支障はないと思える。

  群馬県人のひとつの特徴は,義理人情に厚く,熱しやすく冷めやすい。かつては「かかあ天下」といわれていたが今はどうなのか。最大の問題は,売り込みが下手,「知られてなくたって大した問題でない」ということのようだ。首都圏に近く,県内の東部地区ではスカイツリーや富士山が見え,大きな消費地である首都東京から100キロ圏内にあり,首都圏への通勤,通学も可能という地の利もある。そんなことが,積極的にいいところを他人に見せて売り込むほどのことはないということのようだ。群馬県の認知度が最下位は当分続きそうだが,それでいいのだ。
  草野心平が前橋に在住して50年後「前橋は詩人は生まれても,小説家は生まれないところ」と語ったことがあった。このことが全国認知度最下位に結びつく上州人気質に関係あるのだろうか。

  群馬県人は「上毛かるた」という県内の名所旧跡を記したカルタに幼いときから触れ,県内の各地の地理名勝は熟知している。市町村や県単位で毎年カルタ大会が開かれており,ことしは県外に出た群馬県人が東京で「上毛カルタ」大会を開催するという。群馬県人は上毛カルタで郷土愛が育まれていて,上毛カルタを語ることが上州人の証といえそうだ。
 「鶴舞う形の群馬県」が「つ」のとり札である。他県にこんなものがあるだろうか。

 
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