日々の抄

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 大気汚染が迫っている(その1)

2013年2月7日(木)

  中国各地で1月上旬から連日有害物質を含んだ霧が立ち込め深刻な社会問題になっている。中国のみならず韓国,日本国内でも影響が出はじめている。北京など33都市,日本の3.5倍もの面積の地域で最悪の「深刻な汚染」を記録している。北京市内では日中でも視界が100メートルにも達せず呼吸器系疾患の患者が急増。昨年は7000人弱の死者が出ているという。
  日本国内の大気汚染は昭和30年代後半に四日市ゼンソク,川崎ゼンソクなどの例があったが,今中国で起こっているような広域ではなかった。

  大気汚染の主な原因は「PM2.5」(PM = Particulate Matter)という。大気中に浮遊する微粒子はその径で分類され,その総称をSPM(Suspended Particulate Matter、浮遊粒子状物質)と称し,PM10は直径が概ね10μm以下のもの。問題とされているPM2.5は直径が概ね2.5μm以下のもので,成分はヒ素,鉛,水銀,硫酸塩,硝酸塩,亜鉛などで車の排ガスや工場の煙などから排出されているという。その大きさは人間の頭髪の28分の一,スギ花粉の12分の一である。
  WHO(世界保健機関)の暫定基準(AQG)は24時間平均は25μg/m3,年平均10としているが,中国では24時間平均を75,日本では1日平均値が35,年平均値が15以下としている。北京では1月12日,この物質の観測値が900を突破したところもあったという(数値の単位はμg/m3=マイクログラム毎立方米,マイクログラム=百万分の一グラム)。

 中国でこうした有害物質が問題化したのは78年に掲げた改革・開放路線を受けた経済開発により,すでに80年代後半には環境破壊が問題となっていて,98年には北京の空気汚染指数が急速に悪化し対策が指示されたものの経済発展を優先し環境対策はなされなかった。08年の北京五輪前には、首都鋼鉄集団の工場など北京市内にあった工場を市外に移転させ、市内の150超の工場も一時的に操業停止させ,一時汚染は改善したが,再び深刻な状況に陥っている。

   汚染の主因は車の排ガス,暖房用の石炭,工場の排煙とみられている。車台数の急増,欧州や日本の15倍の硫黄分を含むガソリンが現在も使われていることが大きな原因とされる。国の基準が低いことに問題があり,環境基準作成に石油関係企業の人物が少なからず入っていることから,中国版石油村の感がある。
  北京市政府は、100社以上の工場の操業を止め、公用車の使用を30%減らすなどの緊急策を取った。大気汚染防止のための立法を研究,より厳しい自動車排出ガス規制の実施し、窒素酸化物の排出を43%減少させると同時に、新しい基準に準じるガソリンの使用によって窒素酸化物の排出を15%減少させることを目指すこと,重度汚染が発生した場合に街頭清掃の回数を増やすということなどの対策を立てているそうだが,街頭を清掃してすむ問題ではあるまい。また目標をあげている場合ではない。目の前に連日生命の危機を感じるような状況が起こっていることに対する緊急対策がないことは明白である。大人の物質主義のために,終日マスクがなければ生きていけない子供たちが将来に大きなリスクを背負わされていることは痛ましい。

  日本国内で中国由来と思われる大気汚染が深刻な状態になるつつある。PM2.5の各地の値
(μg/m3)が伝えられている。
  福岡市では1月31日に基準値を超える1日平均52.6,大阪府枚方市でも同13日に同63をそれぞれ観測。福山市では2月2日午後1時に61,兵庫県でも明石市で1月30日に1日平均36,1月31日に加古川市で38.4,奈良県では2月13日に日平均37,最大64を記録している。
  いずれの数値も日本の環境基準値35を超えている。環境省は「ただちに健康に影響はありません」などと言っているが,どこかで聞いたことのあるこの言葉を信用するわけにいかない。気管支炎,花粉症などの悪化のみならず,心臓疾患にまで影響を与える可能性が伝えられている。花粉症用のマスクもPM2.5粒子は通過してしまうのでN95というマスクでないと効果がないそうだが,いままでにない健康被害の元凶は個人で解決できる問題ではない。中国起因と思われる大気汚染の飛来に対して政府は断固抗議をすべきであり,国際的にも訴えるべきである。一国の経済優先主義が近隣諸国に多大な被 害を与えていることを中国は猛省すべきである。経済発展より人の命,地球環境保全にシフトすべき時期に来ている。多量のPM2.5まみれの黄砂が日本全国に飛来してくることは時間の問題である。

  一方,PM2.5を含む大気汚染の元凶は中国のみならず日本国内にもあることが分かってきている。
(つづく)
 
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