日々の抄

       目次    


 TPP憂国論

2013年3月30日(土)

  TPP(Trans-Pasific partnership=環太平洋経済連携協定)への交渉参加を首相が3月15日に表明した。
  そのことを各都道府県でどのような反応を示しているか。朝日新聞のデジタル版で各都道府県の地方版を閲覧できるので,TPP参加表明の翌16日の各地の様子を調べてみた。

北海道:交渉参加表明に対し一斉に批判がわき起こり,昨年衆院選で反対を強調した自民党議員への失望の声上がる。安いビート,小麦が入ってきたら輪作できず経営が成り立たない。日本の主張がすべて通るわけない。関税率はいくらか。ビート関係の町では2000人が職を失い地域経済が沈没する。競馬馬の生産地日高では「関税撤廃で外国産馬の多頭数流入は地域経済崩壊」.。

青森:農協猛反発。自民党議員は「説明して納得して貰うしかない」と悲壮感。「いくら食味のいい米を作っても安価な外国産米が入ったら値崩れは必至。廃業農家が相次ぐだろう」。一方で「国際競争することで日本農業の刺激になり発展につながる」とするりんご関係者もいる。

秋田:JA関係者は農産物の重要品目除外,国民皆保険などの聖域を確保できない場合交渉から撤退すべき」。経済関係者は「経済連携は世界的流れ。輸出競争力を取り戻し雇用を守るため必要」と賛意。

山形:JAは自民へ反発。「単なる農業問題ではない。日本全体が生き残れるかどうかの問題に説明も議論もない。首相の責任を問う」「山形県内への影響は甚大。農業への打撃が大きく,地域経済そのものが脅かされている」。

福島:JA,生協など12団体が「拙速と言わざるを得ず,極めて遺憾で強く抗議する」とした。福島原発の影響で桃,リンゴなどの農産物の売り上げは落ちたままであり交渉参加は「被災地復興の足かせになる」としている。県知事は「交渉参加の表明は国民的議論がなされてない中で残念」とコメントしている。「小さい農家はどうなるのか」,「漁業者が復興できなくなるかもしれない」「自民党は公約をほごにしたに等しい」とする一方で自動車業界からは「製造業には追い風」としている。

群馬:TPP反対をかかげて選出された自民党議員から「一任したわけでな い」「情報が少なく影響が分からない」「日本の国益が守れないのなら反対」。JAは「国民の不安を払拭できない状況で拙速。強く抗議する。組織の総力を挙げ反対する」。(3月26日の報道では県の農産物の生産額はコメ,生乳,食肉など635億円減少すると試算)

栃木:JAは「裏切られた感じ。拙速に判断した印象は拭えず,畜産業への影響が大きい」とし,医師会は「まだブラックボックスの状態で中身が見えない。それによって何らかの行動をするか考えたい」としている。農林産物の生産額が1088億円減ると試算している。

茨城:農林水産団体は「断固反対」と反発。全国第二位の農業県として大きな影響を受ける」としている。一方,ある農業法人では「高品質の作物を輸出も選択肢」としている。

埼玉:JAは「聖域が確約されない中での交渉参加に強い危機感を感じる。交渉参加阻止運動を続ける」としている。

千葉:JAは「強い怒りを覚える。国民的議論をせずに参加を表明したことは国民を欺く暴挙。国益を守るため、引き続き反対運動を展開していく」。混合診療の拡大などの恐れがある医療団体も「世界に誇る国民皆保険が揺らぐことがないよう、交渉参加断念を求める」など反対の姿勢を強めている。 県はコメ,乳製品,豚肉などの生産額の4分の一が減ると試算している。

新潟:JAは「十分な情報開示もしないまま参加表明した政府は極めて重大。農家の8割が戸別補償を受けかろうじて採算がとれている状態。安い外国産米が大量に入ってくれば立ちゆかなくなる。食品の安全性も守れるのか」としている。ある農家は「1993年のウルグァイラウンドが減反のもとになり農家は意欲をなくした。その二の舞だけは演じて欲しくない」としている。

長野:JAは「国民との約束を果たさないまま拙速に参加表明は極めて遺憾。断固反対運動を展開する」とする一方,経営者協会は「電子関連など輸出企業が多い県内の企業にはメリットがある」としている。


  以上が東日本での反応だが,他県でも農林水産業関係者はTPP交渉参加反対ないし,聖域が守れるか懐疑的。輸出産業関係者は賛成である。参加による損失額を試算しているいくつかの県を紹介すると,
高知:農林水産物158億円影響,一方、製造品出荷額では110億円増加すると予測。輸出増に伴う効果という。「製造品出荷額の増加分より、農林水産物の減少額の方が大きい。
大分:農水産出額332億円減少すると試算。
宮崎:農林水産物の生産減1254億円減少すると試算。

  自民党の選挙公約は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り,交渉参加に反対」というものだった。首相は米国大統領との会談で「日本の聖域は守られる」と判断したが,果たしてそれを信じていいものか。TPP交渉は他国ですでに開始されており,日本は後からの参加である。すでに農産物などについて非関税化がカナダ,オーストラリアとの交渉で決められているという。つまり日本が考えている聖域はすでに守られてないという報道がある。これが本当なら,日本の食糧自給率は現状より更に低下し,その結果今後は国際関係によって日本の食糧事情が支配され,食料の安全基準も当然現状を保つことができなくなることは必至である。遺伝子組み換えをしているか否かが分からない食品をなぜ食べなければならないのか。日本国内できめられていた以上の濃度の農薬の基準を超える食品をなぜ食べなければならないのか。
  同時に,第一次産業で生計を立てることは至難の業になり,日本国内の農地,山野は荒れ放題になることは十分想像できる。同様に医療,保険,知的所有権などの諸問題が脅かされることになる。

  日本のTPP参加による影響額は政府試算によると,農業は3兆円減となり,食料自給率は27%に低下するとしている。自動車をはじめとする輸出産業を利する一方で今まで日本を支えてきた一次産業が荒廃することは日本国の滅びのはじまりになるのではないか。

  朝日新聞の調査によると(3月19日報道,有効回答は1553人),TPP交渉参加表明「評価する」71%,参加に賛成53%,聖域を守ることができる39%としている。71%の数字だけを見て国民の多くがTPP参加を歓迎していると思い違いして欲しくない。あくまでも「聖域」が守られるという条件が担保され,交渉の場につくことに賛意を示しているだけである。だが,その「聖域」が必ずしも明示されておらず,また交渉に参加することが無条件にすべてが非関税の前提を受け入れることであってのことと強弁され,農林水産業の関係者に「TPP補助金」などという札束で頬を叩くようなことがあってはならない。

  食糧自給率が30%にも満たず,食の安全が担保できないような国に未来はない。一部の産業を利するだけのTPPに賛成するわけに行かない。
  TPP交渉参加表明交渉がうまくいかず食の安全と「聖域」が守れなかった時に首相が責任ととって辞任したところで国民には何の足しにもならないことは知っておくべき事である。
 
<前                            目次                            次>