日々の抄

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 国益を優先しているのか

2013年4月25日(木)

   TPPの交渉参加を予定している11カ国のうち、最期まで日本の参加を認めていなかったカナダが20日、日本の参加を承認し,7月下旬にマレーシアでの開催が検討されている交渉会合から参加することになった。
 TPPのメリットは各国が輸入品にかけている関税がなくなり、自動車などの輸出が増えることだ。だが,日米両政府の合意では、日本が農産物にかける関税の維持に理解を求める代わりに、米国が日本車にかける関税をなくす時期を「最大限に後ろ倒しする」ことになった。米国が日本車にかける関税は乗用車が本体価格の2.5%、トラックが25%。これをなくすのは早くて10年ほど先になるという。TPP交渉で「コメ」「麦」「豚肉・牛肉」「乳製品」「甘味資源作物」の5品目の関税を守ろうとしているが,そうなると農家は安心だが、消費者や外食産業には価格面のメリットがほぼなくなる。農業国のニュージーランドやオーストラリア、カナダが「すべての品目を交渉の対象にする」「高い自由化を実現する」などと求め、カナダは米国のように日本車にかける関税を残すことも主張している。
 合意までの協議では、米国は日本に対し、かんぽ生命ががん保険などの新事業を始めるのを認めないよう求め,日本郵政傘下のかんぽ生命保険ががん保険など新商品を申請した場合に、日本政府は当面認可しないことを表明。政府の信用力を背景にかんぽ生命が業務を広げるのを懸念する米側に配慮した。
  そもそも「国益を守る」と首相が強調していたTPP参加表明だったが,交渉がはじまる前から,自動車,保険について制限されるのははじめから負けが見えている。これでは何のための参加なのか理解に苦しむ。

  その国益は守っていくとしている政府関係者を含め,小泉政権時に近隣諸国との関係が一層悪化したと同様の事態に陥りつつある。麻生太郎副総理・財務相ら3閣僚が、春季例大祭に合わせて靖国神社に参拝。安倍晋三首相は参拝しないまでも「真榊を奉納した。また靖国神社への国会議員168人が参拝。人数の把握を始めた87年以降で最多という。特に韓国が反発を強め,予定していた尹炳世外相の訪日を、先送りし,古屋圭司拉致問題相が予定していた韓国訪問を見送るという。
  麻生副大臣が首相経験者ということは反発の大きな要素である。日本遺族会の会長である尾辻氏は、靖国参拝を巡る中国、韓国の反発について「国会議員が国のために殉じた英霊に参拝するのは、どこの国でも行っており、ごく自然な行為だ。反発はよく理解できない」としている。言うまでもなく,『極東国際軍事裁判で処刑された東条英機元首相らA級戦犯が合祀されていること』に対し近隣諸国が,侵略戦争の肯定と受け止めていることは周知のこと。

  北朝鮮の核の脅威が現実問題になっている昨今,韓国,中国と協調して問題解決すべきときに,明らかに両国が反発することが分かっていながらなぜ閣僚が靖国参拝するのか理解に苦しむ。日本国民として,望まず戦火に散ったいった人びとの命を祀ることを否定する人はいまい。だが,昭和天皇も「この年の この日にもまた 靖国の みやしろのことに うれひはふかし」と詠じているように,A級戦犯が同時に祀られていることに対する反発が日本国内にも根強くあることを忘れているのではないか。
 そもそもA級戦犯14人の合祀が、当時の松平永芳宮司に代わった直後の1978年10月に、こっそりと行われたにも関わらず,分祀はならないということに問題がある。
  近隣諸国からの靖国問題で反発を避けるためにはA級戦犯の分祀しかない。そのA級戦犯は極東国際軍事裁判で戦犯にされたのであって国内法的には犯罪者でないという考えをしている限りこの問題の解決はなさそうである。

  25日付の新聞川柳の「外を見ずみんな行くから俺も行く」,「もし議員でなけりゃ拝む人かしら」は痛快。閣僚の立場でありながら私的参拝だから問題ないなどという詭弁が通用しないことは国民を愚弄するもの。立場を離れてからなら毎日参拝しても誰も何も言わない。国家議員は個人信条を越え国益を考えて行動すべきである。
 
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