日々の抄

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 言葉を大切に

2013年7月17日(水)

  参院選まで残り僅かになってきた。最近の政治家の街頭演説,SNSなどでの発言があまりにも,それを聞く人への配慮,影響力を考えないお粗末なものが多すぎるように感じている。そのいくつかを記しておきたい。( )内は報道された日付である。
(1)「彼に外交を語る資格はない」 安倍首相,外交批判され(2013/6/13)
 北朝鮮と日本人拉致問題をめぐり,ともに交渉にあたった田中均・元外務省アジア大洋州局長の「右傾化が進んでいると思われ出している」の発言に対し,フェイスブック(FB)で,拉致被害者5人の扱いを政権内で議論したとき、田中氏が「送り返すべきだと強く主張」し,「外交官として決定的判断ミス。そもそも彼は交渉記録を一部残していない。彼に外交を語る資格はない」などと批判している。
   一国の首相が11年も以前の出来事を持ち出して,ともに交渉に当たった人物からの言葉に FBで反論することはあまりに軽率で,大人げない。飛ぶ鳥落とす勢いの自分に対して批判するとは何事と言わんばかりで,奢りと限りなき危なさを感じる。「右傾化が進んでいる」と思っているひとが少なからずいることを素直に受容する大きさが今の首相にはない。11年間ずっと恨みに思っていたとは気持ちが悪い。悪口を言われた小学生が学級日誌に落書きをしていることと何ら変わりなく,小物政治家と言わなければなるまい。

(2)「原発事故による死亡者は出てない」 自民・高市政調会長(2013/6/17)
 自民党の高市早苗政調会長は「事故を起こした東京電力福島第一原発を含めて、事故によって死亡者が出ている状況ではない。安全性を最大限確保しながら活用するしかない」と原発再稼働を目指す考えを強調した。
   復興庁によると,「震災関連死」は,ことし3月末までに合わせて2688人。福島原発での爆発事故そのものでの死者以外の「震災関連死」は高市氏によると死者ではないのか。
   2002年7月に名古屋市で開催された「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」において,当事者である中部電力の課長が「福島原発による放射能の影響で亡くなった人は一人もいない」などと発言と同類である。一般国民の意見を聴する場で当事者が発言したことも含め批判が噴出した。このことと高市氏の発言は何ら変わらないどころか,「原発は廃炉まで考えると莫大なお金がかかるが,稼働している間のコストは比較的安い」と,安全性より経済性を優先している自民党の考え方が浮き彫りにされた。
 高市氏はその後,「福島のみなさんがつらい思いをされ、怒りを持ったとしたら申し訳ないことだった。おわび申し上げる」「私が申し上げたエネルギー政策のすべての部分を撤回する」としている。「〜としたら」というような,仮定法を使っていることは腹立たしい発言で本当に反省しているとは思えない。自分のメンツは潰されたくな気持ちがありありである。選挙前だから反省しているふりをしておこうとする姿勢が見え透いている。

(3)「平穏を選ぶなら医療費減」 甘利経済再生相、終末期の延命で持論(2013/6/18)
 甘利明経済再生相は,終末期の延命措置について「チューブにつながれて最期を迎えるのは悲惨だと思う人は多い。本人の意思確認をして『平穏な道を選びたい』という人ならば、それだけで医療費は下がる」「患者の尊厳を尊重して対応が図られ、医療費が減ることにもつながれば、患者本人にとっても世の中にとってもいいこと」と述べている。この発言は「医療費を減らすために見込みのない患者はさっさと死を選ぶことが望ましい」とも聞こえ,人の命を軽んじている極めて軽率な発言である。経済再生相としては職務に忠実なのかもしれないが,ひとの死を医療費とともに論じるお粗末さは語るに落ちる。

(4)「黙れ,ばばあ!」 自民・平井氏ネット党首討論に投稿(2013/6/29)
 自民党ネットメディア局長の平井衆院議員は28日,スマホやPCでメッセージが即時画面上に表示されるインターネットで生中継された党首討論で,社民党の福島党首が冒頭発言した際に「黙れ,ばばあ!」などと書き込んだ。
  いかに自分の考えと異なる立場の人物であっても,あまりにも野卑で品性を疑われる書き込みをしていることは人間性を疑われる所業である。ネットメディア局長さんが率先垂範してこうした書き込みをすべしとしたいのか。少年が気に入らぬ事を腹いせに無分別にネットに書き込みをしていることと何ら変わりない。思い上がりと政治家,人間として程度の低さを感じる「選良」さんである。

(5)「公正さを欠く」 自民、TBS取材拒否 国会報道(2013/07/05)
   6月26日放送の「NEWS23」で通常国会会期末の法案処理に関して自民党は「重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解する内容があった。マイナスイメージを巧妙に浮き立たせたとしか受け止められず、看過できない」とし,4日,「公正さを欠く」などとして当面の間,党役員会出席メンバーに対するTBSの取材や出演要請を拒否すると発表。
   自分に都合の悪い報道があれば取材拒否をしようと考えていることはあまりにも了見が狭すぎる。翌日には選挙に不都合があると判断して前言を取り消しているが,はじめからもっと政権与党として泰然と受け止める度量が求められる。ここでも権力の思い上がりを感じる。

(6)「横田めぐみさん,お妾に違いない」 石原共同代表(2013/7/13)
 日本維新の会の石原共同代表は12日街頭演説で,北朝鮮に拉致された横田めぐみさんについて、「非常に日本的な美人だから、強引に結婚させられて子どもまで産まされた。誰か偉い人のお妾になっているに違いない」と述べている。
   何を根拠にこうした発言ができるのか。発言の根拠を聞きたい。この発言をめぐみさんの家族がどのような気持ちで聞いたか石原氏は考えているのだろうか。街頭演説の勢いでいろいろ勇ましい発言をしている一部なのだろうが,石原氏の人格を疑う。彼は今までにも多数の妄言やひとを傷つける発言が多かったが,他人を見くびり,ひとを思いやらぬ勇ましい言葉が,政治家として何かをしてくれると期待するのは大きな誤りである。想像力が欠け,とても嘗て小説家だったとは思えない発言である。

(7)「日本の若者にがんばってほしい」 橋下共同代表(2013/7/13)
   神戸市内での街頭演説で,「今の日本ではスマートフォンやアイフォーン,アイポッドを生み出す力がなくなった。だから賃金が上がらない。ベトナムやタイの若者は我々の10分の1や15分の1(の賃金)で働いている。同じ労働力だったら賃金が同じになるのは当たり前。日本の若者にがんばってもらいたい。タイやベトナムを馬鹿にするわけではないが、同じものしか生み出せないなら賃金は同じレベルになってしまう」などとしている。
   タイやベトナムに対する蔑視がある。また,まるで日本の若者が無能のため低賃金での労働が当然と言わんばかりである。不況から抜け出すためには,つまらぬ権力争いをし,10年後,20年後の日本の姿を語れない政治家にこそ責任があり,富の偏りを容認していることが不安な社会を変えられないことに政治家は気づくべきである。


   相変わらず,東北地方で地震が起き続けている。現在の福島原発の状態のまま再びマグニチュード8クラス以上の大地震が発生すれば,津波がなくとも甚大な放射線飛散がおこり,東日本各地に居住することができなくなる不安が今もある。福島原発から200キロも離れている当地でもその不安が続いている。放射線汚染水が地下に浸透し海水を汚染しはじめていることは近い将来,深刻で甚大な被害をもたらす可能性をもっている。福島原発はいまだ終息してないことは確かである。
   そうした中で,経済性のために「再稼働の可否は、3年以内に結論を目指す」としていたにも関わらず,原発再稼働は既定路線であるような発言が聞かれる。自国の原発事故が終息し事故後の対策が十分でないのに,他国に原発は安全として売り込んでいることは許されざることである。また必要性の要望があるにも拘わらず復興予算が6割しか執行されず,目的外に全国規模で使われているのはどういうことなのか。放射性廃棄物の最終処理の方法と施設ができない限り原発再稼働はすべきではない。

   増税,年金問題をはじめ不都合なことは参院選前に可能な限り触れないようにしていることは不正義である。参院選後に国民が痛みを負担させられであろうことは見えている。原発,消費税,年金,医療,憲法ともにきょうの生活に直結する問題である。参院選がまるで「ねじれ解消の可否」が争点あるような誤解が伝えられている,衆参のねじれがなくなり政治が国民のために行われるなら構わないがそうは思えない。むしろ多数党独走の危険を危惧する。参院が衆院と同じ事をやっているなら,参院の存在価値はない。ねじれがあっても,主張すべきはきっちり反論を論破して自らの考えを通そうとする強い意志があれば,ねじれ解消が争点ですなどと訳の分からないことは言わないはず。

   政治家は自らの立場を考え自ら発する言葉がどのような影響があるか考えて発言すべきである。それだけの思慮がない人物は公衆の面前で,後ろ馬に乗り分かったような発言は控えるべきである。ひとを傷つけることに気づかず妄言を続け,国民の命の大事さを理解しない人物は退場願いたいものである。 

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