日々の抄

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 シリア軍事介入は正当か

2013年9月4日(水)

   シリア内戦で化学兵器使用されたと伝えられている。反体制勢力が8月21日、ダマスカス郊外で政権軍による化学兵器爆弾の使用で市民1300人以上が死亡したと公表。「国境なき医師団」(MSF)は8月24日、同組織が医療援助をしているダマスカス県の三つの病院で、神経ガスの症状を示す患者を、21日午前中の3時間で約3600人受け入れたと発表。355人は死亡したとされる。9月1日、人権団体「シリア人権監視団」は、シリアでの約2年半にわたる内戦状態で11万人以上が死亡し、そのうち少なくとも5833人の子どもが含まれていると発表している。

   これに対し米国オバマ大統領は,化学兵器をシリア政府軍が使用したとして,人道上の見地からシリアへイギリス,フランスと連携して軍事介入することを決めたが,イギリスでは議会で否決されて断念。フランスは米国に同調する模様だが単独での行動はないという。米国では議会の承認を必要としてないが,オバマ氏は議会に承認を求めると声明を発表している。自分だけでなく議会にも責任を負わせようとしていることが透けて見える。

   安倍首相は9月2日「重い決意表明と受け止めている。米議会のプロセスを注視したい」と強調し,日本政府としての対応は「米国はじめ国際社会と連携を取りながら分析、検討していく。しっかりと少しでも状況が改善していくよう対応したい」と述べ,菅官房長官は英国が軍事行動を断念したが安倍政権の判断への影響はないと述べている。また, 岸田外相は,米国のケリー国務長官と電話会談し,シリア情勢の改善・正常化に向けて日米両国が引き続き緊密に連携することを確認している。岸田外相は,シリアで化学兵器が使用された可能性が高いと考えており,化学兵器の使用は人道上許されず,シリア情勢の悪化についてはアサド政権に責任がある、という日本政府の考えを説明したという。
米国などがシリアへの軍事介入に踏み切れば,アサド政権を支持するイランが介入に反発し、米国に報復することも懸念され,その一環として機雷によりホルムズ海峡を封鎖する恐れもあり,日本も無関係の状況ではない。

米国がシリアに軍事介入するについて次のような問題点がある。
(1) シリアに軍事介入する理由は,化学兵器を使用するという非人道的行為を阻止することを目的としているが,米国は,ベトナム戦争で枯れ葉剤を無差別に使用してきた(その結果ベトちゃんドクちゃんのような奇形児が多数生まれることにつながった)。イラクではナパーム弾,劣化ウラン弾を使用したとされている。また9.11の主犯とされるウサーマ・ビン=ラーディンを捕らえるという名目で米兵も含めた多数の死傷者を出している。最も強く指摘しておきたいことは,戦後68年経過していても,広島長崎の原爆投下を,6割を超える米国がいまだ正当な行為と考えていることである。
   そんな米国が,自国から何万キロも離れた地球の反対側にある国にまで,「世界の警察」を自認して,自国の利益を考えて数え切れない他国民の命を奪ってきて,「シリアの化学兵器使用は非人道的行為だ」などと言う資格を持っているとは思えない。
   言うまでもなく本当に化学兵器が使用されているなら許されざる行為であり,このことを世界に誇れる平和憲法を持っている日本がシリアを非難するなら正当な抗議である。

(2) シリア政府軍が化学兵器を使用したと米国は判断しているが,国連も調査団を派遣している。その結果をなぜ待てないのか。化学兵器がサリンであり,それを「政府軍」が使用したという明らかな証拠は何なのか。9月3日,シリアの駐日代理大使は都内で,シリアで化学兵器を使ったのは反体制派だとして、アサド政権の潔白を主張している。反政府軍が使用したものでないという根拠を明らかにしない限り,国際社会は認めるわけにいかないだろう。

(3) 日本政府はシリア政府軍が化学兵器を使用したという米国の調査結果を肯定しているが,「日本国独自の調査結果」はどこにあるのか。イラク紛争で,「大量兵器」があるとして米国を支援したが,結局はそうした根拠がないことが後に判明し,イラク支援の正当性は失せ,米国の軍事介入はいまだ毎日のように起こっているテロを残したままではないか。これと同じくして,米国の云うがままに,日本国独自の判断材料なしに追従すればイラクの二の舞になることは見えている。首相も外相も「米国と連携していく」としているが,「連携」とは何なのか。

(4) 海外での武力行使が認められない現行憲法上の制約で自衛隊が今回の軍事介入に関与することはありえないが,日本の国益にかかわる事態も想定されると考えれば,集団的自衛権を認めようとする立場の政府は,長年願ってきた改憲がなされれば米国の要請があればシリアに進駐することもありうるのか。とんでもないことである。日本が軍事介入ないし支援をすれば,相応の報復が日本人および日本国本土にもありうることを考えるべきである。


   もう一度書いておきたい。米国は何の権限があって自国から一万キロも離れたシリアに軍事介入しようとしているのか。国連の事務総長が言うように,「合法な武力行使は自衛か安全保障理事会が容認した場合だけ」である。このいずれも該当しないシリアへの軍事介入の正当性はどこにあるのか。日本政府はなぜ米国に忠告することなく追従するだけなのか。こんな属国紛いのことをしている限り,いつまでも日米地位協定を変えることができないのではないか。米国がシリアに軍事介入したことが,中東に火種を播き,大きな災禍を世界中にもたらすことがあれば,米国はあまりにも大きな罪を犯すことにならないか。また日本の責任も大いに問われるだろう。
 
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