日々の抄

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 汚染水対策に道筋はついたのか

2013年9月5日(木)

   福島原発の廃炉作業の中で汚染水の海への流出が大きな問題になっている。この問題は世界につながっている海の汚染ということから日本だけの問題でなく,処理を誤り海が放射物質で汚染されたままになれば人類存亡の問題になりかねない重大な問題である。
   世界各国でも,この問題の報道は続けられているが,日本国内では,あまりに慣れっこになって新聞報道も国民にこの問題がいかに困難で重大かつ危険な局面を迎えているかを十分伝えているとは思えない。だが最近になって2020年オリンピック誘致に関係して,急速に注目を集めている。

   当事者である東電がいろいろな場面で都合の悪いことを明らかにせず,いよいよの場面になってはじめて本当のことを白状するようなことを知ると,いちいちの報道の内容を俄には信じがたい状態になっている。6月以降の汚染水処理に関する主な出来事を列挙してみる。書かれている日付は新聞報道された月日である。

■4月6日 東電は地下貯水槽から漏れた放射能汚染水が推定を約120トン、漏れた放射能は約7100億ベクレルと発表。事故前の年間排出上限の約3倍の量。2011年12月に政府が事故収束宣言して以来最大という。
■6月5日 東電が福島第一原発2号機の事故直後、原子炉格納容器の圧力を実際より約10倍高いと誤認し、それを機に冷却水の注入を大きく減らしていたことが判明。冷却が不十分となり、放射性物質の放出がその分増えた可能性がある。
■6月25日 東電は福島第一原発の港湾内の海水から、原発事故後、最高濃度となる放射性物質のトリチウム(三重水素)が検出されたと発表。汚染水が土中から海に漏れている可能性があるとみて詳しく調べるという。
■7月27日 福島第一原発2号機海側の坑道で採取した水から、1リットルあたり23億5千万ベクレルの高濃度の放射性セシウムを検出したと発表。事故直後に坑道に流れ込んだ汚染水が今もたまったままになっているとみられる。坑道内の水を採取したところ、1リットルあたりセシウム134が7億5千万ベクレル、セシウム137が16億ベクレルが含まれていた。ストロンチウムなどのベータ線を出す放射性物質も7億5千万ベクレル検出され,事故直後に海に流れ出した汚染水とほぼ同程度の濃度という。
■■8月8日 政府の原子力災害対策本部は,1日あたり推定300トンの地下水が放射性物質で汚染され、海に流出しているとの試算を明らかにした。試算では、残り600トンの地下水のうち300トンが建屋周辺の汚染土壌の影響で汚染水となり、海に流れ出ているとした。漏れ始めた時期は特定できず、事故直後からずっと漏れ続けている可能性も否定できないという。残りの300トンは汚染されずに海に流れているとみられる。
■■8月21日 東電社員の1日2回の定時パトロールで汚染水漏れを見つけた。東電は漏れた量は2カ所の水たまりで計120リットルと発表。しかし20日午前9時半に円柱形のタンク(高さ11メートル、直径12メートル)の水位を確認したところ3メートル近く下がっており、漏れた量を300トンに訂正。外に漏れたほとんどの汚染水は地中に染み込んだとみられる。
■■8月22日 東電は、ほとんどのタンク群の周りに水を食い止めるコンクリート製の堰を設けたのに排水弁をすべて開けていたことが分かった。今回の漏出事故では、大量の汚染水が排水弁から堰の外に漏れ、汚染水が海に流れた可能性は低いとしていた東電も、「汚染水が海に流出した可能性は否定できない」と説明。
■■8月24日 東電によると、原発から約500メートル離れた港湾口で19日に採取した海水から1リットルあたり68ベクレルを検出。12日は検出限界未満だった。港湾内の4カ所でも52~67ベクレルと6月以降で最高だった。
東電がタンクを巡視する際の点検記録を作っていなかったことが23日、原子力規制委員会による現地調査でわかった。東電の汚染水管理のずさんさが、大量の汚染水漏れにつながっていた。規制委は点検と管理を強化するよう東電に指示。
   東電はタンクから汚染水漏れがないか、1日2回巡視しているが,漏れに気づかずに約300トンが漏れ、一部は海に流れ出ていた可能性が高い。巡視の際に放射線量を測って記録すれば、汚染水漏れを早い段階で見つけることができる。しかし、点検は水漏れがないかを外から見るだけだった。
■■8月25日 東電会長が幹部やゼネコン関係者から聞いた話では、今回水漏れを起こしたタンクは、設置工事の期間が短かった上、東電の財務事情から安上がりにすることが求められていた。タンクは組み立て式で、猛暑によってボルトや水漏れを防ぐパッキンの劣化が、通常より早まる可能性も指摘されていたという。会長は「野ざらしで太陽光線が当たり、中の汚染水の温度は気温より高いはず。構造を考えれば水漏れは驚くことではなく、現場の感覚では織り込み済みの事態だ。現場の東電の技術スタッフも心配はしていた」と明かす。
■9月3日 安倍政権が東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れへの対応方針を決めた。総額470億円の国費を投入を決定。遮水壁建設に320億円、現在トラブルで試運転が止まっている放射性物質除去装置(ALPS)より高性能の装置開発に150億円を充てる。原子力災害対策 本部の中に汚染水対策の関係閣僚会議を設置し、関係省庁の職員も原発近くに常駐させる。
   だが,300トンの汚染水漏れが見つかったボルトで締めるフランジ型のタンクへの対応に国は費用を負担しない。漏れにくいとされる溶接型のタンクに入れ替える方針や見回りの強化を示したのみ。
■■9月3日 前日に毎時100ミリシーベルト以上の高線量が計測されたタンクを正確に調べたところ、同300ミリシーベルトだったと発表。東電は「汚染水が漏れた形跡はなく、タンク内の水位にも変化はない」と説明。2日の測定では、毎時100ミリシーベルト以上を計測できない線量計を使用しており、今回は計測上限が毎時1万ミリシーベルトの線量計を使い再測定した。
   H3エリアと呼ばれる場所にあるタンクで今月1日には、毎時1700ミリシーベルトが測定されていたが、東京電力が3日に改めて測定したところ、毎時2200ミリシーベルトに上昇。また、このタンクの反対側では、先月末に毎時1800ミリシーベルトが測定されていたが、改めて測ったところ毎時400ミリシーベルトに下がっていた。

  上記の中で■■で記した日に東電の事故処理への甘さ,誤りがある。つまり,
  急ごしらえの多数の汚染水タンクの中の300個は止水剤を挟み込みボルトで締め付けたもので,出費を抑えるために当初から漏水することを承知していた。
   一日600トンの地下水が原発敷地に入り込み,その内の300トンが周辺の汚染土壌の影響で汚染水となり海に流出していた。タンクからの漏水をチェックするためのまわりの堰の出口を開放していて漏水を調べてなかった。また,東電がタンクを巡視する際の点検記録を作っていなかった。など,つぎつぎに起こるトラブルに追われ,先を見据えた対策がとられてなかったことが,東電の汚染水対策の破綻を来したことにつながる。
   300ミリシーベルトもの放射線量があるのに100ミリシーベルトしか計れない線量計を使っていたことなどお粗末な限りである。2200ミリシーベルトの放射線量は数時間いれば人間が死に至る放射線量であるが,ますます現場での作業が困難になってくることは明白である。


  政権が,やっと乗り出したのも「オリンピック招致対策」が無関係ではない。470億円もの国費の投入といえど,目の前のすぐに対応しなければならない漏水しているボルト締めの汚染水タンクを漏水しないと云われる溶接型タンクに入れ替えることへ負担されず,遮水壁も対応することが決まっただけで何時どのように施工されるのかという行程表が提案されているわけではない。やろうとしていることに誤りはないが,有効に機能してない放射性物質除去装置(ALPS)より高性能の装置が可能なのか,いつどのような機能を期待できるのか全く不明であり,全く先が見えない。

   近日中に決定される予定の2020年オリンピック誘致で,果たしてこの程度の国の対策が,招致に有利に働くのだろうか。誘致活動は最終段階に入っているが,9月4日 東京五輪招致委員会の竹田理事長がIOCの委員らに宛てた手紙の内容が明らかにされた。
   手紙は9月27日付で、現地時間2日、ロンドン発の記事で内容を詳細に報じられた。それによると,
〈東京招致のリーダーはIOC委員に福島は大丈夫と保証する〉からはじまる。
〈東京の生活はこれまでと変わったこともなく、安全なまま。空気も水も影響を受けていない〉
〈皆さんも、福島原発の状況をニュースで見たかもしれませんが、もう一度、言わせて欲しい。東京は全く影響を受けていない、と〉
〈東京の空気と水は毎日計測されており、何か問題があるという根拠は全くない。それは日本政府によっても確認されている〉
〈世界中が政治的にも経済的にも不安定な中、東京は極めて安全。地震や津波から復興するうえで、五輪招致を国の魂を高揚させるチャンスにしたい〉
   竹田氏はAPの電話取材にも応じ、「東京の放射能濃度はニューヨークやロンドンと同レベルだ」と語ったという。

   黙って聞いていると,「東京だけは放射能については安全だから」として,全く福島と東京は別の次元の話になっているのには些か違和感を感じる。福島の犠牲で作られていた電気という便利さを享受していたことは忘れ去られている。3.11直後,多くの外国人が福島以外からも放射能の危険を感じて日本を去った。除染が進んでいても,放射線の半減期を考えれば各地の空中放射線量はあれから何も変わってないのだ。

   自民党の資源・エネルギー戦略調査会と経済産業部会の合同会議がが9月4日開かれ,首相に決議書提出することになったが,出席した平沢勝栄衆院議員は,「なぜ五輪招致前に(汚染水問題が)発覚したのか」と五輪招致への影響を懸念したという。オリンピックを招致するためには他国民を欺いてどんな手を使ってもいいというのか。

   オリンピック招致に熱が入るがために,今も15万人が自宅へ帰還できず不自由な生活を余儀なくされていることを忘れるわけにいかない。
 
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