日々の抄

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 オリンピック招致がきまったが

2013年9月8日(日)

   2020年オリンピックの東京開催が決まった。経済効果がどうの,アベノミクスが加速するだの,消費税を上げやすくなるなど,下賤な話が聞こえてくるが,人間にしかできないスポーツを通して国際親善を図り,限界まで挑戦する各国の選手の逞しさに触れることができる楽しさに期待しているひとが多いに違いない。

   その誘致の最終会場の席上で,安倍首相は予想通りの質問である「福島原発の汚染水の危惧」について,
「汚染水による影響は,福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメールの範囲内で完全にブロックされている。福島の近海で行っているモニタリングの数値は最大でもWHO世界保健機関の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。また,わが国の食品や水の安全基準は世界で最も厳しいが,被ばく量は日本のどの地域でもその100分の1だ。健康問題については今までも現在も将来も全く問題ない。抜本解決に向けたプログラムを私が責任を持って決定し,実行していく」
と力強く語っている。

   これが東京誘致に至る決め手になったとの見方が強いようだが,話の内容が事実と異なっている点がある。
■「汚染水が狭い範囲に完全ブロックされ」ている状況ではない。
新聞報道によると,
   6月25日 東電は24日,福島第一原発の港湾内の海水から,原発事故後,最高濃度となる放射性物質のトリチウムが検出されたと発表した。汚染水が土中から海に漏れている可能性があるとみて詳しく調べる。
   7月6日 東電は5日,福島第一原発2号機の海側に新たに掘った井戸の水からストロンチウムなどの放射性物質が1リットルあたり90万ベクレル検出されたと発表した。2011年4月には,近くにある取水口の作業用の穴から高濃度の汚染水が大量に海に流出した。
   7月23日 福島第一原発の汚染水が海に流出していることを東京電力が認めた。福島県は22日,東電の担当者を県庁に呼び,抗議。漁業者からは不信の声が上がった。東電福島復興本社は22日,流出の確認が遅れた原因を「社内の土木部門が今年1月に観測井戸の水位変動を確認しながら,その情報が放射性物質を監視する部門に伝わらなかった」と説明。
   8月2日 東電は,2011年5月以降に汚染水に含まれて流出した放射性物質のトリチウムの量が20兆〜40兆ベクレルに上るとの試算を明らかにした。
   8月8日 福島第一原発の建屋近くの地下水から高濃度の放射性物質が検出されている問題で,政府の原子力災害対策本部は7日,1日あたり推定300トンの地下水が放射性物質で汚染され,海に流出しているとの試算を明らかにした。
   8月22日 漏れ出した量が数千兆ベクレルとみられており,レベル3になった。
   8月22日 東電は,原発の港湾内の放射性物質の濃度から,ストロンチウムが1日に30億〜100億ベクレル,セシウム137が40億〜200億ベクレル流れ出ていると試算。事故直後の2011年5月から汚染水が地下水に漏れ出し続けていると想定すると,総放出量はストロンチウム90で10兆ベクレル,セシウム137は20兆ベクレルと見積もった。
   8月22日 東電は,漏れ出た放射性ストロンチウムは最大10兆ベクレル,セシウムは同20兆ベクレルとの試算結果を発表。通常運転時の1年間の放出管理目標値(2200億ベクレル)の100倍を超える。
   8月24日 東電は,福島第一原発の港湾内で採取した海水の放射性トリチウムの濃度が1週間で8〜18倍に高くなったと発表。1〜3号機周辺の地下水汚染の発覚で,監視を強めた6月以降では過去最高。港湾外への放射能汚染の拡大が進んでいるとみられる。
   8月24日 1〜3号機周辺の汚染地下水が直接海へ流れ込んでいる。政府は1日300トンの汚染水が流出し続けているとの試算を発表している。
   8月8日 東京大と海上技術安全研究所などのチームは,海底のガンマ線を測る計測装置を開発。船から計測装置を下ろし,継続的に原発周辺の海底の放射性物質の分布を調べた。原発から沖合5.9キロと3.2キロの海底のくぼんだ所で,セシウム137が周囲より濃度が約10倍高かった。また,沖合1.6キロの岩場では,平均で海底土1キロあたり約500ベクレルだったが,5千ベクレルを超える場所も数カ所あり,最大値は約4万ベクレルだった。

   海への汚染水の流出が報道されているが,直接外洋へ流出したとしてない。このことから首相は「0.3平方キロメールの範囲内で完全にブロック」としているのだろうが,原発湾内と外洋はつながっている。また毎日300トンもの汚染水が湾内に流出しているのだから,原発湾内の水が外洋に行かないと説明したいのなら,その水はどこにいくのか。湾内の汚染水は外洋に流れ出ていると考えるのは当然ではないか。つまり「0.3平方キロメールの範囲内で完全にブロックされ」てないのである。

■「わが国の食品や水の安全基準は世界で最も厳しいが,…。健康問題については今までも現在も将来も全く問題ない 」
   放射線による健康問題が「今までも現在も全く」問題ないなら,なぜ現在も漁業の操業ができないのか。福島をはじめとする東北地方の米作がなぜ制限されているのか。震災後東北近海の漁でとれた魚介類が放射能汚染されているとして廃棄されていたのは,健康に問題があったと考えたからではないのか。「震災直後に比べれば放射線による汚染が少なくなっている」というのならわかるが,「今までも現在も全く」問題ないなどということを誰が信じるのか。これは欺瞞である。
   本年4月7日の報道では「原発周辺の海では時折,食品中の放射性物質の安全基準を超えた魚が見つかり,約40種の魚介類が出荷制限されている。沿岸漁業の本格的な再開の見通しは立たず,昨年6月から放射性物質の影響が少ないタコやツブ貝の一種などから順次,試験操業を続けている。
   福島県は原発事故翌月の2011年4月から,魚肉の放射線量の調査を続けている。データからは事故直後の数値から回復しつつある様子が読み取れる。
   岸近くで取れたコウナゴに限られた同年4月の調査では,13検体のうち12検体で放射性セシウムが国の基準とされる1キロあたり100ベクレルを超え,1万4400ベクレルに達した検体もあった,としている。

   日本国の首相が自信たっぷりに「抜本解決に向けたプログラムを私が責任を持って決定し,実行していく」と約束したことを各国のIOC委員が信用しての誘致決定と考えれば,オリンピックを誘致するために汚染水問題をはじめとする原発問題解決に国がやっと本気になって動き出したことは歓迎すべき事である。自民党には,原発事故対策を民主党がしっかり対処しなかったからなどと,いまだグズグズ恨み言を言っている議員もいるらしいが,今起こっていることは現政権が対応することは当然のことである。それにしても,首相は日本国民に対してこれほど明確に懸命に,汚染水問題を語りかけたことがあるだろうか。外面があまりにもよすぎるのではないか。盤石な政治的体制ができているから,そんなことは必要ないのか。汚染水をコントロールできているとの考えは甘い。

   2020年の東京オリンピックはハデハデしくない,たとえば「自然環境にやさしい大会」とか「エコを考えた大会」,「バリアフリーに徹した大会」のような,これから100年後を見据えた目標を立てた,今までになかった大会にしたいものである。そうした大会を期待しつつも,果たしてそれまで生きていられるか自信がないのは残念な限りだ。

 
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