日々の抄

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 新大学入試制度は改革なのか

2013年10月21日(月)

 政府の教育再生実行会議が、国公立大入試の2次試験から「1点刻みで採点する教科型ペーパー試験」を原則廃止する方向で検討するという。同会議の大学入試改革原案では、1次試験で大学入試センター試験を基にした新テストを創設し,結果を点数グループでランク分けして学力水準の目安とする考えという。2次試験からペーパー試験を廃し、面接など「人物評価」を重視することで、各大学に抜本的な入試改革を強く促す狙いがある。実行する大学には補助金などで財政支援する方針という。

 これまでの会議で「わずかな点差で合否を決めることには意味がない」との意見が多く,受験学力重視の入試が変われば、高校で様々な体験を積む余裕が生まれ、生徒の可能性を広げられる」、という意見も示されたというが,いったいどのような学力を大学入試で合格判定の基準にしようとしているのか,大いに疑問である。どのような学問的な問題を解決する能力を持ち,大学生としての資質をはかろうとしているのだろうか。人柄がいいことや,ボランティアをたくさんしてきたことと,学問をやってく力を持っているかは別問題である。
 
 人柄が直接人間の命に関係する医学部をはじめとする医療関係では確かに,知識が豊富で問題解決能力が高くとも,「ひとに対する思いやりや,暖かみをもった人柄」が求められるから,時間をかけた面接で人柄を評価の対象とすることは妥当だろう。
 一方で,患者を研究対象として,社会的名誉を求めることが目的であるような風土こそが,研究論文をどれほど書いたかが評価の対象とされている事が問題ではないか。大学の教官は研究だけが本務であるという思い違いが多いのではないか。学生を教育することにもっと時間を割けるべきである。

 「受験学力重視の入試が変われば、高校で様々な体験を積む余裕が生まれ、生徒の可能性を広げられる」ということが,大いなる反省を求められた「ゆとり教育」と同じ道を辿ることはないか。ゆとりは,学力を伸ばした後の話であって,さまざまな経験を積むことが大事であっても,大学で学問をするための学力がなければどうにもならないことは知るべきである。

 だいたいにおいて「人物本位の選抜促す」などといっていても僅かな面接時間で「人物」を見抜くことができる大学教官がどれほどいるか疑問である。「感じのいい人物」,「はきはきしていい感じ」,「意欲的で見込みがありそう」程度のことが判断できても,それを数値化して,合否の対象とすることが妥当か疑問である。下手をすると「自分にとって都合のいい人物」が良好な判定を受ける危険もありそうである。面接を合否判断に使うなら,判定基準を明示し個人評価の情報公開をすべきである。

  そもそも,何千,何万人もの受験生に面接を果たすほど大学に受け入れ体制があるのだろうか。補助金などで財政支援をするというが,非常勤講師5年制などという,非情な制度が導入されている現状から考えれば,受験生の「人物評価」をするためだけに雇われた人物が面接に当たるつもりなら考え違いである。
 国公立大学が新大学入試制度を導入するば,私立大学もこれに準ずることになるだろうが,現状でも,大学入試問題作成を,受験業者に「下請け」に出していることを考えれば,到底新大学入試制度は「絵に描いた餅」にしかない。因みに今春の大学入試では98大学が1教科100万円程度で受験業者に外注したそうである。

 文科相は「学力一辺倒の一発勝負、1点差勝負の試験を変える時だ」とし、新テスト創設の必要性を強調。さらに、大学ごとに実施する2次試験について・・…2回もペーパーテストをしないで済むよう考えたい」「暗記・記憶中心の入試を2回も課す必要はない」と述べているが,そもそも共通一次試験,大学入試センターテストは,あまりにも多い受験生を篩にかけ,大学が撚りをかけて作った問題の2次試験で,大学で求めている学力を持っているかを検査しようとしてきたのではないか。2次試験が「暗記・記憶中心の入試」などと思っている文科相の認識は甚だ甘い。

 「大学入試があるから高校生が勉強する」ことは厳然とした事実である。その結果,然るべき学力を身につけてきて,それが大学で学問をするための基礎になっていることは確かである。高校時代にいろいろな経験を積むことはいいことだろうが,そのことと大学で学問についていける学力を持っているかどうかは別問題である。AO入試や推薦入試で入学した学生が,大学で学力不足で戸惑いを感じていることを知っておくべきである。大学は入学すればいいというものではない。入学した後,将来への展望をいかに拓こうとするか,そのための意欲と能力を身につけようとするかが大事なのではないか。
 
現状の大学入試制度は必要悪である。下手な大学改革など考えるべきではない。

 
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