日々の抄

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  経験に学びたい

2014年4月18日(金)

 ことしも新年度を迎えてはやひと月が経とうとしている。社会人はもとより、新しい環境に慣れることは学生にとっても刺激的でもあり、不安でもあるだろう。5月の連休になるといわゆる「五月病」になる人も少なからずいるかもしれない。
 不安があったら、何も考えずにやるべきことを時間に追われてこなしていけば知らぬ間に環境に慣れていけるもの。うまくやっていけるかなどと考えることはない。
 
 例年のことだが、大学入試のいろいろなミスが報道されている。ミスを論うつもりはないが、毎年よくも懲りずに同じようなミスを繰り返すものと驚き、大学に対する信頼が薄れていく。
 文部科学省では、入試の出題や採点、合否判定のプロセスで起こる「入試ミス」の件数を集計している。それによると、13年度に入試ミスが原因で合格発表後に追加合格者を出した事案は33大学で42件発生している。そのうち私立大は28大学37件だったという。そのうちのいくつかを書き出してみる。

□ 選択肢に正解なし。選択肢が複数ある
 ・関西学院大文学部一般入試で、選択肢に正解なし。
 ・甲南学園前期日程、英語で下線部と同じ意味の英単語を選ぶ4択問題に正答が二つ。
 ・純真学園大一般入試の化学1で8者択一の選択問題で、正答の選択肢なし。
 ・金沢工業大は、工学部など4学部の入試で、選択科目の「国語総合、現代文」に同じ選択肢があった。「生物1、生物2」では、問題文に誤記。
 ・近畿大一般入試前期「物理」で選択肢から一つの正解を選ぶ3問にいずれも二つの正解。
 ・福岡教育大特別支援教育特別専攻科入試で選択肢に正解がなし。
 ・九州大一般入試前期日程の外国語(英語)で正解が三つ。

□ 問題文に誤りがある
 ・静岡大前期の物理で誤記(「状態Aの気体」とすべきところを「状態AのΔ(デルタ)p気体」とした)。生物では、空欄を埋める問題で、空欄の設定箇所を誤記。
 ・静岡大の後期日程試験物理の問題で、表記すべき条件の記述が抜けていた。試験中大学教員の指摘により発覚。試験中に問題文の訂正を伝え、試験時間を10分間延長。
 ・奈良女子大理学部後期日程一般選抜試験の数学のグラフの問題で「最小」を「最大」と誤記。採点準備をしていた担当者がミスに気付いた
 ・甲南学園前期日程「生物1・生物2」で、細胞の名称を問う設問で漢字の誤記。また日本史Bで問題文中の西暦が1年ずれ、生物1・生物2で「個体群」を「固体群」と誤記。日本史Bでは問題文の必要な語句が欠落。
 ・金沢工業大工学部など4学部の入試で「生物1、生物2」で問題文に誤記。
 ・筑波大学前期日程一般入試の物理で誤字脱落により正解なし。
 ・高崎経済経済学部、地域政策学部一般前期日程で日本史Bと地理Bに誤記と地図の誤りがあり採点対象から除外。昨年度も出題ミスあり。
 ・立教大経済学部経済政策学科・法学部・異文化コミュニケーション学部の日本史の問題で設問の年号が間違っていて正解が存在せず。受験生45人を追加で合格させた。
 ・徳島大後期日程薬学部の一般入試「化学1・2」で誤記。教員が採点時に気づいた。
 ・徳島文理大薬学部数学の問題で誤記。最大16点が加点されたため9人が追加合格に。
 ・北海学園大一般入試の日本史の問題で誤記。新たに3人が合格となった。

□ 採点ミス
 ・明治大学経営学部一般選抜入試「日本史B」で4つの選択肢から正しいものを1つ選ばせる問題で、採点後もう一つ正解があり採点をやり直しの結果2人を追加で合格。
 ・名古屋大前期日程世界史に諸説ある問題があり全員に加点。予備校からの指摘による。
 ・九州大一般入試前期日程の化学で、化合物の組成式を答える問題で、化合物ではない原子1種類でできた物質が正解としていた。昨年度も化合物の構造式を書かせる問題など3問。いずれも正解が複数あったが、大学は正解を一つとして採点していた結果、5人を追加合格。
 
□ 出題が不適切と思われるもの
 ・金沢医科大看護学部「数学」に出題範囲外の問題を出題。
 ・慶應義塾大理工学部の一般入学の「理科」化学の蓄電池の問題文に適切な解答が得られない。
 ・茨城大一般入試前期日程化学で設問文に不備があり、6問の答えが出なかった。予備校からの指摘による。昨年度も有効数字の出題ミスがあった。教育学部音楽の歌の実技試験で、募集要項で事前に伝えていた課題曲とは異なる曲を試験当日に誤って通知。

□ 発表の誤り
 ・名古屋大理学部推薦入試書類選考の合格発表で、掲載した受験番号の記載ミス 。
 
□ 過年度の合格者発表の誤り
 ・高崎経済大学経済学部と地域政策学部の昨年度一般入試前期日程日本史Bで、文中の誤り1カ所を正すことを求めた7問中2問に誤りが2カ所あり、一部の問題が成立しなかった。その結果、新たな合格者が3人いた。別日程で合格していた学生には2度目の試験費用を含め、補償額は計約200万円が支払われた。


 ことし特徴的だったのは高校入試のミスの多さである。そのいくつかを書き出してみる。
 ・神戸市立の4中学校が高校に提出した37人分の内申書(調査書)に記載ミス。灘区と北区の計3中学で、公立高校の一般入試のために作成した内申書88人分にも記載ミス。
 ・神奈川公立高社会で正解が2個あった。
 ・大阪府立北千里高で調査書に記入する受験番号を取り違え、生徒1人を誤って不合格に。この生徒は翌月の後期入試で合格のため、現在私立に通う生徒1人を繰り上げて合格扱いに。

 ・東京都立高校理科に正答を一つに絞れない問題があり。48校139件の採点ミスがあり、本来合格だったにもかかわらず、不合格としていた生徒が4校4人いた。
 ・青森県立高校の前期選抜試験数学の問題の採点基準を訂正。別の数学の問題1問については採点基準以外の解答でも、誤答とはいえない解答には得点を与えた。また、三角定規を持っていた9人について、机の上に置くことが認められているにもかかわらず、数学の試験開始前に誤って三角定規を回収した学校があった。

 ・群馬県公立高校の後期選抜の理科で一部の表に誤りがあり。出題ミスは2006、2008年にもあり、2008年は同様に理科だった。
 ・広島県公立高校の合格発表で合格した受験生1人の受験番号が掲示されないミスがあった。
 ・岡山県の県立高校35校391人分410件で採点ミスがあった。これを受けて、県教育長を監督責任で戒告、ミスに関係した高校長や教諭ら計501人の処分があった。
 ・和歌山県の高校入試で、社会の問題に誤りがあった。出題ミスは国語に次いで2カ所目。合否判定後の出題ミスだったが合否判定に影響はなかったという。

 ・大阪府立高校で採点ミスが25校、37件あるも合否には影響はないという。去年も府立高校54校で114件の採点ミスがあり、8人の合否に影響があり途中入学を認めた。
 ・大阪のある府立高校の前期入試で受験生4人の調査書を取り違え、本来合格だった1人を不合格にしていた。この受験生が同校の後期入試で合格したため、後期入試で本来合格だった別の受験生1人が不合格となった。後期入試で不合格となった生徒は別の私立高に入学した。府教委が今春の入試からチェックリストの活用など再発防止策を講じていたが、同校は守っていなかった。
 

 大学、高校ともあまりのお粗末さに驚くばかりである。それぞれ入試でのミスが一人の人間の将来に大きな影響を与えることを考えれば、責任を背負っている自覚はしっかりもつべきである。誰もミスをしようと思ってしている人はいまい。ミスをなくすためには、ミスをなくすためのシステムと入試作業をしているときの個人の責任が明らかになる方法を考えるべきである。つまり、この採点でミスがあった場合、それが誰の責任なのかを明示すべきである。複数で作業しているととかく責任が人数分の一になりかねない。少なくともプロの教員としての矜持があるなら、自分のミスによって学生、生徒が被った負の影響に責任を持つべきである。また、その学生、生徒が自分の子供だったらどうだろうかという想像力をもつべきである。入試業務を片手間のつもりでいて、集中しない状況で行うなどとんでもないことである。
 
 入試問題を外部に丸投げしている大学が少なからずあるという。文科省が07年度に行った調査では、71校が問題作成を予備校や教育関連企業に外注したことが明らかになっており、この時点で文科省は、機密保持や中立性確保の面で望ましくないとしたが、6年後の13年4〜6月に改めて調査したところ、外注した大学は98校と38%も増えていたという。予備校で作問して予備校で講義を受けることの危うさはいかがなものか。
 そうした大学は大学教育の放棄である。研究が本務であり、入試採点はもとより問題作成など自分の仕事でないと考えている大学教官が少なからずいると聞く。研究機関に在籍しているなら別の話だが、大学に籍を置いているなら、どのような学生を受け入れ、どのような教育をし、どのような人材を世に送ろうと考えるのが大学教官の仕事ではないのか。そう考えない教官がいる大学の学生は不幸である。実際起っている入試ミスは報道されている数の何倍もあるのかもしれない。

 何回もの学生を傷つける入試ミスという負の経験に学ばのうとせず、作問でも採点でもミスを繰り返す学校はその程度ということなのか。

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