日々の抄

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 4月のメーデーですか

2014年4月27日(日)

 連合主催のメーデー中央大会が4月26日に開かれた。約4万人が参加したという。来賓として共産党以外の10政党が招かれたそうだ。来賓の中のひとりである安倍首相は、「確実にデフレから脱却しつつある。その目的達成のためには与党も野党もない。労働者も経営者もない。今後とも働く皆さんが、景気回復の実感を手にできるように全力を尽くす」と語った。
 
 労働者の祭典であるはずのメーデーに、首相が自分の政治的成果を喧伝し、景気を回復するためには少々の不利益なことは我慢しろとでも言わんばかりの演説を、不安定な労働条件で働かざるを得ない勤労者の前でしていることは不愉快である。そんな演説をさせた主催者の気がしれない。連合は民主党が政権の時にも政権にすり寄るような姿勢を見せ、現政権になってもあまりにもすり寄っている感を否めない。
 
 最近の勤労者の労働条件は以前では考えられない状況に置かれている。
 総務省が昨年発表した2012年の就業構造基本調査によると、雇用者全体に占める非正規労働者の割合は38.2%と07年の前回調査から2.7ポイント上昇し過去最高を更新したという。
 
 労働者派遣法が開会中の通常国会で改正されれば、企業は働き手を3年ごとに代えれば、どんな仕事にも、ずっと派遣を充てられる。
 新ルールでは、派遣労働者が同じ職場で働けるのは、派遣会社の正社員でない限り、最長3年になる。3年に一度の「転職」を促すことが、働き手の経験や技能向上に役立つとの考えからだという。厚労省の職業安定局長は「今回の改正のねらいは、派遣労働者の待遇改善とキャリアアップだ」と強調しているが、3年ごとに派遣先が変わり待遇改善される保証がどこにあるのか。3年ごとに別の職種に変わってキャリアアップした結果、生活が安定する正社員になれる保証などどこにもない。非正規労働者の団体交渉権が保証されない限り、労働条件は雇用企業の思うままである。
 
 また、政府の産業競争力会議は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討している。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれが十分ある。
 第1次安倍政権(2006〜07年)でも、高収入の社員を対象にした「ホワイトカラー・エグゼンプション」として法改正をめざしたが、「残業代ゼロ法案」や「過労死促進」との批判を受け、断念している。当然の結果である。
 
 労働基準法は1日あたりの労働時間を8時間と定めているが、労働組合などと合意すれば、8時間を超えて働かせてもいい。条件をつければ、過労死の認定ライン(月平均80時間)を超えて残業させても違法にならないなら、いくら働いても残業代が支払われず、労働者が使い捨てにされてしまいかねない。
 一般社員でも本人が同意すれば対象になることも考えているそうだが、採用試験で「残業代ゼロなら採用する」などと言われ、どうしても就職したいものはこれを拒否できようがない。下手をすれば、日本国内はブラック企業だらけになるのではないか。
 
 こうした官制の労働条件の改悪は企業に有利になるだけで、労働者が安心して勤労しようと思う気持ちを削ぐだけである。政府のなんとか会議は政府にとって都合のいい人物だけを集めた諮問機関で、私的諮問機関であってもその諮問が民意だといわんばかりの手法は見え透いている。「有識者会議」などという名前は白々しい。労働対価としての残業代をゼロにして消費の増加など望みようがないのではないか。
 
 働くものが安心して働けない現状は日本の将来にとって負の遺産を負うことになる。働きたければ福祉関係に雇用があるなどと聞くが、多くは低賃金、過酷な労働条件のため離職者が多いのが現実である。
 東京オリンピックのための就労者不足が案じられている。福島原発の放射線対策のための労働力が不足し、40年で廃炉にすることは不可能になるおそれがあると聞く。労働力不足の対策として外国人労働者を受け入れることが考えられているが、国、企業は大きな思い違いをしている。
 日本人で非正規社員という、いつでも職を失いかねない不安定な労働者が就労者の4割もいるという現状はあまりにも異常である。福祉関係の定着率を高くしたければ、労働賃金をあげ労働条件を改善することが急務である。外国人労働者を雇う理由は、労働賃金が安いことだけだろう。日本人で働きたい人に然るべき賃金を上げ、労働条件を改善すれば済むことではないのか。福島原発も東電の下の孫請け、ひ孫請けと続く4重、5重の受注形態に問題がある。国が請負金額を上げても、末端の労働者にそれが届かない形態を解決しない限り、廃炉作業は継続できまい。下請けから撤退する会社が多数になることは時間の問題である。
 
 官制ベースアップという今まで聞いたことのない、少々の賃金アップが政権の支持率が高いことにつながっているらしい。しかし、賃金アップを実感しているのは、大企業のほんのわずかな労働者だけである。それをマスコミが、「ベースアップ、景気回復」などと書きたててその気になっているだけである。
 働くものが安心して働けない労働条件悪化、就労不安をもたらしているのは、政権を支持している国民そのものである。少子化対策などといって、いろいろな対策をたてるより、安心して働け、将来に希望が持てる環境を作ることが一番の近道ではないか。自分の将来を見通せなくて結婚して子供をもうけようなどと考えにくい。
 
 働くものが安心して働けるように結束していく団体が労働組合なのではないか。政権にすり寄ることをやめない限り、安心して働ける展望はつくることはできまい。
 諸般の都合はあるのだろうが、メーデーは5月1日に行われてしかるべきである。4月に行われるのはメーデーでなくエイプリルデーにしかない。

 働きたい者が安心して働けない国に未来はない。

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