日々の抄

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 大震災はなかったことにするのか

2015年5月30日(土)

 東日本大震災から4年2ヶ月経過した今も、仮設住宅や親戚宅などに身を寄せる被災者は約27万人、その中に原発事故で自宅が「帰還困難区域」に指定され、家も土地もあるのに放射線量が高いために帰還できない人が約2万5000人もいる。

 最近の政治の動きは、もう大震災は過去の事故(今流の表現でいえば、「過去の事象」かもしれない)にしようとする動きがあるのは驚きである。
 
■「原発避難指示2区域、16年度には解除」自民提言へ(朝日2015年5月14日)
 『自民党の東日本大震災復興加速化本部は、福島県にある原発事故の避難指示区域のうち、避難者の7割を占める二つの区域について、2016年度には避難指示を解除するよう政府に提言する方針を固めた。避難が長引く「弊害」をなくすため』としている。
 提言の骨子は、放射線量が年50ミリシーベルト以下の居住制限区域と、20ミリ以下の避難指示解除準備区域について「遅くとも事故から6年後までに解除し、住民の帰還を可能にすべきだ」とする。4年超の避難生活で住民のストレスが高まり、生活再建の動きが停滞している「弊害」をなくすためとしているが、6年後までに居住地域の生活区域の放射線量が減少するので避難解除するためではない。

 居住制限区域については、解除に向けた国の説明会は開かれておらず、解除の見通しは立っていないというが、解除されると1年後に、1人月10万円の慰謝料(損害賠償)が打ち切られることになるそうだが、住民にとって、安全が保証される根拠が示されないまま、避難解除され、損害賠償がなくなることは納得できることではあるまい。住民の安全の前に財政ありきの方針にしか見えない。

■「自主避難、住宅提供終了へ 福島県調整 16年度で」(朝日2015年5月17日)
 『東電福島第一原発事故後に政府からの避難指示を受けずに避難した「自主避難者」について、福島県は避難先の住宅の無償提供を2016年度で終える方針を固め、関係市町村と調整に入った。反応を見極めた上で、5月末にも表明する。故郷への帰還を促したい考えだ。だが、自主避難者からの反発が予想される。
 原発事故などで県内外に避難している人は現在約11万5千人いる。このうち政府の避難指示の対象外は約3万6千人。津波や地震の被災者を除き、大半は自主避難者とみられる。
 県は災害救助法に基づき、国の避難指示を受けたか否かにかかわらず、避難者に一律でプレハブの仮設住宅や、県内外の民間アパートなどを無償で提供している。期間は原則2年だが、これまで1年ごとの延長を3回し、現在は16年3月までとなっている。
 今回、県はこの期限をさらに1年延ばして17年3月までとし、自主避難者についてはその後は延長しない考えだ。その際、終了の影響を緩和する支援策も合わせて示したいとしている。国の避難指示を受けて避難した人には引き続き無償提供を検討する』という。

 このような方策が打ち出された理由は、「無償提供を続ける限り、帰還が進まない」ということそうだが、政府が避難を指定されなかったことに合理的な根拠があったのか、また、自主的判断での避難としても、生活をしていくために、親の仕事が帰還して得られるのか、また子供の教育環境の変化に問題は起こらないのか、なども考慮されるべきだろう。避難先の住宅の無償提供打ち切りを「避難者の反応を見極めた上で」行うといういうことが気になる。反対の声が大きければ実施しないということなのか。
 自主避難した家族の多くは、放射線による子どもの健康への影響を案じてのこと。住宅の周辺だけ除染して放射線量が減少したとしても、子どもの健康を案じての避難が、自主的避難したのだから、といって差別されることは妥当なのか。
 
■「自民復興5次提言 原発慰謝料18年3月終了」(朝日2015年5月22日)
 自民党の東日本大震災復興加速化本部は二十一日、総会を開き、震災からの復興に向けた第五次提言を取りまとめた。
 それによると、『東電福島第一原発事故による福島県の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の避難指示を二〇一七年三月までに解除するよう正式に明記し、復興の加速化を政府に求めた。』という。
 その根拠は「古里に戻りたいと考える住民が一日も早く戻れるよう、生活環境の整備を加速化しなければならない」ことだそうだが、「賠償では、東電が避難指示解除準備区域と居住制限区域の住民に月十万円支払う精神的損害賠償(慰謝料)を一八年三月に一律終了し、避難指示の解除時期で受取額に差が生じないようにする」という。

 つまりは、「住民が、もうふるさとに戻りたいだろうから、避難解除しよう、そうすれば賠償金を払わずに済むから」と聞こえる。放射線の心配をしないで生活できる保証があるから、帰ってもいいです、ということと雲泥の差の提言である。
 福島県南相馬市原町区高倉地区の住人によると、『農道わきの溝は除染がまだ。除染した家の玄関先や庭でも、雨どいの近くなどで線量が再び上がっている。未除染の近くの山や原野から、木の葉や土ぼこりが風で飛んでくる。それが雨で流れて集まる場所だという。「そんな場所が生活圏のあちこちにある。これから避難指示が解除される区域でも同じことは必ず起きる」』と語っている。
 
 国が解除に踏み切ろうとする根拠は、昨夏の調査により、「指定基準の年間被ばく線量二〇ミリシーベルト(空間線量毎時三・八マイクロシーベルト相当)を下回った」としているが、各世帯の玄関先と庭の二カ所のみ測定しただけだった。国が判断対象としなかった雨どいの出口や排水溝の周りは今でも毎時五マイクロシーベルトを超え、配水池の周辺でも一〇マイクロシーベルトを上回るという。
 つまりは、住宅から20メートル程度の範囲で除染が行われても、生活の場が安全である保証はないということだ。そんな場所で子どもを安心して生活させていられる親はいるまい。ここでも、安全より、カネが大事という、自分が安全な場所に居住している政治家の判断に過ぎないのではないか。


 一方で、「高濃度汚染水浄化完了」との報道があって、やれやれと思っていたら、実態は安心できるものではなかった。
■「“高濃度”汚染水の浄化完了」(日テレ2015年5月28日)
 東電が27日、福島第一原発の敷地内のタンクに溜まっている高濃度の汚染水について、主な放射性物質を取り除く「浄化処理」が完了したとの発表があったが、『浄化処理が完了したのは、原子炉内の燃料の冷却などで発生した高濃度の汚染水およそ62万トン。しかし、このうち放射性物質の濃度が国の基準を下回ったのは44万トンにとどまっていて、残りの18万トンは改めて浄化する必要がある。東電は、「高濃度の汚染水が漏れ出すリスクは大幅に低減できた」』としているが、「“高濃度”汚染水の浄化完了」にはほど遠い「浄化完了」だった。

 高濃度汚染水は1リットルあたり数千万〜数億ベクレルもの放射性物質を含み、漏れた時に周囲を汚染するリスクが高く、2013年8月にはタンクから約300トンもの汚染水が漏れていたことが発覚した。
 残された高濃度汚染水がなくなっても、汚染水のタンクは増え続けている。原子炉建屋などに地下水が流れ込み、新たな高濃度汚染水が今も1日300トンのペースで生まれている。用意されたタンクは3年後には埋まってしまうと計算されている。
 
 最新の報道によると、「汚染水濃度110万ベクレル=移送漏えい、港湾も値上昇−福島第1」(時事2015/05/30)と、港湾内へ汚染水が流出したことを報じていた。それによると、
 『東電福島第1原発で、移送中の放射能汚染水がホースから … 汚染水中に含まれるストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり110万ベクレルに上ったと発表した。漏れた汚染水の一部は港湾に排水しており、漏えいが判明した29日は港湾3カ所で海水の放射性物質濃度最高値を更新した。東電によると、ホースには縦約1センチ、幅約0.2センチの穴が開いており、そこから汚染水が漏えい。セシウム134と137は同274ベクレル含まれていた。東電が地下水を海に放出する際の基準値はセシウム134と137で同2ベクレル未満、ベータ線を出す放射性物質で同5ベクレル未満。
 29日に採取した港湾内海水でもベータ線を出す放射性物質の濃度が相次ぎ上昇していることが判明。1号機と2号機の取水口でそれぞれ同290ベクレルと240ベクレルを計測したほか、港湾中央部付近でも同190ベクレルが検出され、いずれも過去最高値だった。』

 外洋とつながる港湾の出口付近で海水の放射性物質濃度に大きな変動は見られないので、「外洋への影響はないと考えている」と話しているが、東電は、昨年5月に、汚染された雨水が、敷地内にある汚染水に比べ数値は低いものの、セシウム137は1リットル当たり2万3000ベクレルあり、外洋への排出口では1000ベクレル程度の濃度で、国の排出基準値のおよそ10倍の放射線が出ていたとのデータを把握しておきながら、9カ月間「隠蔽」していた。東電は「原因調査をして結果が出てから公表しようと考えた」などと説明しており、今回の流出事故についても、しばらくの後に、「実は … だった」などという発表がないことを望みたい。
 
 自ら望むことなく、東日本大震災で4年経過しても帰宅できない避難者の精神的、経済的な苦渋の生活を余儀なくされていることを考えれば、政治は、どこまでも被災者の立場に立った施策を立てることを望みたい。人より、カネが優先されることは政治のなすべきことではない。
 また、福島原発事故でどれほどの被害があるかを再認識するとともに、再びマグニチュード9クラスの地震に襲われれば、日本中のどこでも、第二の原発事故になる可能性を持っている。地震の起こる数が、火山爆発の数が増加していることを考えれば、地震国日本に原発を作ることは、亡国のエネルギー施策と考えないわけにいかない。

 東日本大震災があたかも過去の災害だったと思いたいのか、と思わせる政治の動きに空恐ろしさを感じないわけにいかない。

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