日々の抄

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 権力にあるものは謙遜であれ

2015年6月27日(土)

 「政権応援」を目的とし、安倍首相に近い中堅・若手自民党議員で構成される勉強会「文化芸術懇話会」が立ち上げられた。準備会合には首相に近い加藤官房副長官、萩生田自民党総裁特別補佐を含む20人ほどが参加した。有名人に『首相のやっていることは正しい』と発信してもらうことが目的という。

 6月25日に開かれた「文化芸術懇話会」の講演会は、時の人である百田尚樹氏が講師だったという。そこで、講師も、首相に近い自民党議員も、あろうことか、とんでもない本音を吐露してしまった。その主な内容は、次のようなものであった。
 
●大西英男衆院議員(東京16区、当選2回)68歳
 「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」
●井上貴博衆院議員(福岡1区、当選2回)52歳
 「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」
●長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック、当選2回)52歳
 「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

●百田尚樹氏
 「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば目を覚ますはずだ」
 「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住みだし、今や街の真ん中に基地がある。騒音がうるさいのは分かるが、そこを選んで住んだのは誰やと言いたくなる。基地の地主たちは大金持ちなんですよ。彼らはもし基地が出て行ったりしたら、えらいことになる。出て行きましょうかと言うと『出て行くな、置いとけ』。何がしたいのか」
 「沖縄の米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」

発言者についての補足
大西氏のFacebookには次のような書き込みがあった。
https://ja-jp.facebook.com/0024hideo
「一部の新聞が報道したような、マスコミを規制したり党内議論を封殺することを目的に開かれた会合では決してない。
 幅広い議論を行うために、文化人の方からお話を伺うのが目的の純粋な勉強会だ。
 とかく、報道は自分たちの思いをもって、「こうに違いない」という記事を書くことが少なくない。
 平和安全法制についても、一部のマスコミは野党と一緒になって「戦争に巻き込まれる懸念がある」「徴兵制につながる」などといった、ありもしないことを繰り返し国民の不安を煽っている。
 古くは、60年日米安保、直近では特定秘密保護法の時など、一部のマスコミは国民の不安を煽る報道を行ったが、日本の平和は守られ言論の自由も決して揺らいではない。
 私たちは、そういった報道の誤解を丁寧に解き、国民に説明していく必要がある。」

「参考」大西氏の国会でのヤジの経歴
衆院総務委ヤジは自民・大西氏 維新女性議員に謝罪
日経 2014/7/4
 4月の衆院総務委員会で、質問中だった日本維新の会の上西小百合衆院議員(31)=比例近畿=が「子どもを産まないと駄目だ」とヤジを受けた問題で、上西議員は4日午後、自民党の大西英男衆院議員(67)=東京16区=から電話で謝罪があったことを明らかにした。上西議員は謝罪を受け入れた。大阪市内で記者団の質問に答えた。上西議員によると、大西議員は同日朝に電話で「申し訳なかった」と謝罪し、上西議員も「分かりました」と答えたという。
以下略

「参考」長尾敬衆院議員のTwitterでの記述
16:53 2015年6月26日
 「細かいことは言いませんので、室内で交わされている意見交換などに関して、仮にマスコミ批判であったとしても、万人に認められた言論の自由を尊重しつつ、公正な事実報道に努めてくださるよう、よろしくお願いいたします。本当にお疲れ様です。」

「参考」百田尚樹氏のFacebookには次のような書き込みがあった。
 「私的な集まりで軽口で言ったにすぎない」
また、Twitter(2015年6月26日)には、
 質疑応答で誰かが「沖縄の二紙は厄介ですね」と言ったから、私が「ほんま厄介、つぶれたらいいのに」と軽口を言ったのだが、そこで会場は大笑いで、その話題は終わり。そのあと別の話題に移り、沖縄の二紙の話はその後一切出ず。 ただ、一言の軽口を記事にされた。
… 炎上ついでに言っておくか。 私が本当につぶれてほしいと思っているのは、朝日新聞と毎日新聞と東京新聞です」


 何をか言わんやである。自民党本部で、首相に近い人物が、政権に不都合な報道をするTV番組のスポンサーに圧力をかけて、番組を「懲らしめ」、新聞社を「潰せ」、などという本音を語り合っていることが暴露されてしまった。発言者のみならず、トンデモ発言を非難しなかった同席者も同罪である。
 
 言うまでもなく、とんでもない政権の奢り、思いあがりが、副官房長官、自民党総裁特別補佐を含めた首相に近い議員にあることが明白になった。権力にあるものが、何でも自分たちに都合のいいようにでき、マスコミでさえ、都合が悪ければ、堂々と攻撃できるという、やってはならない行為に出たということだが、昨年の衆院解散直後、自民党はテレビ各局に選挙報道の公正中立を求める文書を送付し、今年4月には党幹部がテレビ朝日とNHKの幹部から、報道番組の内容について事情を聴取したことと全く同じ行為である。「新聞社を潰せ」などと、一体、何様のつもりなのか。
 
 講師の百田氏の発言内容は、沖縄県民を貶める内容である。例えば米兵によるレイプの数が云々、について言えば、日本人の加害の数が多いから文句を言うなと聞こえる。米兵がいなければその数はなくなることに気づくべき。また、「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住みだし…」も悪意に満ちた事実誤認がある。
 沖縄タイムス https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=121681
 毎日新聞 mainichi.jp/shimen/news/20150627ddm041010149000c.html
に対する反論があれば、公にすべきである。
 これらを「冗談で言った」などとは、見下げた言い訳にすぎない。この言い訳は、子どもが考えなしに言葉を発し、非難されそうになった場面で、「冗談だよ。冗談」などと言い訳していることと、同類である。

 彼は作家だそうだが、昨年の東京都知事選の街頭演説で複数の候補を「人間のクズみたいなやつ」と貶め、言葉の重みが全く感じられない。そんな人物を、講師に招くような会議で、どんなことが語られるかを推し量ることができないことに愚かさがあるのではないか。首相と懇意だそうだが、首相も推して知るべしなのか。
 首相は、発言が「事実なら大変遺憾だ」などと人ごとのように語っているが、「遺憾」は「残念、気の毒」の意味である。「遺憾」なのは首相であって、身内の不始末への責任をどのように果たすつもりなのか。問題は、「発した言葉の内容がバレたこと」なのか、「そのような考えを持っていること」なのかである。大体において「事実なら」などと、仮定法を使って発言は、責任回避にしか聞こえない。

 
 自民党は、野党をはじめ、マスコミ、世論からの轟々たる非難に、懇話会代表の木原稔・党青年局長を更迭し、役職停止にすることで事を収めたつもりになっているらしいが、首をすげ替えても何が変わるのか。それは、自民党内部での問題にすぎない。
 国民に対し、「政権にあるものは、謙虚であるべきである」ことを語らない限り、今、国会での懸案事項の法案に賛成だった人も、反対にまわっても不思議ではないだろう。
 
 自民党が言うところの、「公正・中立」とは、「政権に都合のいいように」ということと等価である。国内の公共施設で、政治的中立性を問題にして、各種の講演会、催しものの利用を拒否したり、「九条守れ」の文字が入っているだけで、公民館月報に俳句が掲載されないなど、正気の沙汰ではない。そのような判断をしている関係者は、政権に阿ねて、大政翼賛会に参加していることに他ならない。現行憲法の「九条」を守ることがなぜ非難されるのか。法律や憲法を守ることが非難され、壊そうとしていることが肯定させることの異常さを考えるべきである。今回の自民党関係者の思い違いは、こうした国民の醸し出している「風」に後押しされているのではないか。
 
 新聞各紙の社説は、朝日『異常な「異論封じ」 自民の傲慢は度し難い』、毎日『自民党勉強会 言論統制の危険な風潮』、読売『自民若手勉強会 看過できない「報道規制」発言』、東京『自民の報道批判 民主主義への挑戦だ』
として、今回の「文化芸術懇話会」について、いずれも全面的な批判の内容が記されている。

 現政権はあまりにも了見が狭く、性急にすぎる政治を行っている。都合の悪い相手を非難し排除するのでなく、堂々と相手を論破できるだけの見識と経験をもとうとする余裕が望まれる。今やっていることは、おとなしい級友を罵倒、脅迫して思うようにさせようとしている、質の悪い中学生に似ている。真面目な中学生はいつまでも、ガキ大将の思い通りにおとなしくしているわけにいないことを知るべきである。
 
 言論弾圧などという言葉が行き交っているが、程度が低く幼稚な国会議員が、集団的自衛権など語っていることは笑止千万。彼らを選んだのは他ならぬ、国民であることは自覚すべきである。
 
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