日々の抄

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 元日の社説を読んで

2016年1月3日(日)

 ことしも新聞各社の元日の社説を読み比べてみた。感想を以下に記してみる。

朝日新聞
「分断される世界 連帯の再生に向き合う年」
 「民族や宗教、経済、世代……。あらゆるところに亀裂が走っている」中で、過激派組織IS、フランスなどの排他的な右翼政党、米国共和党大統領候補者トランプ氏など社会を分断する考え方が喝采を浴びている。
 「新年の挑戦は、連帯と共感の危機にひとつひとつ向き合うことから始まる」とし、「OECDの昨年の発表によると、2013年に、大半の加盟国(34カ国)の所得格差が過去30年で最大になった」、また国内では「子どもの貧困率や雇用の非正規率も上昇し、かつての平等な国の姿はすっかり遠くなった。にもかかわらず、社会保障と税の一体改革もままならず、この国の社会的連帯は弱まるばかり」で、経済的格差が社会の亀裂を生み、「中高所得層と低所得層の間に溝ができ、人々の間の共感が消滅しつつある」としている。

 「沖縄の米軍基地問題も日本に分断を生んでいる」「包摂より排除に傾くナショナリズムは、ポピュリズムと同様に社会を統合するより分断する」とし、「社会の分断は民主主義にとって脅威」と捉えている。 
 では社会的分断を回避するにはどうしたらよいか。それは「民主主義さえも台無しにするほどに深刻化するような社会が抱える分断という病理を直視し、そこにつけ込まない政治や言論を強くしていかなければならない」とまとめている。

毎日新聞
「2016年を考える 民主主義 多様なほど強くなれる」
  「民主主義とは選挙か、多数決か、少数派の尊重か、デモか。共通の答えを見いだせず、社会の分断は深まったまま」の年明けとしている。「欧州も米国も日本も、分断から融和への努力を怠れば、民主主義が漂流し、社会は危機に見舞われる」「全員が納得する決定はない。であるなら、可能な限り多くの人が受け入れ、不満を持つ人を減らす政策決定のあり方を模索しなければ、社会の安定は維持できない」とし、「国の未来に多様な選択肢が提示され、公平・公正な意見集約が行われる社会。その結果としての政策決定に、幅広いコンセンサスが存在する社会。それが民主主義が機能する強い社会と呼べるものだ」と指摘。そして「社会が多様性を失えば、国が滅びることもあるのである」と警告を発している。

 そして「民主主義には『万歳二唱』という批評家・小説家のフォースターの言葉を紹介している。それは多様性と批判を認めているからという。「民主主義とは何か」の答えはこれで十分としている。

 然りである。翻って現在の日本はどうだろう。「中立的」という名で政権への批判を非難し、少数意見を「左翼」「非国民」として排除しようとしている。正に、現在の日本の民主主義は危機に瀕しているのだろう。
 (「2016年を考える 民主主義」の2本立てとして内容が重なる社説がWebに2本掲載されている。不思議だ)
 
東京新聞
「年のはじめに考える 歴史の教訓を胸に」
 「私たちが忘れてならないのは歴史の教訓」とし、「夜を昼とするように都会は電気を使い、手続きを経たとはいえ原発は順次動きだしている」が、5年を経る福島原発事故を忘れまじ。
 もうひとつ忘れてならないものが戦争。「先の大戦を体験した人は少なくなり、戦争を知らない世代は、妙な言い方ですが、忘れないために記憶をつくらねばならない。聞き知り学ぶということです」
 
 「戦争やテロを減らすには武力よりも、むしろ教育の普及や格差の是正が有用だという世界認識が広まりつつあります。国際紛争を武力で解決しないという憲法九条の規定は、非現実的との批判をしばしば浴びてきました。だが、実は時代を経るほどに現実味を帯びてきているのではないでしょうか」とある。
 
 「日本の目指す方向」は、「時代が揺れるほど、歴史の不動の教訓を胸に抱きつつ」、「これから世界を武力の方向に傾かせるのか、それとも教育や格差是正の方向へと傾かせるのか。どちらに向かうか。少なくとも日本が目指すべき方向は私たち国民が決めねばなりません」とまとめている。
 
 米国がベトナム、アフガニスタン、イラクなどで行ってきた、力には力の方法が誤っていたことは歴史が証明している。世界各地で生まれている、社会への不満分子が自国へテロを行おうとすることは、「教育の普及や格差の是正」が可能だろうが、ISのような国をもたない集団に対していかに対応すればよいのだろうか。

読売新聞
「世界の安定へ重い日本の責務」
 成長戦略を一層強力に進めたい、「対テロ」連携が急務だ、安保法制の有効運用を、家計と企業の不安除け、政権安定度占う参院選などの項目をあげ論じているが、まるで首相の施政方針演説のような饒舌さがあり、「在日米軍の抑止力維持と、沖縄の基地負担軽減を両立させるには、辺野古移設が最も現実的な選択肢だ」「昨年の安全保障法制の審議のように、情緒的な反対論ばかりでは困る」など、大政翼賛的な内容に対して述べるに値しない。


 朝日新聞は「連帯の再生に向き合う年」、毎日新聞は「民主主義 多様なほど強くなれる」、東京新聞は「歴史の教訓を胸に」と論点が明白である。朝日と毎日は「社会の分断」という論点は共通していた。
 
 今日の日本を、次の世代までも覆う「貧困と格差」は、容認しがたい段階まで来ているのではないか。ひとえに、あす仕事を失うかもしれない非正規雇用の労働者が、労働者の四割にも達し、所得格差がますます増加する一方で、労働人口の数パーセントしかでない大企業の膨大な内部留保金があることは大きな経済矛盾である。

 自らの生活基盤が危うい若者が結婚したくもできないことが、出生率を上げてないことは明白。働けば報われる、将来に少しでも光が見える社会に向かうために、新聞各社は新聞でしかできない社会、経済問題を発掘してほしいと願う。

 「最後のおひとりまでお支払いします」と首相が明言していた消えた年金問題はどうなったのか、絶えることのない「天下り」はなぜ消えないのか。
 大した経験も政治的見識ももたない政治家が放言し、そのたびに訂正陳謝している姿はみっともなさすぎる。そうした政治家が恐れをなすような質問・取材ができるマスコミ人を期待している。


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