日々の抄

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 越後屋そちも悪よの

2016年2月8日(月)

 甘利前経済再生相が、業者からの金銭授受問題で大臣を辞任した。
 週刊文春に、「甘利氏と秘書に計1200万円の賄賂を流した」と報じられた。業者は、都市再生機構(UR)との補償交渉などを有利に運ぶため、2013年から14年にかけて甘利氏本人に2回会い、現金50万円ずつ計100万円、それとは別に公設第1秘書に計600万円渡し、秘書への飲ませ食わせを含め累計1200万円貢いだという。そう聞くと、業者の週刊文春への情報提供は、口利きが成功しなかったための怨念返しとしての暴露と見られる。うまく口利きが成り立っていたら、露見せずに済んだかもしれない。

 甘利氏は、業者から2013年11月に大臣室で50万円、14年2月に大和市の地元事務所で50万円をそれぞれ受け取った現金授受については認めた。「政治活動への応援の趣旨だと思い、受け取った。秘書に適正に処理するよう指示した」と説明。14年2月に計100万円の寄付金として政治資金収支報告書に記載したとし、違法性のない適正な処理だったと強調しているが、業者は、大臣室への50万円を甘利氏が背広の内ポケットに入れたと証言している。
 
 大臣室に業者が出入りしていることに問題なのではないか。甘利氏が「いい人とだけ付き合っていても選挙に落ちてしまう。間口を広げて来るものは拒まず、という風にしないと当選しない。残念ながら」と語っていることの裏返しには、「(賄を渡してくれるかもしれない)怪しい人とも接しているんですよ」、と言わんばかりではないか。
 
 だが、業者は、大臣室で渡した50万円は、『URの件でのお礼だ。秘書からは前もって「50万円は必要です」と言われた。(甘利氏が現金を)内ポケットに入れたのは事実だ。』
『14年2月1日の地元事務所での現金50万円を甘利氏は「パーティー券にしようね」と言ったが、私はURとの件をお願いしていますから、「お受け取り下さい」と(言った)』とし、両者の証言は大きく異なっている。
 甘利氏は大臣辞任会見で「(現金入りの封筒をスーツの内ポケットに入れるなど)政治家以前に人間としての品格を疑われる行為だ」と否定しているが、真偽のほどはどうなのか。明らかにすべきである。


 業者から、URとの間の補償交渉をめぐり、陳情を受けていた秘書は、13年8月にこの業者から500万円を受け取りながら、政治資金として処理したのは200万円のみで、残り300万円について、「秘書が(業者に)返金を申し入れたが強く拒まれ、結果として手元で管理し、費消してしまった」と甘利氏は述べている。
 また、業者は補償交渉を巡り、国土交通省の局長に渡す商品券代の名目で、秘書側に現金30万円、知人の外国人の関係者が日本国内で働くためのビザ発給に関する口利きを頼む趣旨で、秘書らに自身の資金から現金20万円ずつ計40万円を渡したと証言している。
 お上に頼み事をするときに、賄(まいない)を渡しているなら、まさに、「そちも悪よのう」の世界が未だあることを見せつけられているようだ。


 甘利氏は大臣辞任会見で、「政治家は結果責任であり、国民の信頼の上にある。国会議員としての秘書の監督責任、閣僚としての責務、政治家としての矜持に鑑み、本日ここに閣僚の職を辞することを決断しました」「このたびは私どもの不祥事により世間をお騒がせし、皆さんに大変なご迷惑をおかけした。本当に申し訳なく思っている。責任の取り方に対し、私なりのやせ我慢の美学を通させていただいた」と述べた。

 政治家には秘書の所行にも責任を負わされている。秘書の不祥事の責めを、自分が一手に引き受けて大臣を辞任することのどこに「美学」があるというのか。大臣室で現金を受け取っている政治家のどこに政治家としての「矜持」があるというのか。気が知れない発言である。


 「はめられた」「悪いのは業者」と甘利氏を擁護する声が与党内にあるが、そんな業者と付き合って現金をもらっている方が悪いのではないか。与党の何人かの発言。
 山東元参院副議長 「ゲスの極みというような感じで、まさに、両成敗でただしていかなければならない気がする」
 自民党 二階総務会長「疑惑が払拭されたとも別に思わないが、深まったとも思わない。これ以上何を追及するんですか」
 中谷元防衛相 「甘利大臣は精いっぱい調査し、しっかり説明された。辞任は大変残念だが、政治家としてのけじめをとったと認識している」
 自民党谷垣幹事長 「甘利さんが違法なことをしていたということではないと思っている。事務所の監督ができなかったことに問題の根があった」
 伊達参議院幹事長 「すばらしい会見であって、秘書に押しつけないで自分がその監督責任があると責任を取ったことは、しっかりしたけじめのある方だなと残念だけど惜しいなと」
 森山農水相 「TPP署名式に行っていただきたかったが、甘利大臣の決断を尊重する以外にない」「国民の信頼をできるだけ早く取り戻すのが大事」

などと述べているが、総じて、「甘利氏本人は悪いことはしていない、あくまでも秘書が起こした不祥事の責任をとって辞め、辞め方がお見事でした。大臣を辞めたのだから文句あるまい」と強調したいのか。大臣辞任が、「政治家」としてのけじめをつけた、と考えるのは甘い。

 甘利氏が直接受け取ったという100万円という金額は政治家にとってたいした額でないかもしれないが、庶民がパートで時給700円で一日に8時間、一日も休まず連続して働いた場合、約半年分の収入に相当する額であることを考えてみるといい。政治家はそれほど国民のためになる仕事をしているのか。

 企業・団体には献金だけでなく政治資金パーティー券の購入も禁止すべきである。政治家が仮に賄賂と分かっている金銭を受け取っても、事実がバレれば、記載ミスだった、政治献金だったと云えば通用するなどという、権力が金銭を得ているというような、金銭感覚を失わせるような愚かしいことは直ちになくすべきであり、不正が発覚したら、無条件に議員資格を失うようにすべきである。
 銀行を含めた経済団体が、与党に政治献金を呼びかけているが、下心が全くなくて献金などするはずはない。献金を受けた産業、団体に対して有利に政治が動いていることを国民はとっくに見抜いている。こんなことを辞めないかぎり、金持ちだけが有利になる陳情政治はなくなるまい。

 信用調査会社によると、甘利氏へ現金を渡した業者は3年連続で赤字だった可能性があるという。赤字企業の政治献金を制限した政治資金規正法に違反する恐れがある。また、一連の現金授受や接待の見返りに、秘書らが国土交通省やURに口利きをしていていれば、「あっせん利得処罰法」に抵触する。
 URは13年6月〜今年1月に職員が甘利氏の秘書と12回面談していたことを明らかにしており、10回は昨年10月以降に集中。国交省は、前住宅局長が昨年3月に秘書から問い合わせを受け、7月には訪問を受けて後日にURの担当者名と連絡先を伝えていたと公表している。01年に施行された同法は、不正行為の有無にかかわらず、政治家や秘書が口利きに対して報酬を受け取る行為を処罰できる。
 
 いずれにせよ、この問題は国会で解明すべきことである。関係者を証人喚問し、偽証した場合は然るべき制裁を与えることが、政治への信頼を少しだけ回復することなのではないか。

 自民党内の甘利氏への「潔い辞め方だった」「秘書が悪かった」などの喧伝が効果的だったのか、驚くことに、甘利氏辞任後、内閣支持率が上がっているという(共同通信調べ4.3ポイント、毎日新聞8%)。現金授受が大臣室で行われ、秘書が献金を300万円も私費使用しても、「辞め方の潔さ」が優先されているのだろうか。そうなら、国民は不正より、浪花節的パフォーマンスに重きを置いていると言わなければなるまい。
 
  政治の世界が、国民生活と遊離し、いまだ金権のにおいをぷんぷんさせていることを、国民がよしとしているからなのではないか。そのことを示している数字がある。
 Yahooのアンケート(1月28日〜2月7日 母数197,252人)によると、
  甘利氏の辞任は妥当 51.6%、辞任の必要なし42.8%
 共同通信
  甘利氏の辞任は妥当 67.3%、辞任の必要なし28.5%
  議員辞職すべし39.7%、必要なし55.5%
 日テレ・読売
  甘利氏の辞任は妥当 70%、辞任の必要なし23%
 2〜4割を越える数が浪花節に流され、大臣を辞める必要なしとしたら、政治家の思うつぼである。小選挙区制の現状では、1/4の投票数で、総議員数が8割を超えることになっていることは忘れてはいけない。
 
 同じYahooのアンケート(母数64,724人)で、「企業献金、禁止すべき?」で、「禁ずべし」が74.3%もあるという声を、政治家は傾聴すべきである。
  金権政治をなくせるか否かは、国民の意識次第である。現状の、「流される世論」では、まともな政治は成り立たない。

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