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  鳥インフルエンザの恐怖 

2006年01月07日(土)

 従来のインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスが、人や豚の体内で混じり合って遺伝子が組み換わって出現するなどの可能性が考えられる新型ウィルスが重大に局面を迎えている。ウイルスの型が違うため人間には免疫がなく、発生すれば大流行が予想されている。 過去に大流行したスペインかぜ(1918年)は、世界で推計6億人が感染し、3000万人が死亡した。当時と異なり、衛生環境や医療水準は改善されているものの、交通機関の発達、都市化・高齢化などで、爆発的な伝染の恐れがある。
昨年末気になる記事を目にした。従来は鳥インフルエンザによる大量の鳥の死亡などから、予兆を観察することができたが、昨年12月29日に、『「ウイルスが変異し、鳥に感染しても鳥が死亡しない状態になっている可能性がある」と、香港での微生物学の第一人者として知られる袁国勇・香港大教授の指摘があった』。つまり、鳥の大量死が認められない地域でウイルスが広がり、人に感染する可能性を示し、これまで感染地域で見られた鳥の大量死が人への感染の有無の指標にするのは危険との見解が示されたのだ。鳥に変化がなくても、ある日突然鳥インフルエンザが大流行する事態が起こりうるということだ。
鳥インフルエンザによる確定症例数は1月5日段階で、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ベトナム、トルコで144名、死者は76名に達した。元日にはトルコが加わったので東南アジアからヨーロッパへも波及しはじめた。

厚労省は大流行した場合、4人に1人が感染し、国内でも最大で外来患者が約2500万人、死亡者が64万人になると推定している。治療は、従来のインフルエンザに使う薬タミフル(インフルエンザ治療薬オセルタミビル。商品名がタミフル)が新型にも有効とみられるが、これも大きな問題を抱えている。
□ タミフルが不足
 タミフルの備蓄量は、当初の予定どおり2500万人分としたが、厚労省は備蓄を都道府県に要請している。耐震偽装問題も含め、こういう国民の生命に関わることを、なぜ国が地方に丸投げのようなことをするのか大いに疑問である。治療薬の量に限りがある場合に備え、大流行が起きた際に治療薬を使用する優先順位について、『(1)新型インフルエンザ入院患者(2)感染した医師らと社会機能維持者(3)心疾患などがある緊急性の高い患者(4)児童、高齢者(5)一般の外来患者の順とすることを定めた』。明記されていない社会機能維持者は、交通・通信、石油・電力などのエネルギー産業、警察・消防などが想定されそうだが、普段健康な国民は一番後まわしということか。いまだ、必要数が確保されたとは聞こえてこない。

□ タミフルで死ぬことがある
2005年11月18日、タミフルを服用した日本人の12人の子ども(16歳以下)が死亡した問題で、大人も含めた死者は世界で71人にのぼることが、米食品医薬品局(FDA)の調査でわかっている。ただ、17歳以上の死者の4割は米国人で、子ども向けの使用は日本が米国と比べ際だって多いという。
 FDAによると、17歳以上の死者はこれまでに58人。年齢不詳が1人。タミフルは米国では99年から、日本では01年から使われ始め、過去5年のタミフル使用量は日本が世界の77%、米国が20%を占めている。また、過去5年の子どもの使用量は日本が米国の13倍にのぼった。神経・精神に異常を示した子どもは32人いて、うち31人は日本人だった(日本人と欧米人とでタミフルの体内での代謝のされ方が異なるという見方がある)。
□ タミフルが効かない
2005年12月22日、鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)の人への感染が相次いでいるベトナムで、死亡した患者2人からタミフルの耐性ウイルスが検出されていたことが分かった。耐性ウイルスによる死亡例の報告は初めてとみられる。タミフル耐性ウイルスはこれまでにも見つかっているが、体内での増殖力は強くないと考えられていた。
 タミフルは発熱などの発症から48時間以内に投与を受けると効果があるとされているが、死亡した13歳の女性は推奨通りの治療を受けて当初は安定していたが、数日後に呼吸機能が悪化したという。タミフル耐性ウイルスの報告は2005年10月にもあり、感染していたベトナムの少女は回復していた。世界的に備蓄が進められているが、はたして変異を繰り返していくインフルエンザウィルスにタミフルがオールマイティーか疑わしい。効いたとしてもタミフルを服用したことによって死亡するか、ウィルスで死亡するかという場面もあり得るだろう。

厚労省は以下の6段階の行動計画のフェーズを想定し、対応を考えている。
フェーズ1、フェーズ2:略
フェーズ3:新しいヒト感染(複数も可)が見られるが、ヒトーヒト感染による拡大は見られない、あるいは非常にまれに密接な接触者(例えば家族内)への感染が見られるにとどまる。
フェーズ4:限定されたヒトーヒト感染の小さな集団(クラスター)が見られるが、拡散は非常に限定されており、ウイルスがヒトに対して十分に適合していないことが示唆されている。
フェーズ5:より大きな(一つあるいは複数の)集団が見られるが、ヒト−ヒト感染は依然限定的で、ウイルスはヒトへの適合を高めているが、まだ完全に感染伝播力を獲得していない(著しいパンデミックリスクを有していない)と考えられる。
フェーズ6:パンデミック期:一般のヒト社会の中で感染が増加し、持続している。小康状態:パンデミック期が終わり、次の大流行(第2波)までの期間。第2波:次の大流行の時期。

 パンデミック期の具体的な対応は
国民、関係者に対しては、
大規模施設や興行施設等不特定多数の集まる活動について、原則すべての活動の自粛を勧告、
全国の学校及び通所施設等について、臨時休業を行うよう各設置者に対して要請、
発生地域における事業所や福祉施設等に対して、マスクの着用、うがい・手洗いを勧奨
新型インフルエンザ様症状の認められた従業員の出勤停止・受診を勧告、国民に対して、マスクの着用、うがい・手洗いを勧奨

また、新型インフルエンザに罹患し在宅で療養する者等の支援、在宅者の見回り、往診・訪問看護、食事の提供、医療機関への移送、自宅死亡者への対応、必要に応じて児童・高齢者・障害者等への対応、等が考えられている。
役所で作る文章にはフェーズ(=段階・時期)、パンデミック(=大流行)、サーベイランス(=監視)、クラスタ(=集団)などのカタカナ語が多いのはいかがなもの。専門用語だから仕方ないのか。

現在のところ新種インフルエンザが日本に入ってきていないのは幸いだ。記録的な寒さが幸いしているのか、水際で防いでくれている人びとのお陰か分からないが、末期的大流行がやってくれば、想像を絶する、社会が根底から覆されかねないことになるだろう。一時的にはゴーストタウン化するだろう。そうならないことを願うのみである。今回の新種インフルエンザは他人事ではすまされない。場合によっては自分が該当者かもしれないのだから。
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