きれいな花には毒がある | ||||
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2016年5月10日(水) ことしも緑が色濃くなる時季になり、植物の誤食による中毒が起こっており、場合によれば命を落とすこともある。 厚生労働省医薬・生活衛生局による、平成28年有毒植物による食中毒件数(疑いを含む)5月3日付け発表では、スイセン(事件数 7、患者数 26、死者 0)、バイケイソウ(4、6,0)、イヌサフラン(2、3,1)、トリカブト(1、1,1)、ハシリドコロ(1、2,0)。合計(15、38,2)という。 間違えやすい植物、または毒性が一般には知られてない植物について書き出してみることにする。 1. 間違えやすい植物 (1) イヌサフラン(ユリ科) 別名 コルチカム、オータム・クロッカス 特徴 土や水がなくても秋に開花するユリ科の球根植物で、開花後に葉をのばして 6 月頃に葉は枯れる(開花後は土や水が必要)。花色は一般に淡紫紅色で白色や濃い藤色やなども栽培されている。 有毒成分 アルカロイド(コルヒチン)。葉、花、地下部(球根)ともに強毒がある。誤食すると嘔吐、下痢、呼吸困難、死に至る場合もある。 間違えやすい植物 葉がギボウシやギョウジャニンニクに酷似。 区別の仕方 ギョウジャニンニクの球根(鱗茎)は、ラッキョウのように細長い繊維をまとい、強いニンニクの匂いがする。一方、サフランの球根(鱗茎)は球形で内部は白く、ニンニク臭はない。 事例 本年5月、飛騨市の地場産市場でイヌサフランをギョウジャニンニクとして販売。5人が食べ、うち2人が下痢や嘔吐(おうと)の症状を訴えた。
(2) スイセン類(ヒガンバナ科) 特徴 多年草で、冬から春にかけて白や黄の花を咲かせるものが多い。開花時期には早咲き系と遅咲き系がある。ニホンスイセンなどの日本種は12月から2月頃、ラッパスイセンなどの西洋種は 3 〜 4月頃に開花する。 有毒成分 アルカロイド (リコリン 、タゼチンなど) 。他にシュウ酸カルシウム ことしも、すでに何件もニラ、ノビルと誤食してスイセンを食べて食中毒を起こした事故が起こっている。 間違えやすい植物 葉はニラ、ノビルによく似ている。鱗茎はタマネギと間違えやすい。ニラとの区別は臭いをかげばすぐにわかる。ニラは強烈な臭いを放つ。 事例 1. 長野県伊那市内の小学校で本年5月6日、誤ってスイセンの球根を食べた児童11人が食中毒になった。長野県内では4月以降、「スイセン」や「バイケイソウ」など有毒植物を誤って食べた食中毒が3件連続、患者が17人に上ったため県は5月7日、「有毒植物の誤食による食中毒注意報」を全県に発令した。 2. 本年4月13日、東京江戸川区内の80代の女性が、自宅の庭に生えていたスイセンをニラと間違えて食べ、嘔吐などの食中毒症状を呈した。 (写真:スイセン(左)とノビル) (3) バイケイソウ(ユリ科) 特徴 1.5Mまで成長する多年草。 有毒成分 全草、特に根茎部分に、プロトベアトリンとアルカロイド系のベラトルムアルカロイド。古くから殺虫剤の原料となっている。摂取すると吐き気、血圧降下、呼吸減少、手足の痺れなどが現れ、重度の場合は意識不明そして死に至る。 間違えやすい植物 オオバギボウシ(ウルイ)。オオバギボウシの葉脈は網目状で、バイケイソウは平行。ただ、芽が出たばかりのころは判別しにくい 事例 本年5月3日、長野県木曽郡の60代男女が有毒の植物バイケイソウを食べ、食中毒になった。嘔吐などの症状で郡内の病院に救急搬送され入院しているが、快方に向かっているという。 (4) ハシリドコロ (ナス科) 特徴 日本各地のやや湿り気のある林床や沢沿いに分布。 茎高 30 〜 60 cmで、根茎は肥大し、節を生じる。茎や葉は無毛で柔らかい。葉は互生し、葉身は狭長楕円形で有柄。花は花柄の先端につき帯紫黄色、広鐘状で5浅裂し早春に咲く。果実は球形で径はおよそ1 cm 、萼に包まれる。根茎をロートコンといい、鎮痛薬などに用いる。 有毒成分 アルカロイド(ヒヨスチアミン、アトロピン、スコポラミン) 誤食するとほろ苦く、思いのほか美味であるが 、後に嘔吐や けいれん、昏睡などの中毒症状を発症する。 間違えやすい植物 芽生えをフキノトウ(ごく若い芽生え:有毛)、フキノトウ、ギボウシなどの柔らかい山菜。 事例 本年4月10日、岐阜県の山林に生えていたハシリドコロを70代男女2名が食用と誤認して採取し、調理・喫食したところ、痙攣、瞳孔散大、意識障害などの食中毒症状を呈した。 2. 単体で有毒の身近な草花 (1) アジサイ(アジサイ科) シーボルトは、アジサイの花を好み、妻である小滝さんの名を冠して ハイドランジア・マクロフィア・ヴァル・オタクサと命名していることが知られている。 有毒成分 アジサイには青酸配糖体が含まれているとされてきた。その根拠となるのは、1920 年アメリカでの家畜のアメリカノリノキというアジサイの近縁種によるとされるが、その後再検討され、青酸配糖体でないことが判明し、毒性成分。また、ユキノシタ科ジョウザンアジサイ. 由来の 生薬ジョウザン(常山)の抗マラリア成分、嘔吐性アルカロイドの febrifugine がアジサイにも含まれているとの報告もある。このアルカロイド の可能性も指摘されてはいるが、明らかになってない。 中毒症状 嘔吐、めまい、顔面紅潮、発病時期 食後 30 〜 40 分 事例 1. 2008年6月13日、茨城県つくば市の飲食店で、料理に添えられていたアジサイの葉を食べた10人のうち8人が、食後 30分から吐き気・めまいなどの症状を訴えた。 2. 2008年6月26日、大阪市の居酒屋で、男性一名が、だし巻き卵の下に敷かれていたアジサイの葉を食べ、 40分後に嘔吐や顔面紅潮などの中毒症状を起こした。いずれも重篤には至らず、 2〜3 日以内に全員回復した。 (2) アマチャ、甘茶(ユキノシタ科) ヤマアジサイの中から、甘味の強い変異株を選抜し、その葉を発酵乾燥したのが甘茶で、4月8日の花祭り(灌仏会)の甘茶供養に用いられている。 甘茶による中毒が、2009〜2010年、発生したが、花祭りで、子供数十人が、甘茶を飲んで嘔吐症状を訴えた。甘茶の葉でシアン化合物が検出されるとの報告があるが、普通に入れた甘茶では検出されておらず、原因不明である。 (3) チョウセンアサガオ(ナス科) インド原産の一年草で、高さは約 1.5m。全草はほぼ無毛である。葉は卵型から広卵型で、長さ 8〜15cm 、 8〜9 月頃葉腋にろうと状の白い花が一個ずつつき、花冠は長さ 15〜 20cm になる。花が八重咲になる。 有毒成分 茎、葉、花、根ともに強い毒性がある。アルカロイド(アトロピン、スコポラミン、 l - ヒヨスチアミンなど) (4) トリカブト類(キンポウゲ科) 特徴 秋に枝分かれした茎の先に兜状の花を咲かせる。花色は一般に紫色、稀に白色、淡黄色などがある。 有毒成分 全草にアルカロイド(アコニチン,メサコニチン,ヒパコニチンなど) アコニチンの致死量は体重60kg で18mg 。摂取すると、初期症状の嘔吐、下痢、下・唇の痺れの後全員痙攣、呼吸麻痺を経て2〜6時間後に死に至る。 間違えやすい植物 オオヨモギ、モミジガサ、ニリンソウ。葉柄はトリカブトでは中実、ニリンソウは中空。 事例 本年5月、湯沢市の70代男性がトリカブトを山菜と誤食して死亡。死因は汎発性腹膜炎としている。 (5) スズラン(キジカクシ科) 特徴 秋に根茎を掘り取り、天日で乾燥した鈴蘭根(すずらんこん)は、強心利尿薬として、1日量、1.5グラムを水0.3リットルで半量まで煎じて3回に分けて服用するというが一般には有毒として用いない。 有毒成分 コンバラトキシンにグルコールが結合したコンバラサイドなどのステロイド強心配糖体、コンバラサイドは血液凝固作用があり、多量にとると心不全状態になり死に至る。全草有毒だが、特に根茎に多い。花瓶に挿した場合その水も有毒である。 有毒症状:痙攣、呼吸困難、心不全から死亡する。 (6) チューリップ属 特徴 品種改良されたものが園芸店で簡単に手に入る人気の観葉植物。 有毒成分 多くの品種球根、葉、花、全草に心臓毒であるツリピンを含み毒性がある。また球根は傷付くとアレルギー性物質のツリパリンAを生成する。 だが、毒性は至って強く、摂取すると嘔吐や心臓毒などの症状が現れ、樹液に触れると皮膚炎を起こす。 食用に適するものは専用の品種で、一般の園芸品種は灰汁が強く、また農薬などの問題もあり食用は避けるべきである。 (7) レンゲツツジ属 特徴 園芸用として改良され、交雑種も非常に多い植物。 有毒成分 全木にジテルペンのグラヤノトキシン、ロドジャポニンなどの痙攣毒を含み、呼吸停止を引き起こすこともある。牛や馬にとっても有毒なため食べ残すので、レンゲツツジの群生地になっている牧場も多い。 個々の種の有毒物質含量は大きく異なり、報告によると牛では体重の1%の摂取で死にいたり、実際に牧草に混じったツツジを食した牛が死亡している。 (8) ヒガンバナ 有毒成分 茎、球根部分にリコリンというアルカロイド有毒成分を含み摂取すると下痢や吐き気、中枢神経を麻痺させ死に至る場合もある。 (9) ジギタリス 特徴 葉、花 別名キツネノテブクロとも呼ばれている。ヨーロッパ原産で鑑賞用に栽培されるが、野外に自生するものは1m〜1.5mと大型に成長。 有毒成分 ジギトキシンが葉に多く含まれている。摂取すると不整脈、嘔吐、下痢、頭痛、めまい、耳鳴、心臓麻痺などの症状が現れる。 (10) キョウチクトウ 毒性成分 オレアンドリン(青酸カリより毒性が強く、致死量は0.3mg)、ギトキシゲン、アディネリン(Adynerin)など。 生木を燃やして発生する煙も灰も有毒。 事例 枝を箸として使った中毒、バーベキューの串として使って7人が死亡した例もある。 他に、シャクナゲ、タマスダレ、ユウガオ、ヨウシュヤマゴボウ(全草にサポニン、硝酸カリウムがあり嘔吐、下痢、倦怠感)、イラクサ、アブラギリ(油を和傘、提灯に使う。実を食べると嘔吐、下痢)、アセビ(有毒ジテルペンであるグラヤノトキシンが葉にあり、馬も痺れるため馬酔木と称す) 誤食して中毒を起こすものは、危ないかもしれないと思ったら食べないことが危険から回避できるが、身近な植物で猛毒をもっているものは、知らなければ自分を危険に晒すことになる。最も身近なのは、キョウチクトウ、スイセンだろうか。人の命を取るのに刃物はいらず、 身近にこれほど危険な植物があるのかと、恐ろしい気がするが、植物は自らを守るために毒を持つことは当然のことなのかもしれない。親しまれているが身近に危険な植物があることを知っていさえすれば、怖くもないが、身近にある植物の多くは危険なのだと考えていた方がよさそうだ。 きれいな花に毒があるのは、人間も同じような気がするのは考えすぎか。 参考 url スイセン http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/plant/suisen.htm 厚労省 自然毒のリスクプロファイル http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html 薬用植物 http://www.e-yakusou.com/sou/index.html “野外活動(野外調査)における安全について (ppt)”. http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~planteco/DOWN/jikkenn.ppt 毒性植物リスト http://members2.jcom.home.ne.jp/tadashi.saitoh/yasoudokulist.html |
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