日々の抄

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 元日の社説を読んで

2017年1月1日(日)

 ことしも、新聞各社の社説を読み比べてみた。各社とも反グローバル化する世界の動向に懸念を憂慮していることは共通している。

朝日新聞
 「憲法70年の年明けに『立憲』の理念をより深く」のタイトルで、政治という営みを人々の航海に見立てたという、保守主義者として知られる20世紀英国の政治哲学者、マイケル・オークショットの説いた、今年の世界情勢の寄る辺なさを、予見したかのような言葉である「海原は底知れず、果てしない。停泊できる港もなければ、出航地も目的地もない。その企ては、ただ船を水平に保って浮かび続けることである」を紹介している。

 不穏の世界の中、国内で「公の権力を制限し、その乱用を防ぎ、国民の自由や基本的人権を守るという考え方」とされる立憲主義に危惧を感じている。自民党が立憲主義を否定しないとしつつ、その改憲草案で「天賦人権」の全面的な見直しを試みていること、例えば、人権が永久不可侵であることを宣言し、憲法が最高法規であることの実質的な根拠を示すとされる現行の97条を、草案は丸ごと削ったことがある。
 それは、「個人、とりわけ少数者の権利を守るために、立憲主義を使いこなすことが、主要国共通の課題といっていい」とする。立憲主義の理念を、揺らぎのままに沈めてしまうようなことがあってはならない。それが、「世界という巨大な船が今後も、水平を保って浮かび続けられるように」求められているとしている。
 
毎日新聞
 「歴史の転機 日本の針路は 世界とつながってこそ」と題して、朝日が「立憲主義と民主主義」を論じているのに対し、「資本と民主主義の衝突」を論じている。
 「米国大統領選でのトランプ氏の勝利と、それに先立つ英国の欧州連合(EU)離脱決定は、ヒトやカネの自由な行き来に対する大衆の逆襲」であり、「グローバルな資本の論理と、民主主義の衝突と言い換えることもできる」だろうとし、フランスの経済学者ジャック・アタリ氏が「21世紀の歴史」(2006年)で、「歴史を動かしてきたのはマネーの威力だと指摘した」ことを紹介している。それによると、「地球規模で広がる資本主義の力は、国境で区切られた国家主権を上回るようになり、やがては米国ですら世界の管理から手を引く。その先に出現するのは市場中心で民主主義が不在の『超帝国』だと」説いたという。
 そうした中で、「他国との平和的な結びつきこそが日本の生命線であるという大原則にほかならない」「グローバル化がもたらす負の課題は、グローバルな取り組みでしか解決し得なくなっている。日本は率先してその認識を広めたい」としつつ、「借金が1000兆円を超え、国内総生産比で約2.5倍という債務財政」が弱点であると指摘。所得分布が貧富の両極に分かれていくと、この一体感が損なわれ、トランプ現象で見られたように、選挙が一時の鬱憤晴らしになれば、民主主義そのものの持続可能性が怪しくなっていく」と指摘している。
 「持続可能な国内システムの再構築に努めながら、臆することなく、世界とのつながりを求めよう」と結論づけている。
 
東京新聞
 「年のはじめに考える 不戦を誇る国であれ」と題して、平和について考えることを訴えた。
 日本の平和主義を二つの観点から見ている。一つは、だれもが思う先の大戦に対する痛切な反省。もうひとつは、「戦後憲法との関係」という。
 第一の観点について、「戦争は政治の延長である」とする、プロイセンの将軍クラウゼヴィッツの「戦争論」を示し、それが帝国主義、植民地主義。日清、日露の戦争に突き進み、やがて満州事変に始まった太平洋戦争に至った、「人間が人間扱いされなかった」という悲劇を生んだ。その絶望の果てに戦後日本は不戦を尊び固守してきたのだという。
 
 第二の観点について。平和主義とは、ただ戦争をしないだけ(=消極的平和)でなく平和を築こうということ(=積極的平和)。日本国憲法の求める平和主義は「武力によらない平和の実現で、対象は戦争だけでなく、救援が暴力の原因を取り去ることから、貧困や飢餓、自然災害の被害、インフラの未発達など多様」とする。
 「武力によらない平和を求めずして安定した平和秩序は築けない。武力でにらみあう平和は軍拡をもたらすのみです」。と結んでいる。

読売新聞
 「反グローバリズムの拡大防げ」と題して、「トランプ外交への対応」「「米露中の関係どう変化」「同盟の意義確認したい」「勢い増すポピュリズム」「自由貿易で成長復活を」と論じているが、時事解説で論じられている論と変わらず、現政権が求めているTPPを肯とする論と考えを同じうしている。


 世界が反グローバル化し、内向きな自国優先のナショナリズムに向かっていることは、グローバル化が互いに富をもたらすという従来の考えに反し、右傾化がますます排他的に走り、失われるべきでない弱き命を奪う結果につながっていくことは見えている。日本国内において、政治一強の現政権に不都合な考えは、「政治的中立でない」と誤解し、多くのマスコミ、地方自治体がそれを忖度し、自由闊達な論議ができない状況が、戦前の「個人の人権」が無視された暗い時代に一直線に向かうであろうことに強い危機感を感じて、一年が始まった。

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