日々の抄

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 猿に罪はない

2017年2月28日(火)

 千葉県富津市は2月20日、ニホンザルを飼育している高宕山自然動物園で、164頭のうち、約3分の1の57頭が特定外来生物のアカゲザルとの交雑種であることが分かり、駆除したと発表した。

 同園はサルの動物園で、県から許可を得て、ニホンザルの一群を、檻の中で飼育しており、すべての個体約130頭を吹き矢による麻酔で、一頭ずつ捕獲しDNA鑑定し、交雑していないか810万円をかけて確認したという。
 
 環境省によると、外来生物法が13年に改正され、輸入や飼育が原則禁止される「特定外来生物」に交雑種が指定できるようになり、翌14年6月にニホンザルと外来種であるタイワンザル、アカゲザルとの交雑種が指定されたという。
 16年8月には、同園ではニホンザルの飼育許可を取っているが、外来種は飼えないため、園の外からサルが入らないよう施設を整え管理を徹底し、純粋種を守っていく方針としていた。

 アカゲザルは中国など大陸に広く分布し、日本では実験用などで輸入されてきた。ニホンザルのしっぽは十センチ程度に対して、アカゲザルは二十〜三十センチと長く、腰から下の体毛が黄色か赤みを帯びている。房総半島南部で、観光施設で飼育されていたものが閉鎖に伴い逃げ出し、広がったとみられるという。野生化した群れが確認されているのは千葉県のみという。1995年度に群れが確認され、千葉県は2005年から全頭駆除に乗り出した。日本固有のニホンザルの生態系に悪影響を及ぼすとして、タイワンザルやアカゲザルの捕獲・駆除は、これまでも、静岡県、和歌山県、千葉県などですすめられてきた。

 今回の大量のアカゲザルとの交雑種の駆除は、同園の飼育許可がニホンザルのみで外来種は飼えないためというが、同園で交雑が起こったのは、檻が厳重でなかったこと、タイワンザルは人間によって日本に連れてこられてきたこと、などを考えれば、いずれも人間の不手際から起こった結果である。環境省は、できる限り苦痛を与えない方法で殺処分するとし、同園は駆除したうえで15日に慰霊祭を開いて弔ったというが、所詮気休めに過ぎないのではないか。
 
 交雑種は他の動物園などでも飼育されている。殺傷することなく、生かすことはできなかったのか。下北半島を北限とし、全国に広く分布しているニホンザルの純粋種をなくさないためには、これらを隔離していくことしかないのではないか。
 
 純粋種のみを生かそうなどと考えたことは、人間社会にも悲劇を生んできた。ユダヤ人大量虐殺も、南北戦争が終わってから150年も経過しているというのに、未だ黒人排斥がなくなってない米国しかり。最近、国会で注目されている、「日本人は神の子」などと思い違いしている、国粋主義もしかりである。
 
 西条八十による、童謡「かなりあ」は
 「歌を忘れたカナリアは 後ろの山に棄てましょか ……背戸の小薮に埋けましょか ……いえいえそれはなりませぬ ……月夜の海に浮かべれば忘れた歌を思い出す 」
と歌っている。
 タイワンザルは歌を忘れたのでなく、知らないのだ。人間の不注意や勝手で、罪なき生物を殺めることは罪深いことに思えてならない 。

所詮、純粋種などというものは、奢りと思い違いにしか過ぎない気がする。

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