日々の抄

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 何のための解散か

2017年9月27日(水)

  首相は17日夜、衆院を解散する意向を固め、にわかに政界が賑やかになってきた。
 
 野党は6月22日に国会招集を要求した。憲法53条に「衆参いずれかの議員の1/4の要求があった場合、内閣は国会を召集しなければならない」とあるが、与党は早期召集に応じることなく先延ばししてきておきながら、28日に 召集された国会で審議もせずにいきなり解散するという。これはあきらかに憲法53条違反である。

解散権は首相の専権事項なのか

 閣僚15人の内、12人は解散は「総理の専権事項」としているが、法務大臣だけは、解散権は「内閣にある」としている。
衆院解散の根拠になる一つの 憲法69条は「衆院の不信任の決議案を可決」「信任の決議案を否決」「内閣総辞職」などによって衆院解散が認められる。
もう一つの憲法7条では「天皇は内閣の助言と承認により国民のために国事行為として衆院を解散できる」とある。
 
 いつから、解散が総理の専権事項とされてきたか。
 1952年8月、自由党の吉田茂首相が、側近のみと相談しただけで、国会を開会せずに「抜き打ち解散」したことが始まりとされる。当時は「イギリスの議院内閣制をとる以上は当然のこと」と新聞社説で評価している。
 この解散が違憲として、改進党の苫米地義三氏が訴えて裁判になったが、1960年最高裁は「解散のように政治性の高い行為は裁判所の審査権の外にある」として判断しなかった。このため違憲ではないとされた。このことから、「7条解散」を認める「憲法解釈」により衆院解散が、総理の専権事項とされてきたというが、「内閣の助言」であって、総理の独断とされてない。
現憲法下、衆院解散があった23回の内、7条解散は19回という。

 英国では2011年から「内閣不信任決議案可決」「下院の2/3以上の賛成」がなければ議会を解散できない。解散権のない国は、米国、フランス、スペイン、オーストリア、アイスアンド、メキシコ、ノルウェー、イタリア、ポルトガル、アイルランド、オーストラリア、韓国、スイス、オランダ、ルクセンブルグ、フィンランド、ニュージランド、チリの計18カ国である。好きなときに解散できるのは、日本、デンマーク、カナダ、ギリシャの計4カ国のみである。

 「専権事項」の「専」の本来は「擅」であり、この語は「ほしいまま、独り占めにする、かって気まま」の意味を持つ。因みに、「擅」は「独壇場(どくだんじょう)」と誤って使われている、「独擅場(どくせんじょう)」の「擅」で「てへん」である。つまりは、 「専権事項」は「かって気ままに権利行使」するに使われる事項ということだろう。

なぜ、いま解散なのか

 首相は9月25日の記者会見で、衆院解散・総選挙に踏み切ると語った。その理由は、「消費増税分の使途見直し」「北朝鮮対応」だった。教育無償化などの2兆円規模の政策を実施し、2019年10月の消費税率10%への引き上げで得られる5兆円超の税収の使い道を変え、財源に充てると表明した。増税分の大半は国の借金の穴埋めにあてる計画だった。幼児教育や保育の無償化には、対象を3〜5歳児に絞っても年7千億円超。大学など高等教育の無償化まで踏み込んだ場合、実現には4兆円以上の財源が必要とされる。使い道の変更により財政再建はいっそう遠のき、政府が目標に掲げる「基礎的財政収支」の20年度の黒字化はさらに困難になる。1100兆円という途方もない国の借金を遠い未来まで残すことを更に延ばすことになる。

 首相は「国民に約束していた消費税の使い道を見直すことを決断した。約束を変更し国民生活に関わる重い決断を行う以上、速やかに国民に信を問わねばならない。28日に衆院を解散する。この解散は「国難突破解散」だ。急速に進む少子高齢化を克服し、北朝鮮の脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜く決意だ」とした。
 また、「国民は北朝鮮の度重なる挑発に大きな不安を持っていると思うが、民主主義の原点である選挙が北朝鮮の脅かしで左右されることがあってはならない。むしろこういう時期にこそ選挙を行い、北朝鮮問題への対応について国民に問いたい。拉致・核・ミサイル問題の解決なくして北朝鮮に明るい未来などあり得ない。北朝鮮に政策を変えさせるための圧力だ。対話のための対話には意味はない。北朝鮮が全ての核・弾道ミサイル計画を検証可能かつ不可逆的な方法で放棄しない限り、圧力を最大限まで高めていくほかに道はない」とした。

 「消費増税分の使途見直し」について
そもそも消費税率10%への増税は、民主党(現・民進党)政権下の12年、自民、公明、民主の3党が合意したものだった。少子高齢化が進み、借金頼みの財政では社会保障制度を維持できないとの危機感から、与野党とも「政争の具」にせずに実施するとしてきた。
 また、首相は4年前には「消費税収は社会保障にしか使わない」と説明。「リーマン・ショック級の出来事がない限り、予定通り引き上げる」と繰り返したが、16年6月、消費増税を19年10月まで再延期すると表明している。

 首相は9月26日のテレビ東京の番組で、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げについて、「経済状況いかんにかかわらず引き上げるということではない。リーマン・ショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば判断しなければならない」と語った。
 「またか」と思うとともに、10%に増税しなければ、解散理由にしている「教育などの使途見直し」が不可能になるのではないか。大いなる矛盾である。

 消費税の支途を変えることを自民党内でどれほど議論したのか。そもそも国会で議論を尽くし、その結果について国民に審判を仰ぐというのなら、解散の理由になるだろうが、首相が解散の大義名分を考えるための理由付けにしか思えない。

「北朝鮮対応」について
 北朝鮮問題があるので、いま衆院解散する必要がある、などということが理由になるなどと考えている国民がどれほどいると思っているのだろうか。北朝鮮問題で何の信を問うというというのか。強行姿勢を支持しろというのだろうか。全く理由不明である。国民に北朝鮮からの恐怖感を煽り、米国とともに強行姿勢を示していることに不安を感じている国民がいることも知ってほしい。


 民進党、小池新党の選挙への準備不足であること、国会でいわゆるモリ、カケ問題を追及されたくないための自己保身のための解散にしか思えない。「国難突破の解散だ」としているが、「ボク難突破の解散」と見えて仕方ない。
 だいたいにおいて、「仕事人内閣」などと銘打って組閣したばかりでほとんどの「仕事人といわれる閣僚」が仕事をしない状態で解散することがどれほど無責任なことか考えるといい。

 衆院選挙で約600億円越えの経費がかかるという。その分があれば、
・農家の減収を補う「収入保険」 531億円
・東京五輪・パラリンピック会場「有明アリーナ」整備費 339億円
・訪日外国人客増を狙う観光関連 247億円
すこし加えれば、
・非正社員を正社員にする「キャリアアップ助成金」 742億円
・希望者全員が借りられる無利子奨学金 1075億円
が実現できる。無利子奨学金は、何も増税しなくても可能なのではないか。

 冒頭解散で以下の法案が持ち越しになることは記憶しておかなければなるまい。
・働き方改革関連法案
・受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案
・成人年齢を18歳に引き下げる民法改正案
・カジノを含む統合型リゾート(IR)の実施法案

 いま政界はなんとか新党などの動きを見ていると、議員の保身のための動きとしかない思えない姿が見えて寒々しい気持ちになっている。リベラルと極右が混在する政党が多数をとったとしても、所詮一時しのぎの政党で、長続きなどするはずがない。

 「憲法9条堅持、反原発」の2つで新しい党ができないだろうか。関係する組合の支持がなくとも、少なからぬ国民の支持があることは十分想像できることである。それにしても、マスコミに、政権の意向を垂れ流していたり、当たり障りのないことしか語らないコメンテーターが毎日のように出ているのは不愉快きわまりないと思っているのは私だけだろうか。

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