日々の抄

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 大学入試は過渡期に来ているのか

2018年4月16日(日)

 例年のことながら、入試問題に関わるミスがことしもたくさんあった。特に大阪、京都大の過去の入試にミスがあったことがマスコミで取り上げられ注目を集めたが、過去にも同様のことは起こっている。あまりのミスの多さに驚くが、この春行われた入試についていくつか書き出してみる。

□ 問題文に誤りがある。正解が複数ある、 選択肢に正解なし。解答できない
・金沢医科大
 医学部一般入学試験の「生物」の6つの選択肢の中からもっとも適切な記述をひとつ選択する問題で、正答(選択肢5)のほかに正誤の判断が難しい選択肢(選択肢3)が含まれていた。
・近畿大
 地理の問題文で「海面更正」とすべきところ「海面更生」と誤記。
 化学ではホウ素原子とホウ素化合物のどちらについて答えればいいのか不明の問題文。
 日本史で、難波宮など歴史上の都との組み合わせで、選択正解がなかった。
・美作大
日本史の明治維新に関する文章の空欄を埋める問題で、11カ所に入る語句を漢字2文字で答えるよう指示したが、6カ所で「廃藩置県」「徴兵令」など解答が3、4文字になる場合があった。
・立命館
 世界史のイギリス議会でアイルランド自治法案が提出された時の首相を尋ねる問題で、提出年は1893年が正しいが、問題文問題中では誤って96年と記していた。
 数学の数式の穴を埋める問題で、極限値を意味する記号に誤りがあった。
・奈良教育大
 小論文問題のエッセーの一部を引用した問題で、本文と問題文の漢字が異なっていた。試験中、受験生から表記の不一致について質問があったが、監督は「同じ意味」とマニュアルに反し、個別に答えていた。
・同志社
 物理の問題文の条件の説明が不十分で、答えが導き出せなくなっていた。
 政治・経済で問題文に誤りがあったため、答えを導き出せなくなっていた。
 数学の4次関数のグラフで点の座標の数値を答えさせる設問で二つの正答を想定していたが、条件次第で別の数値も正答になることが判明。
・佛教大
 現代社会・政治経済」の問題で、誤った説明をしている選択肢を一つ選ばせる問題で、本来の正答のほかに「衆院の定数は475人だが、4年の任期中に解散されることがある」という選択肢も、衆院定数は昨年の衆院選から465人に削減され誤りだった。
・京都大
 氷の結晶構造がダイヤモンドと部分的に似ていることを答えさせる問いで、設問文が曖昧で受験生のとらえ方によっては正解が存在しない。
 もう1問も、問題設定に不備があり、受験生の混乱を招く恐れがあると判断。
 化学では、事前に7カ所、開始後に4カ所の問題文の訂正があり、全員への周知を終えたのは終了30分前だった。
・京産大
 世界史の米国の憲法に関する選択式の問題で、複数の解答が正しいことが、点検を委託している外部機関の指摘で発覚した。
 化学で、「原子量」とすべきところを「原子の質量数」と記述。問題文で比較すべき元素に同位体が存在するため、大小を特定できなかった。
 国語で、正答が二つあったり、解答不能な設問になっていた。
 (下記の□出題が不適切と思われるものを合わせて3箇所にミスあり)
・札幌医大
 物理の運動方程式を立てて物体を押す力を求める設問で、物体が静止した状態か、動いている状態かを設問中で明示していなかったという条件設定に不備があった。
・奈良教育大
 小論文の、長文を読み小問ごとに著者の考えを論述する問題で、書籍から引用した文章に「併列、併存」とあった文言を設問の文中で「併存、並列」と誤表記。試験中、受験生が意味の違いを質問したが作問と試験監督を務めた教授が「同じ意味」と個別に解説し、それ以外の受験生には周知しなかった。
 数学の問題に解答不能な設問が1問あった。 
・ 四国大
 英語のレストランのウエーターと客の英会話を成立させる問題で、四つの選択肢から解答を導くが、同じ選択肢が二つあった。
・兵庫県立大
 小論文の題材として使ったグラフの一部数値を誤って削除し、出典と違うデータを掲載していた。
・徳島大
 物理第1問の問4と5で、摩擦力と張力の力関係を問う問題文に不備があり、解答が導けなかった。
・静岡県立大
 化学基礎・化学の浸透圧に関して圧力を式で答えさせる問題で、解答を導くための条件に不備があった。
・神戸女学院大
 生物の設問の図のタイトルに解答が含まれたまま出題していたものが1問あった。
・信州大
 化学の物質の組成式を求める設問で、問題文の文言の不備から組成式ではなく、分子式を求める問題とも解釈できる不備があった。
・神戸市外国語大
 英語で解答が不可能な問題が1問あった。
・和歌山大
 生物基礎・生物の植物の成長と日照・温度との関係を尋ねる設問で、質問文で示された条件に矛盾があり、正しい答えを選択することができなくなっていた。
・龍谷大
 世界史の1問で説明文に誤りがあった。
 また、生物では選択肢に同じ組み合わせがあった。
・福山市立大
 世界の栄養不足人口の地域別割合を示したグラフを読み取らせる総合問題で、二つの円グラフについて、凡例とグラフが対応しない、色の濃淡が判別できないなど計7点のミスがあり、正答を導き出せない状態だった。
・愛知教育大
 化学で設問の前書きで内容とそぐわない表現があった。
 生物で問題文の一部に1社の教科書と表現の違う内容が見つかった。
・愛媛大
 「音楽実技(音楽理論を含む)」の、楽譜を見て、曲名や作曲者を答えたり、適切な演奏速度を選んだりする問題で、山田耕筰の「赤とんぼ」で、第3小節の音の高さが1カ所間違っていた。
・久留米大
 数学と地理の問題の計3か所に誤りがあった。12年連続のミスだった。
 数学では設問の条件が不足し、正答が導けなかった。
 地理では人種・民族とすべき「ヒスパニック」を「人種」とするミスや誤植があった。
・立教大
 日本史の一八五九年に開港した場所を問う問題で、正しい選択肢が存在しなかった。
・関西学院大
 文系数学の問題文にミスがあり、解答が困難な問題があった。

□ 出題が不適切と思われるもの
・京産大
 化学問3で、設問の素材が多くの教科書で参考扱いの資料として掲載されていることから、高校の学習範囲を逸脱した。
・熊本大
 数学で、設問の中で出題範囲に指定していなかった用語「期待値」が使われていた。
・浜松医科大学
 化学の問題2問で、高校では習わない表記があった。
・香川大の数学で、大学が指定した出題範囲に含まれない用語が使われていた。


 大学入試ミスは信じられないほど多い。過去18年間で4千件 あり、ピークの15年度は300件超あった。文科省は2月16日、各大学から報告された入試ミスの件数を開示した。2000年度からの18年間で、国公私立合計で約4千件のミスが報告されており、昨年度は153大学291件だった。また00年度には28大学33件だったのが、ピークの15年度では178大学325件に上り、その後も250件以上の高止まりとなっている。(教育新聞)

 京大、阪大のような年度を超えた入試ミスが受験生の多大な損害を回避するためには、解答例の開示が必要だろうと思う。出題者の思い込みや誤りを外部から指摘しやすくなるからである。
 全国の29大学の開示、非開示の対応は以下のとおり(朝日新聞調査)。
 開示(一部含む)
<国公立> 北海道、金沢、名古屋、大阪、大阪市立、徳島、香川、愛媛、高知、九州
<私立> 関西、関西学院、近畿
 非開示
<国公立> 東北、東京、福井、京都、神戸、広島、山口
<私立> 青山学院、慶応、上智、同志社、法政、明治、立教、立命館、早稲田

 解答例を開示している大学の開示の理由は「本学が求める学力や能力を示すため」(名古屋大)など14校が受験生への情報提供のため、また、「信頼される公平・公正な入試とするため」(長岡技術科学大)など情報公開の重要性を指摘している。
 一方、非開示の理由では
 ・「(記述式問題で)解答例が唯一の解法だと誤解される可能性がある」(千葉大)、 ・「模範解答を目指す受験対策を誘発し、大学が期待する柔軟で多様な思考力に基づく解答を期待できなくなる」(佐賀大)
 ・「解答や解法を暗記する受験対策につながりかねないため、現時点で一般入試の解答例を開示する予定はない」(東京大)
 ・「解答を導く過程を評価する設問もあり、一律の開示は適切ではない」(早稲田大)
など、7校が受験生に与える影響への懸念を示している。
  方針変更を考えている大学として、福井大は「模範的解答や出題意図の公開・開示について検討を始めている」という。法政大は「入試問題の検証は本来大学が責任を持ち、ミスを根絶すべきもの」「開示は受験生のニーズを踏まえ、検討課題になりうる」との意向を示した。


 「入試ミス問題に対する現場の言い分」(朝日新聞 2018/2/9 WEBRONZA)と題した東大教官の大学入試に対する信じられない言い訳と放言とも思える文章が述べられていた。大学入試に対する考えに呆れた。それによると、
 ・入試問題の作成にはすでに膨大な労力がさかれている。したがって、今回の事例を、出題委員の怠慢だけに帰しては本質を見失う。
 ・入試問題作成は、教員にとっては、労多くして功の少ない業務の典型例である。時間をかけて独創的な問題を作成しても、高校の指導要領の範囲内で本当に解けるのか、他の解答の可能性はないのか、など、すぐにはわからない数々の確認事項がつきまとう。
 ・それらをクリアして素晴らしい問題が完成したとしても、守秘義務のために作成者がプラスの評価を受けることはない。14名×11回分もの膨大な時間を、学生の教育や研究に当てられたら何ができるか。
 ・同僚が独創的で素晴らしい問題を提案され、高い評価を受けて、その問題に対応する実験装置を自作し、実際の実験の模様をビデオ撮影までした。だが、結果を導くために必要な仮定がなぜ成り立つのか、意見が分かれ、万一のことを考えてその問題は見送られた。入試出題は、頑張るほど報われないという矛盾した業務だ。
 ・正解例を公開すべきだとの意見には賛成できない。仮にそうしたならば、すべての正解例について様々な批判が噴出するだけで、回復不可能な混乱を招くだけだ。
 ・大学入試に完璧はありえないし、それを求めること自体が間違っている。総計が500点満点の試験の場合、10点程度の違いは、受験生の能力の違いを反映しているはずはなく、単なる誤差だ。いっそのこと受験時に、「後日、総得点が修正されたとしても、それが10点未満の違いであれば合否結果を変更しないことに同意する」という念書を要求すべきではないかとすら思う。
 ・現在の制度では1点差で合否が決まり、受験生個人にとってその違いは無視できない影響を及ぼす。総得点のボーダー付近の受験生は、意図的にサイコロを振るなどしてランダムに選ぶ。
 ・世の中は偶然で決まることのほうが圧倒的に多い。それを容認しておきながら、入学試験だけに完璧な絶対性を求めることはバランスを欠く。

 この文章を見る限り、この文章の筆者である大学教官は、「大学は研究機関であり、大学入試問題作成などという評価されない作業はゴメン蒙りたい、入試問題の出題範囲が妥当かなど調べたくない、解答例を示して自らの落ち度を知られたくない、世の中に偶然的なことが多いのに入試だけ厳密になどできないから最後はサイコロで合否を決めればいい」。ということなのだろう。
 大学は研究機関であるとともに教育機関であることを忘れている。入試問題作成が報われない作業だからできるだけ手のかからない方法でやればいいとでも思ってのことだろうか。大学教官の思い上がりもいいところで腹立たしい。心血を注いで努力している受験生を舐めないでほしい。

 各大学が求めたい学生の資質をいかに図るかが大学に求められているはずだ。京都、大阪大学の過去の入試問題取り沙汰されたのは、解答するに必要な条件を明記してないことと、自らの作問に誤りなどないはずなどと思いこんでいたためではないか。
 
 大学入試のミスをなくす最大の施策は、大学教官が入試の結果が受験生の人生に大いに関わっていることを真面目に考え、真剣にに入試に向き合おうとすること、入試問題など楽々と作問、解答できる学力と見識を身につけることだ。

 入試問題にミスがあったから全員に配点したことは公平とは言えない。試験中にミスと思わず時間を労することはありうるからだ。また、解答例を示すことが、「解答や解法を暗記する受験対策につながりかねないため」などは言い訳にしか聞こえない。
 法政大の「入試問題の検証は本来大学が責任を持ち、ミスを根絶すべきもの」、名古屋大の「本学が求める学力や能力を示すため」に同感である。
 
 何年も出題ミスを続けたり、同一年度に複数のミスを重ねている大学はその程度の大学なのだと思えばいいのだろうか。研究だけが崇高なことと思っている大学教官は、学生と関わらない研究機関に移籍することを勧める。


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