日々の抄

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 外国人労働者は「もの」ではない

2018年12月9日(日)

 改正出入国管理法が様々な問題を抱えながら、与党などの採決強行で国会を通過した。 従来、働くことを認められていたのは医師や弁護士など17資格のみで、高い専門性を必要としない「単純労働」は、認められていなかった。
現在の外国労働者数(2017年)合計約128万人でその内訳は
 身分に基づく在留資格者(日系人や日本人配偶者) 約46万人
 特定活動(ワーキングホリデーなど)約3万人
 資格外活動(留学生アルバイト。週28時間以内)約30万人
 専門的・技術的分野(教授、芸術、報道など18分野)約24人
 技術実習(農業、漁業、建設など77業種)約26万人
である。

 改正案は高度な専門職に限定してきた外国人の受け入れを単純労働にも拡大した。改正出入国管理法の改正案骨子は
 ・一定技能が必要な業務に就く「特定技能一号」と、熟練技能が必要な業務に就く「特定技能2号」の在留資格を新設したことを柱としている。一号は在留期限が通算書5年で家族帯同を認めないが、2号は期限の更新ができ、配偶者と子どもの帯同も可能
 ・人材確保が困難な産業分野で外国人を受け入れ、人手不足が解消された場合は、一時的に受け入れを停止
 ・「出入国在留管理庁」を新設。長官の登録を受けた機関が、外国人を支援


 単純労働とは何か。
 首相は「十分慎重に対応することが不可欠」としつつ、「技術や知識、経験が要らない仕事とは」と尋ねられても、具体例について首相は「例を示すのは控えた方がよい」と述べて、一切言及しなかった。
日本で学んだ技能を母国に伝えることを本来の目的とする「技能実習」の枠組みで滞在している外国人が、企業に事実上の単純労働者として使われているが、自民党の田村政調会長代理は、NHKの番組で、技能実習をきちんとした雇用に置き換えていくのが、「特定技能」だと述べており、政府が従前、二つの制度は別のもので、技能実習は存続させると説明してきたはずだが、「技能実習」を「特定技能1号」と読み替える算段らしい。


 法案が通過しても、各論はほとんど未定と言ってもいい内容である。外国人労働者をどれほど、どのような業種で受け入れるかなどを含め、国会に質疑で判明していることは、各論は「省令で定める」つまり、国民に見える形で国会審議を経ることなく法務省令で勝手に決めることができるというお粗末なものである。
 
 成立後に法務省令で決める主な項目の骨子は以下の通り。
特定技能の雇用契約
・報酬は日本人と同等以上
・一時帰国を希望した場合、休暇を取得させる
受け入れ機関の条件
・保証金を徴収するなどの悪質な紹介業者の介在がない
・行方不明者を発生させていない
・生活相談に従事した経験のある職員が在籍していること
支援計画
・生活のための日本語習得の支援
・住宅の確保
・入国前の生活ガイダンスの提供
受け入れ業種
・受け人れ見込みの人数
・受け入れ業種と分野
・特定能力に求める技能水準日本語能力

 これらの殆どは省令で決められるというが、国会の審議を経るべきものばかりである。特に、受け人れ見込みの人数、受け入れ業種と分野は日本の産業構造を変えることにつながる重要なことであるにもかかわらず、とにかく法律という入れ物の形だけ決めて、中身はそれから決めればいいというが、なぜ十分に検討することなく慌てて今決めなければならないのか。
理由は簡単である。政府与党が経財界から依頼され、なんでもいから使い捨てできる人材確保の道を開く法令を作り、その見返りに来年の参院選で支援する、来春も官制賃上げをさせ、景気回復をしていると言わせたいということだろう。


改正出入国管理法が成立するにあたっての問題点は次のようなものだ。
(1)外国人労働者がなぜ必要なのか。
 国内労働者が不足しているためというと尤もらしいが、介護、建設、農業で特になぜ不足しているのか。これらの業種は特に労働対価としての賃金が安いからである。その例として介護職が不足していると問題視されているが、深夜勤務を週に数回行い職員不足を補うために過重労働を余儀なくされておきながら、15万円程度の月給と聞く。報われない仕事と感じても不思議ではない。これから介護職はもっと必要に迫られる時代に入っている。報われると思えるような賃金体系待遇でなければ、人材不足になるのは当然のことだろう。

 最低賃金(時給714円・2016年)が毎年上がっていると言うが、10円単位の上げ幅では、上がったことになどなるまい。自分の労働で収入を得て、正社員として経済的に安定すれば、家庭を持ち子どもを設けようとすることは自然なことだ。日本人の非正規社員問題を解決せずして、少子化対策などといって、なんとか手当を配るような愚は認められない。まっとうに働く者がまっとうな生活をできるような社会構造を形成することだ。そこには富の偏在を解決するという根本問題がある。

(2)「技能実習生」を「特定技能1号」と読み替えるなら、「技能実習生」の実態を明らかにすべきである。
 政府はミスリードしているとしか思えない情報提供や情報開示拒否をし、不都合を隠蔽し多数を利用して法案通過をさせるような暴挙に思える。

 ・実習生が受け入れ先企業から姿を消してしまう例が昨年だけで7千件を超え、後に居場所が確認できた約2900人から聞き取りをした結果、法務省は約87%が「より高い賃金を求めて」失踪したと説明していた。だが、正しい数字は約67%だった。しかも「低賃金」「契約賃金以下」「最低賃金以下」の3項目にチェックが入った数を合算した数字という。

 結果として、法令や契約を守らない劣悪な労働環境があることは覆い隠され、実習生のわがままが失踪を生んでいるような印象を社会に振りまいたことになる。そもそも、入管庁は容疑者としての「失踪」者調査と言うが、人権侵害をはじめ不法な扱いを受けている外国人労働者は、「被害者」なのではないか。失踪せざるを得ないという理解が必要である。
 ・「低賃金」とした約67%を占めた内、法務省発表では、法令違反に当たる「低賃金(契約賃金以下)」は144人、「低賃金(最低賃金以下)」は22人だったが、野党が行った聞き取り結果を記した「聴取票」を全て書き写した集計で、2/3 の1939人が最低賃金以下だったという。
 ・失踪前の月給は「10万円以下」が1627人と過半数で、「10万円超〜15万円以下」が1037人だった。給与を、入国前に説明を受けていた人は2131人。また、実習生の大半は来日前、母国の送り出し機関に「100万円以上150万円未満」が1100人と最多で、293人が「150万円以上」を支払っていた。
 ・賃金のみならず、失踪した原因として
 「指導が厳しい」との答えが5.4% → 12.6%に、
 「暴力を受けた」が3.0% → 4.9%に訂正された。
 があった。

(3)外国人労働者を受け入れる建設業者への主な改善指導」がなぜなされたのか。
 建設業の受け入れ企業で昨年度に立ち入り調査を受けた518社のうち、約4割の204社で賃金に関する問題があったことが分かった。
 その中身は、時間外・休日・深夜 割増賃金の支払い 140件、賃金支払いの状況 137件、文書の作成・保管の状況 52件、 労働時間管理の適正化 35件、健康診断の実施状況 26件、労働条件の明示 11件 などという。
 外国人労働者を酷使し、人間扱いされてないということではないか。帰国したくとも、来日するにあたって斡旋業者に支払った金を返済できないため、いわば非人間扱いされても帰国できないという実情があること知らなければなるまい。こんなことをして、日本人として恥ずかしい限りである。
 
 野党、厚労省の調査ともに約6000事業所の内70.8%が、残業代未払い、違法な長時間労働などの法令違反をしているという。

(4)労働力は本当に不足しているのか
 シャープ亀山工場で働く日系外国人労働者が、2018年4月には1300円だった時給は、10月以降には1100円に引き下げられ、労働時間も短縮。日系外国人労働者らが雇い止めにあい、これまでに約2900人が退職させられ、また、日本人労働者約1000人も昨年12月中旬ごろから雇い止めされたという。
 また、日立製作所笠戸事業所で働くフィリピン人技能実習生を99人を全員解雇するという。これほどの解雇がありながらどこが労働力不足なのか。

 単純労働の定義を明確にしないと、人手不足に悩む様々な業界からの要望に、歯止めがかからなくなる恐れがある。例えば、店員を外国人留学生に頼ることも多いコンビニエンスストアで、店員の業務は今のところ、今回の特定技能の候補になっていない。実情と乖離しているのではないか。単純労働の定義を明確にしてから法案化することがなぜできなかったのか。
 
(5)外国人労働者を人間と考えているのか
 政府自民党による改正出入国管理法の採決強行は、外国人労働者(「特定技能2号」になれば家族を含めて)の「健康管理・安全、教育、福祉」などに関する論議がなされることなく、ただ、単純労働の外国人労働者を雇い入れることができるようにすることしか考えてないように思われる。外国人労働者を受け入れる地域のことの論議がなぜないのか。
 
 「特定技能一号」から「特定技能二号」に移行できる否かはこれから検討するというお粗末さである。場合によっては「特定技能一号」どまりのつもりなのかもしれない。現に、「建設と造船の2業種では数年の間は2号の導入を見送り、1号の在留者数などを踏まえて2号に移行するための試験内容などを検討する方向」(日経新聞 2018/12/8 9:50)と伝えられている。改正出入国管理法が「移民法」と言われることを回避したい結果なのか。

 つまりは、外国人労働者は単なる労働する「もの」としてしか考えず、都合が悪くなれば国外退去指せよと考えているのかも知れない。現在来日している外国人労働者の過酷な実態を調べることなく、低賃金で外国人労働者を雇い入れようとすることなど許されざることではないか。こんなことをしていれば、「日本は二度と行きたくない国」になるに違いない。現に、首相は外国人労働者が69人も命を落としていることを問われると、「見ていないから答えようがない」と、まるで他人事のような答弁をしている。これは平たく言えば「そんなこと俺には関係ないし、知らないもんね」ということだ。一国の責任者が、他国から来日している人間の命を軽んじている証左としか考えようがない。
 
 また、観光目的以外で3カ月を超えて日本に滞在する40歳以上の外国人は、日本人と同様に介護保険料を納める義務があり、65歳以上で介護の必要性が認定されれば、施設入所や訪問介護などのサービスを受けられるそうだが、「特定技能二号」にならなければあり得ない話で、これは保険料のただ払いになることは自明であり、不合理な扱いは回避すべきことである。
 
 
 外国人労働者は「もの」ではない。
 外国人労働者は血の通った家族・知人・ふるさとをもつ人間である。政治家は、長時間労働の後、家族の写真を見ることだけを楽しみにし、寂しさから涙している外国人労働者が少なからずいることを知るべきである。政府・与党は目先の利益だけを追うことを避けるべきである。こんなことをしていると、日本は末代まで、軽蔑される民族と語り継がれるに違いない。
 
 改正出入国管理法は歴史に残る汚点の残る悪法である。
 
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