日々の抄

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 新元号に思う

2019年4月1日(月)

 改元による新元号が決まった。その名は「令和」という。
選定手続きが午前9時すぎから始まり、
10:08 有識者懇談会、終わる
10:19 衆参両院の正副議長への意見聴取
11:41 新元号は「令和」と発表
12:05 首相が会見
だったが、どう見ても、有識者懇談会や衆参両院の正副議長への意見聴取などは、アリバイ作りに見えて仕方ない。提案されたものに対して異論を唱えることなどできまいし、ましてや首相の会見が新元号への思い入れ、いわれなど午前中の短時間に作文できようがあるまい。事前に決まっていたに違いない。

 「令和」の出展は、万葉集巻五に「太宰帥大伴の卿の宅に宴してよめる梅の花の歌三十二首の序」(大伴旅人:梅花の宴)の序から、
天平二年正月の十三日、帥の老の宅に萃ひて、宴会を申ぶ。
「時、初春の月(れいげつ)にして、氣淑(よ)く風ぎ、梅は鏡前の粉を披き(ひらき=白粉のように白く咲き)、蘭は珮後(はいご=匂い袋)の香(かう)を薫(かをら)す」
という。
 その意味は、「初春の良き月に、空気は美しく風も和やかで、梅は鏡前で装うように白く咲き、蘭は身に帯びた香りのように薫っている」
という。この「令」と「和」から「令和」になったという。

首相は、新元号について、
 『この「令和」には、人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ、という意味が込められております。万葉集は、1200年余り前に編纂された日本最古の歌集であるとともに、天皇や皇族、貴族だけでなく、防人や農民まで、幅広い階層の人々が詠んだ歌が収められ、わが国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書であります。
 悠久の歴史と薫り高き文化、四季折々の美しい自然。こうした日本の国柄を、しっかりと次の時代へと引き継いでいく。厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい、との願いを込め、「令和」に決定いたしました。
文化を育み、自然の美しさを愛でることができる平和の日々に、心からの感謝の念を抱きながら、希望に満ちあふれた新しい時代を、国民の皆さまとともに切り拓いていく。新元号の決定にあたり、その決意を新たにしております。以下略』 (下注参照)

と述べているが、『「令和」に、人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ、という意味が込められております。』がどこからでてくるのかまったく不明である。出展は、大伴旅人が「梅花の宴」の序に、自然を愛でるについての梗概を述べているに過ぎないが、これから「文化が生まれ育つ」などということをなぜ言えるのか理解できない。

 「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい」については同感だが、年収400万円未満の国民が半数近くいること、1日から始まる「外国人労働者の受け入れを拡大する新制度」について、不明外国人労働者数が5000人におよんでいることの調査をせず、また、43人もの死者がでていることを国会で「それは知らない」などと言っている限り、「明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる」は、金科玉条に聞こえるのみだ。
 
ところで、「令」の字は
漢和辞典では、
@ 神のお告げや、君主・役所・上位者のいいつけ。「勅令」「軍令」
Aおきて。お達し。「法令」「律令(リツリョウ)」
Bよい(よし)。清らかで美しい。▽相手の人の妻・兄弟を尊んでいうことばとしても用いられる。「令聞(レイフ゛ン)(清らかなことばや、よい評判)」「令室」「令妹」
Cさ(長)。「令尹(レイイン)(楚(ソ)の宰相)」「県令」
D遊びごとのきまり。「酒令(作詩・なぞあてで、はずれた者に罰杯を命ずるきまり)」
E命令する。「不令而行=令せざれども行はる」〔論語・子路〕
解字:
 人々を集めて、神、君主の宣告を伝えるさま。もと、こうごうしい神のお告げのこと。

新漢字林では
@命ずる。いいつめる。法令などを発布する。
Aみことのり。君主の命令。
Bのり。おきて。保冷。布告書。
Cいましめ。おしえ。教訓。
Dおさ。長官。
Eよおり。りっぱな。すぐれた。
F他人の親族に対する敬称。「令息」
G文体の名。皇后・太子・諸侯などの命。
解字:
 人(頭上にいただいた冠の象形)+卩(人がひざまずいた象形)で、神意を聞く様から、いいつけの意味を表す。

などとある。
 漢和辞典の、「@ 神のお告げや、君主・役所・上位者のいいつけ。勅令、軍令、E命令する」 、新漢字林の「@命ずる。いいつめる、Aみことのり。君主の命令」の意味を考えると、
「私は総理大臣ですから、森羅万象すべて担当しております(2019/2/6参院予算委員会)」、「私が国家です(2019/2/28 )」などと、裸の王様になっている首相の「命令」で、国民はそっちのけにされ、「自らないし取り巻き」だけを和ませることが「令和」であってはならない。

 新元号発表で日本中まるで祭り騒ぎの政治ショーそのものの1日だった。ほとんどのTV局が新元号についてかなりの時間を割いていたが、テレビ東京(7CH)が堂々といつも通り「昼メシ旅」を放映していたのは痛快。ま、前評判の高かった「安」の字がなかったのは懸命だった。

 「令」の入った四文字熟語に「巧言令色」がある。論語の「子曰、巧言令色鮮矣仁(巧言令色スクナシ仁(ジン))」が出典だが、その意味は、「言葉を巧みに操って、人の気をそらさないように表面をとりつくろっている人物には、最高の徳である仁に欠けている者が多い」ということ。
 政権にある者が、難渋している内外の課題が山積している政治情勢の中、改元騒ぎで失地回復などしようと思うのは大いなる誤解と思って貰いたい。政治にとって何が「仁」なのかの自問を求めたい。

(注)平成改元時竹下首相談話
平成を「国の内外にも天地にも平和が達成されるという意味が込められており、これからの新しい時代の元号とするに最もふさわしい。新しい元号も、広く国民に受け入れられ、日本人の生活の中に深く根ざしていくことを心から願っている」

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