75%が満足しているのか |
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2019年7月6日(土) 参院選に入り、さっそくTVでも党首討論が行われた。冷静な政策論議がなされると思いきや、感情的な虚しい言葉のやりとりが見られた。各党とも一回の発言時間が決められているにも関わらず、首相は「大事な内容なのだから」と司会者の制止を無視して話し続けた勝手さには不愉快きわまりなかった。自民党立候補者に配布されたという、 『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』(責任政党を自称している公党に配られるにはあまりに下卑たタイトルだ)なるデマ情報満載の「演説用資料」について問われると、首相は「読んでない」と言い張るが信じるひとはいまい。このパンフについて問われると、話題をそらして、お得意のご飯論法でまくしたてていた。 司会者の『「国民生活基礎調査」で生活が「苦しい」と感じる世帯が全体の57.7%にも達している』に対し「内閣府の調査では75%が『いまの生活に満足している』と首相が強調していた。これを聞いている範囲で「本当なのか」と思うが、数字は魔物。条件によってまったく異なる結果を見ることがあるので、この点について検証してみた。 平成30年国民生活に関する世論調査(内閣府による)では、 母集団:全国の市区町村に居住する満18歳以上の日本国籍を有する者。標本数:10,000人、地点数:331市区町村 350地点、 抽出方法:層化2段無作為抽出法 Q1お宅の生活は、去年の今頃と比べてどうか。 向上している(7.2%) 同じようなもの(78.7) 低下している(13.8) Q2全体として、現在の生活にどの程度満足しているか。 満足している(12.2%) まあ満足している(62.5)→ 「満足」と合わせると74.7%になる。 やや不満だ(19.5) 不満だ(4.8) だが、対象となる集団を調べてみると、かなり偏っていて国民を代表することになりにくいことが分かった。 F2 【年齢】あなたのお年は満でおいくつですか。 30歳~ (3.8) 25歳~29歳(4.0) 30歳~34歳(5.3) 35歳~39歳(7.1) 40歳~44歳(8.4) 45歳~49歳(8.4) 50歳~54歳(8.3) 55歳~59歳(7.8) 60歳~64歳(8.8) 65歳~69歳(11.4) 70歳~74歳(10.0) 75歳~79歳(8.2) 80歳以上(8.5) ➡ 60歳以上が 46.9% F6 子どもの有無 ➡子どもがいる(77.4) 子どもはいない(22.5) F6SQ 子どもの成長段階は 乳児、幼児、未就学児(12.7) 小学生(12.9) 中学生(8.0) 高校生(8.3) 大学生、大学院生、短大生、専門学校生(9.0) ➡学校教育修了(68.5) F7今のお住まいはどれにあたりますか。 ➡ 持ち家(81.7) 民営の賃貸住宅(14.1) 公営、公社、都市再生機構の賃貸住宅(2.2) 勤め先の給与住宅(1.4) F7SQ 住宅の建て方は ➡ 一戸建(82.0) 集合住宅(長屋建・テラスハウスなどを含む)(17.7) その他(工場や事務所などの一部に住宅がある場合)(0.3) ここまでで分かることは、「学校教育修了の子どもを持ち(子どもの教育費は不要)、一戸建ての持ち家に住んでいる60歳以上が 半数近くの集団」での結果ということだ。こんな偏った集団での結果から『全体の74.7%が「いまの生活に満足している」』などということはできまい。都合のいい数字に騙されるわけにいかない。 一方で厚労省から出された「平成30年 国民生活基礎調査」は次のようなものだ。 この調査は、「保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料を得ることを目的とするものであり、1986(昭和61)年を初年として3年ごとに大規模な調査を実施し、中間の各年は簡易な調査を実施することとしている。2018(平成30)年は中間年であるので、世帯の基本的事項及び所得について調査を実施した」というもの。 全国の世帯及び世帯員を対象とし、世帯票については、2015(平成27)年国勢調査区のうち層化無作為抽出した1,106地区内のすべての世帯(約6万世帯)及び世帯員(約14万6千人)を、所得票については、前記の1,106地区に設定された単位区のうち後置番号1から層化無作為抽出した500単位区内のすべての世帯(約9千世帯)及び世帯員(約2万1千人)を調査客体とし、世帯票 44,135世帯 所得票 6,227世帯 である。 各種世帯の生活意識をみると、 (「大変苦しい」、「やや苦しい」、「前回調査」)の割合は、 「全世帯」で(24.4%、33.3%、55.8%)→ 「苦しい」の計57.7% 「高齢者世帯」で (22.0%、33.1%、54.2%)→ 「苦しい」の計55.1% 「児童のいる世帯」が (27.4%、34.6%、58.7%)→ 「苦しい」の計62.0% となっている。いずれも前回調査より増加していて、6割近くが苦しい状態であることが分かる。 所得五分位階級 200万円以下、200~342、342~523、523~813、813以上での年間所得別の割合は、 「全世帯」すべて20% 「高齢者世帯」 36.5、31.6,19.5,8.1,4.2% 「児童のいる世帯」6.4、9.2,18.7,30.9,34.7% で、全世帯で見れば、所得の高低に独立して調査調査されていることが分かる。 また、各種世帯別にみた所得金額階級別世帯数の 平均年所得金額551.6万円以下の割合と中央値は、 「全世帯」 62.4%、423万円 「高齢者世帯」 88.9%、260 「児童のいる世帯」37.4%、663 「高齢者世帯」では中央値以下の割合が多く、少数の高所得者が平均額を押し上げていることが分かる。 「全世帯」の 57.7%で、生活が苦しいと感じ、年収中央値260万円の高齢者世帯の 68.1%が年収342万円以下である。 調査の対象集団を考えれば、上記の2つの中央官庁の出した結果は、どう見ても厚労省の出した「苦しい」と感じる(つまり満足な生活でない)世帯が全体の57.7%という数値の方が事実に近く、とても全体の74.7%が「いまの生活に満足している」とは考えられない。首相の言っている数値は間違ってないが、都合のいい数値だけで自己宣伝するのはフェアーでない。もし、74.7%の国民が満足しているから政治がうまくいっているなどとマジメに考えているなら、「国民に寄り添っている」ことにはならない。一部の富裕層が所得の平均値を押し上げているという認識は持つべきである。 日本記者クラブでの討論会で、「原発の新増設、選択的夫婦別姓」などを挙手で答える場面では、首相は「印象操作するのはやめたほうがいいと思いますよ。何か意図を感じるんだけど。何かそういう意図を感じるな」などと言いはじめた。自民党がネットを使って「Diversity=多様性」を訴えているのに、自分と異なる意見を受け止める余裕のなさは、了見の狭さを見せつけ、「森羅万象すべて担当しております(2019.2.6参院予算委員会)」、「私が国家です(2019.2.28 )」と大言壮語している人物の言葉として理解に苦しむ。 党首討論会をはじめ、選挙では相手の言葉に耳を傾ける余裕をもって、政策論議を深めて貰いたいもの。いつまでも、前政権への批判をしている場合ではない。この国をどうしていきたいかという話をなかなか聞けないのはどういうことなのか。各党の公約は記録しておいて、しっかり点検し続けていきたい。 |
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