日々の抄

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 すり寄り外交を見た

2019年9月1日(日)

 米国産のとうもろこしを多量に追加輸入することが予定されているという。米国大統領が8月25日、仏ビアリッツでの日米首脳会談で「中国が約束を守らないから、米国ではトウモロコシが余っている。その全てを日本が買ってくれ、農家はとても幸せだ」と語ったことから判明した。安倍首相は「日本では害虫被害に悩まされており、民間に追加購入需要がある」と応じたという。

・ 「害虫被害に悩まされ」というのはどういうことか。
 「害虫」とはツマジロクサヨトウのことである。これがとうもろこしに食害を与えているという。
・ ツマジロクサヨトウとは
分布地域:
 北米〜南米、アフリカ(エジプト、サハラ以南)、アジア(インド、中国、台湾、韓国、タイ、ミャンマーなど)
寄主植物:
 アブラナ科(カブ等)、イネ科(イネ、○トウモロコシ、サトウキビ等)、ウリ科(キュウリ等)、キク科(キク等)、ナス科(トマト、ナス等)、ナデシコ科(カーネーション等)、ヒルガオ科(サツマイモ等)、マメ科(ダイズ等)などの広範囲な作物
形態・生態:
 成虫は開張約37mm、雌雄で外観が大きく異なり、オスのみ前翅中央部に黄色い斜めの斑紋を持つ。終齢幼虫は体長約40mm。卵は寄主植物に塊状に産み付けられ、メスの体毛で覆われる。本種は暖地に適応した種(南北アメリカ大陸の熱帯〜亜熱帯原産)であり、熱帯では年4〜6世代発生する。南北アメリカでは毎年夏季に成虫が移動・分散するが、暖地を除く地域では越冬することはできない。気温が10.9度を下回ると成長が止まり、最低気温が10度を下回る日が続く地域では越冬は困難 。(農水省資料による)

・ ツマジロクサヨトウが国内でいつ確認されたか。
 2019年6月27日に幼虫が多数見つかり、その後の遺伝子検査で害虫だと判明し、7月3日鹿児島県で国内で初めて確認された。
 
・ 輸入が予定されているとうもろこしは家畜飼料用だが、家畜飼料用には2種類ある。
現在の年間供給状況は、
 @ とうもろこしの「実」:輸入により約1100万トン(内95%を米国から輸入している)
 A 国産の「葉や茎を粉砕」をして利用:約450万トン

追加輸入予定のとうもろこしは、とうもろこし@の「実」であり、ツマジロクサヨトウの食害にあっているのは、Aの「葉や茎を粉砕」するとうもろこしであり、不足しているA「葉や茎を粉砕」でなく、@「実」を輸入予定していることに大きな齟齬がある。

 「家畜の健康維持には、これら二つを区別しバランスよく与えねばならない」(鈴木宣弘・東京大教授)との指摘がある。仮に被害が拡大しても米国産では単純に代替することはできない。つまり、必要としているとうもろこしと異なるものをどれほど輸入しても意味がない。ただ、輸入量を増やせばいいという数合わせをしている愚が見て取れる。

・ どれほどの食害が出ているのか
 食害はごく一部で発生が確認されているだけ。確認されているのは西日本以外では茨城だけ。日本での飼料用トウモロコシである「葉や茎を粉砕」する生産量の半数以上を占める北海道では発生が確認されていない。
 農水省は「現時点では通常の営農活動に支障はない」(植物防疫課)としており、米国に約束した275万トンは必要量に比べ過大になる公算大である。金額はなんと数百億円という。首相は「害虫対策の観点から我々は購入を必要としている」としているが、必要でないものを輸入しようとしているものの、数量だけで比べても、食害が国内生産量の6割に被害がでないと合わない量で、非現実的なものといえる。
 ツマジロクサヨトウの食害は他の植物には出てないのだろうか。

 首相は日米貿易交渉を「TPP水準」を越えた譲歩はしない、と説明してきた。トウモロコシを日本が追加輸入すれば「TPP超え」になることになり、その言い訳として「害虫被害」を考えたのだろうが、米国のコーンベルトの集票をしたいトランプ氏の大統領選挙のために、日本国民に偽って不要なとうもろこしを買うことは腹立たしい限りだ。
 自動車の追加関税を回避するための譲歩のつもりだろうが、時間を待たずして自動車の追加関税を迫ってくることは疑うに堅くない。
 米国のための、2020年度予算でイージスアショアの秋田、山口への配置をはじめ、米国に有利な条件で武器を購入する「対外有償軍事援助(FMS)」による5013億円を越える膨大な調達費に並んで、農産物でも追加購入し、米国に「ノーと言えないニッポン」を見せつけられ情けない。日本人の矜持は何処。

 今の日本は、1000兆円を越える赤字を抱え、非正規労働者が4割近くにも達し、生活に喘いでいる国民が増えているにも関わらず、さらに数百億円もの浪費になりそうにしても米国にすり寄り、献上金を差し出し続ける政権を支持し、あちこちで米国により制空権を持てず、警察権の及ばぬ領域を多数もっている、独立国とは到底思えぬ、戦後74年になっても敗戦を引きずっている国なのだ。

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