日々の抄

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  儲かれば何をしてもいいのか

2006年02月17日(金)

 ビジネスホテルチェーン「東横イン」が悪質な偽造をしていた。偽装工事が発覚した「横浜日本大通り駅日銀前」を発端にして次々に偽装が明らかになり全国121のホテルの2/3が該当している。偽装が1月30日、明らかになっていて検査後に改造することの違法性を認識しながら、その後も各地で違法な改造を続けていた。また改造がすでに判明していた横浜市のホテルに対しても、市が91年、是正を指摘していたことが新たにわかった。

偽装と法令違反の例は以下のようなものであるが、可能な限りの偽装の仕儀を到底書ききれるものではない。
 「東横イン仙台中央1丁目1番」で昨年3月の市の検査後、駐輪場をギャラリーに無断で変更。仙台市建築指導課などによると、「仙台東口1号館」では、92年2月に市の工事検査が完了した後、1階の10台、2階の8台の計18台分の駐車場が客室25部屋に無断で用途変更。94年3月に市が立ち入り検査をした際、この用途変更によって、定められた容積率400%を超えた。駐車場は客室に変更したことで、容積率は447%に膨らんだ。市の指導を受け、東横インは01年10月になって客室を取り壊し、1階は駐輪場に変えた。容積率を下げるため、隣接した土地の購入などの方策も東横イン側が検討していたため、是正まで時間がかかったという。「仙台中央1丁目1番」でも、駐輪場からギャラリーへの変更によって規定の容積率である500%を超え、建築基準法違反の状態が続いていた。このギャラリーについては、横浜市で偽装工事問題が発覚したのを受け、27日、当面使用を自粛すると発表していた。

 宮崎市の東横イン「宮崎駅前」が玄関前の点字ブロックを敷設していなかった。点字ブロックは、障害者らが安心してホテルなどを利用できるように定めた建築促進法で設置が義務づけられており、道路からホテルに視覚障害者を誘導するもの。支配人は「違法とは認識していなかった」という。市は開業直前の昨年3月に検査をしており、点字ブロックの不備を見落としていた可能性がある。市建築指導課は「チェック体制を強化したい」としている。もし、行政のチェック見落としがあった場合の責任はどうなるのか。

 神戸市中央区で建設工事が進められていた「神戸三ノ宮II」が2日、開業。同ホテルには身体障害者用の客室が整備されておらず、神戸市が兵庫県の条例違反にあたるとして是正を指導したばかりで、違反状態での開業となった。市は「条例には強制力がなく、営業を規制できない」としている。市により1月30日の完成間近の同ホテルを立ち入り検査が行われたが、障害者用の客室がなかったほか、1階ロビー奥にある障害者用トイレが基準を満たしておらず、このまま開業した場合、県の「福祉のまちづくり条例」に違反することが判明したため、口頭で指導した。障害者用の駐車場や視覚障害者向けの誘導ブロックなどは整備されており、「ハートビル法」の基準は満たしていたという。

 03年に開業した「神戸三ノ宮I」も障害者用客室とトイレが会議室に改造されていたことが発覚している。山口県周南市の「徳山駅新幹線口」も、完了検査後に申請のないまま管理室を設けたとして、同県から「建築基準法違反にあたる」と指導を受けていたが、改善しないまま1日にオープンした。
 他にも、改造によって容積率がオーバーした建築基準法違反の疑いがある物件もあるという。建築確認申請時の設計で駐輪場などとされていた部分が職員ロッカーなどに改造、容積率が制限を超え、建築基準法違反の状態(「溜池山王駅官邸南」)、改造が判明し91年に建築基準法違反を指摘(「横浜関内阪東橋」と「横浜西口」)
、身障者用客室が会議室に(「帯広駅前」)、点字ブロックが撤去され、駐車場数も確保されてない(「名古屋駅新幹線口」)、2層式駐車場を検査直後に撤去(「堺東駅」)、障害者用トイレが清涼飲料水倉庫に(福岡市の「博多西中洲」)・・・など、よくここまで偽装をできたものだ。そして東横インの本社ビルまでが、建設時に比べ、階数が無断で一つ増えるという偽装が施され、呆れるばかりだ。

 偽装工事問題で、オープン直前に行う改造工事が、社内で「E工事」と呼ばれ、「違法なE工事はかなりの店舗で行われている」と証言があり、完了検査後の改造工事が半ば常態化している実態が浮き彫りになっている。東横側は「(E工事は)使い勝手をよくするための改修で、必ずしも法令に違反したものではない」と説明しているが、改造や不備の多くが建築基準法の容積率制限や条例に違反した状態になっている。着工から完成までの工事過程は、A〜Eに分けられており、完了検査後の細かい改修をE工事と呼んでいるという。2種類の図面を用意し、改造前の図面に描かれていた身障者用客室、駐車スペースを「E工事」の図面で「車イス利用者客室スペースをリネン庫に改造」「機械式駐車場撤去」「喫煙コーナー新設」などと描き直し、意図的な改造であったことは間違いない。

東横インが犯した罪は、建築基準法違反、ハートビル法違反、条例違反などである。ハートビル法は「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」のことであり、平成六年六月に施行、平成十四年七月に改正されている。その内容は、「トイレは車椅子でも使いやすいように、階段は手すりをつけて穏やかに、廊下は車椅子や聴覚障害者でも安心でも通りやすいように、エレベーターは車椅子や聴覚障害者でも利用しやすく、玄関や部屋のドアは車椅子でも通れるように、誘導ブロックで安全に、駐車スペースは車椅子でも楽に利用できるように」というもので、規定による命令に違反した者は、百万円以下の罰金に処されるだけである。

 今回の偽装について、東横インの社長は「どんなちっちゃな条例違反でも、違反は違反だから、軽く考えてはいけない。時速60キロ制限の道を67〜68キロで走ってもまあいいかと思っていたのは事実。これからは60キロの道は60キロできっちりと走ると肝に銘じる」「正面が駐車場だとホテルとしての見てくれが悪い。報告を受けて僕も、まあいいだろう、とっちゃえと考えた。やったことは仕方がない」「身障者用客室を造っても、年に1、2人しか来なくて、一般の人には使い勝手が悪い。うちのほかのホテルでもロッカーやリネン庫になっているのが現実だ」などと語っており、身障者に対する軽視、経済効果優先の姿勢が多くの身障者の気持ちを傷つけていることに思いが及んでいない。やっていることの軽薄さ、順法精神の欠如の程度の低さは、今の日本に蔓延っている強者の理論、差別化の肯定につながり、こんな人物が企業のワンマン社長で社会的地位があると思われているのかと思うと悲しい。謝罪文で「・・・全ての人にやさしい日常生活の実現を目指す法令への理解に欠けるものであったと言わざるを得ず、ことに、お体に不自由のある皆さまに対し、不適当と思われる言動がありましたことは、深く反省する次第です・・・」とし、謝罪会見で責任を問われると「すみません、ごめんなさい」ばかりで、子どもが悪さをして、ただ頭を下げていれば許して貰えると思い違いしている姿に似ている。

こんな謝罪をしておきながら、行政機関から違法な改造を指摘されながら、新しいホテルを開業をしている矛盾をどう説明するのか。左手で謝罪文を書いて、右手で違法ホテルの開業テープを切っている人物の、もっともらしい謝罪が本心などと誰も思うまい。
 一連の偽装問題は、バレなければいい、バレたら開き直ればいい、という風潮の現れだろう。嘗ての日本人には「卑怯なことはするな」「弱いものいじめはするな」「信義を通す」という言葉が生き続けて来たはずだ。卑怯なことをして得た金を使って、心豊かな生活ができるはずはない。

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