日々の抄

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 ものは言いようだ 

2006年02月19日(日)

 国会議員互助年金(議員年金)廃止法が3日の参院本会議で可決、成立した。 現行制度を4月に廃止するとしているが、現職のベテラン議員に年金を受け取る道が残された。国民は制度の全廃を期待していたはずだ。議員年金は一般の年金より優遇され、特権的との批判をきっかけに見直しに着手。昨年十月の衆院議会制度協議会では与党が将来の公的年金への統合を前提に、議員OBへの支給額を最大10%削減するなどの暫定措置を提示し、「まずは議員年金を廃止するんだ」という宴席での威勢のいい首相の「指示」がきっかけで、既得権を排除し改革をさらに進めようという思惑が込められていたはずだ。

 その内容は、『在職10年以上の現職議員は納付金から20%削減した額の一括返還か、現行より15%削減した年金受給のどちらかの選択制となる。 受給資格のない在職10年未満の議員には、納付金から20%削減して退職時に返還する。現在受給している議員OBへの給付は、額に応じて4〜10%削減して給付を続ける』というもので、たとえば、在職10年で議員を辞職すると、現行の議員年金は65歳以降に年間約412万円受け取れる。新しい制度で年金受給を選ぶと、額は減るが年に約350万円が支給される。納付金の一括返還を選べば、約1000万円が戻ってくるだけ。年金受給は数年で納付金の元が取れるから、議員の間にもっぱら年金有利との見方が出ている。年金受給の道を用意しないと財産権の侵害になりかねない、との判断があるようだが、優遇されすぎていることは否定できまい。

優遇されている点は(1) 一般の国民が受給する老齢基礎年金・老齢厚生年金に比べて、年金額がいちじるしく高いこと。夫が40年間厚生年金保険に加入、妻は専業主婦の場合の04年のモデル年金は、2人合わせて月額23.3万円に対して、議員年金は議員1人分で約34万円。(2) 受給権発生までの期間が短かいこと。議員年金の場合、在職10年で受給権が発生するのに対して、老齢基礎年金・老齢厚生年金を受給するには、原則として国民年金保険料を25年納付することが必要(保険料免除期間含む)。また、受給権を得るまで30年かかる国民年金(40年加入で年約79万円)と比べても、その差は大きい。

 さらに、廃止法とはいえ、在職10年以上の現職議員の受給権を認めたため、完全廃止まで長時間を要することになった。現職のうち、4月時点で受給権を持つ最年少議員が受給を選択すれば、平均寿命(男性78.64歳)に照らした場合、数10年先まで給付が継続し、税金が財源となる。国会議員年金は終戦後、社会保障の枠組みづくりが論じられるなかで、民主主義社会実現のために「誰もが議員になれる制度」を整えるという観点から、GHQが求めたとされる。制度スタートは「国民皆年金」(1961年)に先立つ58年。財源を全額国費でまかなう案もあったが、世論の反発もあり、現職議員の掛け金も充てることになった。10年で受給権が発生するハードルの低さから受給者は年々増加し、議員数はほぼ一定のため、国庫負担割合が急増した。59年度(受給者は遺族含め90人)の27%から79年度(同569人)には5割台に、04年度(同946人)には72.7%に達した。04年度は約33億6000万円の国費が投入されている。議員年金の事実上の存続で、議員年金関係予算は06年度予算案に28億円余が計上。廃止法の4月1日施行で05年度に9億円だった納付金が入らなくなるため、全額が国庫負担となる。現行でも議員年金は7割が国庫負担だが、さらに税金の負担が増えることになることを容認することが「改革」に反することにならないのか。

国のために貢献した人が優遇されるのは当然、と思っていたら思い違いも甚だしい。名もない庶民が骨身を削って蓄えた財が、公然と天下り役人の高額の退職金に使われたり、年金の積み立てが責任をとろうとしない役人の湯水のような散財に使われていることを考えれば許し難い。国のために貢献している多くは名もない庶民なのだから。そうした人びとが真面目に勤労を続ければ、老後を安心して迎えられる世の中にすることもできない議員様だけが優遇されることを誰が認めることができようか。

 相変わらず、はじめは威勢のいい言葉で始まり、改革とはほど遠い結果に終わる図式がここにもある。あれほど時間をかけて「無駄な高速道路は作らない」としておきながら、結局は全線を約3兆円の税を投じて建設することになったこととなんら変わらない。
(議員年金)廃止法などとよくいえるものだ。

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