日々の抄

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 元日の社説を読んで

2021年1月2日(土)

 ことしも元日の朝刊各紙の社説を読み比べてみた。

朝日新聞
 「核・気候・コロナ 文明への問いの波頭に立つ」と題しての論
 4月10日、 長崎原爆資料館の入り口に、「長崎からのメッセージ」が掲げられ、「核兵器、環境問題、新型コロナ」という「世界規模の問題」は同根で、「自分が当事者だと自覚すること。人を思いやること。結末を想像すること。そして行動に移すこと」と訴え、いずれも、誰もが「当事者」であり、みんなの「行動」が求められているという市職員の思いがメッセージに込められていることを紹介している。

 現政権は、「経済を回す」ことを単に取り戻すのではなく、環境に目配りし、次代の人類社会の姿を描きつつ、二兎を追っている、と指摘。昨年10月、「2050年に二酸化炭素実質排出ゼロ」を打ち出した。世界的な潮流に押され、やはり「発想の転換」に踏み切った。
 「核の傘」の下にある日本などは、核兵器禁止条約に背を向ける。「恐怖の均衡」による核抑止論から抜け出せていない。
 などの現状分析をし、思想史家の渡辺京二氏の「人類の生きかた在りかたを変えねばならぬのは、昨日今日始まった話ではないのだ」「つまり、潮時が来ていたのだ」
を紹介しているが、朝日新聞として穏やかな主張と感じられた。

毎日新聞
 「 臨む ’21 コロナ下の民主政治 再生の可能性にかける時」と題しての論
 2021年を迎え、希望を更新するようなムードが感じられず、新型コロナウイルスとの闘いの「第2章」を予感。コロナへの対応に完全な答えは見つかっておらず、ワクチンに安堵するのはまだ早計。民主政治がコロナへの対応能力に欠けているのではないかが顕在化しているとしている。

 東大の宇野重規教授の「日本では、どこに所属するかによって運命が大きく決定される『再封建化』といえる動きが強まっている。格差に対し、個人の力ではどうしようもないと思う感覚が支配的になっている」を紹介している。
 
 「一人一人が相対的に平等であってはじめて、支え合って社会をつくろうという意識が保てる。それが、社会経済的な基盤を持つ中間層が没落し難しくなった」としつつ、国内では、非正規労働者の雇用者に占める割合が4割に迫り、正社員との不合理な待遇格差の解消は進んでいない。との分析に対し、間違えるかも知れない民主政治を選挙によって修正していくことが求められていることをまとめとしている。

東京新聞
 「年のはじめに考える コロナ港から船が出る」と題しての論
 人間社会はコロナ禍を乗り切って、その先どこへ向かうのか。そうした試練の船出がこの年明け後に続く。一つは米新政権の発足。もう一つは、国連の核兵器禁止条約の発効。
コロナ禍の今、思い知ったのは対立の虚しさで、国境を超え世界が協調する時に、国境を争う核兵器など何の意味もなさないということである。今こそ、対立の虚しさに目を覚まし、核廃絶へ協調する好機ではないか。
 そうするために、「人間性を心にとどめよ、そして他のすべてを忘れよ」とする「ラッセル・アインシュタイン宣言」のもと、分断、対立を乗り越え、協調の未来へ、私たちが取るべき針路の示唆かもしれないとしている。

 目先の政権維持に躍起な「理念なき政治」とも言われなか、を切る流れに、この国だけが取り残されるのか。私たち一人一人の人間性を結集し、政治の針路を未来志向へと変えねばなりません。と括っている。

 米新政権の発足、国連の核兵器禁止条約の発効などを取り上げているものの、「一人一人の人間性を結集し、政治の針路を未来志向へと変えねば」などは抽象的な感がある。

読売新聞
 「平和で活力ある社会築きたい」と題しての論
 天皇陛下の国民向けあいさつはビデオメッセージとなった。
 新型コロナウイルスの感染拡大という大災厄が、医療体制の脆弱性や社会の歪みなど、さまざまな問題点に気づかせてくれたことは幸いだった。
  地震や台風などの災害は、生産設備の損壊で供給に打撃を与えるから、インフラの復興が急務。  コロナが収束に向かい、オリンピック・パラリンピックが無事に開催されるようになれば、日本は世界に対して胸を張れるだろうが、仮にそうしたベストシナリオが実現したとしても、感染症との戦いがそれで終わるわけではない。
 地球温暖化など環境問題をめぐり、国際社会の一致した努力が求められる一方で、環境規制の基準作りでは各国の対立と競争が繰り広げられている。
 「脱ガソリン車」の開発、デジタル技術の活用などは、いったん立ち遅れると高い外国製品の購入や特許料の支払いを強いられることになる。
 デジタル機器の動画や音声を副教材として活用するのは有効だろうが、紙の教科書をやめてデジタル・タブレットに切り替えるなど、本末転倒。数学者の岡潔が言うように「人の中心は情緒である」(春宵十話)。教育の基本を間違えてはならない。
 為政者が国会答弁でウソをつく、疑問をもたれる政治決定について頑なに説明を拒み続ける、などの姿は、寒心に堪えない。与野党の指導者は信頼を得られことを肝に銘じて行動してほしい。
などが列挙されている


 朝日は思想史家の渡辺京二、毎日は東大の宇野重規教授、東京は「ラッセル・アインシュタイン宣言」、読売は数学者岡潔の言葉を引用し、諸問題を羅列的に述べ散漫な、各社とも大差ない論が展開され、なんとかの背比べの感を強くした。
 読売の冗長な問題列挙は毎年のごとし。 東京新聞が毎年のように論じていた、生活に喘ぐ社会的弱者への言及がないのは残念至極であった。

 ことしも政権に対する痛烈な監視をマスコミの最大の使命と心得て、問題を掘り下げて国民に問題点を訴えてほしい。記者会見での大臣への質問で、横柄な大臣に軽く一蹴され引き下がっている記者の様子を見るにつけ、そのことが政治家を思い上がらせ、嘗められていることに通じているように思われてならない。新聞記者諸君には、大いに頑張ってほしい。政治家を恐れさせるような質問、くい下がりのできるベテラン記者の活躍をもっと見たい。

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