日々の抄

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 元日の社説を読んで

2024年1月7日(日)

■朝日新聞
「紛争多発の時代に 暴力を許さぬ 関心と関与を」として、現代に至る世界的争いについて論じた。
   冷戦終了後に着実に減りつつあった武力紛争は、2010年を境に増加に転じ、直近の集計では世界で進行中の紛争は187に達し、いったん起きた紛争は8~11年続くことが多いという(瑞典ウプサラ大学の分析による)。
 2010年以降、国内不況から米国の対外政策が内向きになり、パックス・アメリカーナ(Pax Americana 米国による平和)が影を潜め始めるとともに中国は大国志向による台頭を強めてきた。米国が世界の警察官をやめた結果、米中どちらにも距離を置く国が台頭してきた。
 パレスチナとガザ、ウクライナとロシアなど理不尽な戦争を国連が制することできず機能不全に陥っている。まさに「国連は人類を天国に連れて行く機関ではなく、地獄に落ちるのを防ぐ機関だ」。
戦争には「憎悪と不信の蓄積という土壌や予兆があること」を知り、地道な活動で得た信頼から国連の機能改革へつなげなければならない。「争いの目を摘む関心と関与を忘れぬ年としたい」とまとめている。

歴史的変遷は理解できるが、マスコミを牽引する朝日として、現政権が殺傷能力のある武器の輸出を可能とし、特に米国にパトリオットを輸出することなどということを、国民に諮ることなく、国会論議もなしに進めている。このことが、平和国家としての日本として、他国の戦争に参加することを宣言しかねないことに対する鋭い追及の狼煙を年頭に揚げ強く主張して欲しいと願う。「争いの目を摘む関心と関与を」どのようにしたらいいかも明示してこその朝日ではないか。

■毎日新聞
「超える’24 二つの戦争と世界 人類の危機克服に英知を」
 イスラエルとハマス、ウクライナに侵攻するロシアの2つの戦いは、テロに対する正義の戦い、他国への誤った侵攻は、武力によって問題解決を図ろうとするものである。
 ハマスは人質を取り、イスラエルは病院までも攻撃している。欧米はロシアへ制裁を加えながら米国はイスラエルを支持し二重基準との反発を受けている。二つの戦争は国際秩序の脆弱性を露呈し、国連安保理理事国の隣国を侵略するなど国家の暴走は「法の支配」であり、国際世論が規範的力になるには「国際組織が強くならなければならない」とする。
 だが、欧州では排外主義が台頭し移民規制の動きが広がる。我が国もこのことについて問われている。
 「争いを話し合いで解決する忍耐強さ、他者との共生の道を模索する英知が求められている」とまとめている。

 論じていることはそのとおりである。共生を模索する英知はいかにして得られるか。それらに対し、日本国民、日本国が具体的に自国内で、世界に対しいかなることを「具体的に」何をなすべきかの提案、示唆を求めたい。

■東京新聞
「考える 贈り物でなく預かり物」
・享受は今、支払いは未来
 「地球は先祖からの贈り物でなく、子孫からの預かり物」のはずの「今」の世代が欲望を満たし、便利さを享受するために、病んだ地球を押しつけられることになるのは「未来」の世代。「今」の世代がコストを最小化、利益を最大化できる代わりに、「未来」の世代が損害や賠償に苦しむ、というはあまりにも理不尽ではないか。
・「政治屋」か「政治家」か
 政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の世代を考える、という。国債発行残高1千兆円超になっているのに減税を語って国民の関心を誘っても、選挙目当てではと思われても仕方あるまい。国も子孫からの<預かり物>と考えれば、こんなことは許されざること。
・穴に捨てたゴミの行方
 環境問題も、国の借金も奥の見えない<穴>に送り込むようなことはしたくあるまいに。

 語っていることは然りだが、今の日本を達観して講談を聞いているような気がしてくる。

■読売新聞
「磁力と発信力を向上させたい 平和、自由、人道で新時代開け」
 ウクライナ、ガザをはじめとする惨禍、北朝鮮の核ミサイルの脅威は、いずれも自国優先の結果である。そんな中、国内では政治不信を招く事態が起こっている。
・夢の技術と野蛮の同居
 最先端技術と野蛮な暴力が同時進行する時代にあって、何を基準に判断し、どう行動すべきか。他者と同じ立場で同じ感情を抱く心の作用は「共通感覚」(コモン・センス)と呼ばれ、これあればこそ人間社会が成り立つ、という。戦後の日本は一貫して平和国家の道を歩んできてその特性を持っているともいう。
・人道という「共通感覚」
「意見の力」、すなわち人類の共通感覚に基づいた国際世論の力も、決して軽くないのだ。平和の大切さ、人命の尊さを世界に訴え、休戦、停戦、そして平和の回復と新しい秩序作りを呼び掛けることが、街にチリ一つない清潔さ、夜でも安心して歩ける安全感、各種伝統的文化を持つ日本の使命という。
・夢の技術と野蛮の同居
 最先端技術と野蛮な暴力が同時進行する時代にあって、理性の尊重や法の支配の順守に加え、宗教やイデオロギーの違いを超えた、もう一歩深い源泉から湧き出る理念が求められる。そうするための心の作用に「共通感覚」があるという。

 最後に、今年はアメリカ、ロシア、台湾などで指導者の選挙が行われる。欧州、南米では昨年、排外主義など過激な主張を掲げる候補や政党が相次いで勝利した。そうした情勢の中、「自由主義、人間主義、国際主義」という「読売信条」で平和に貢献したいという。

 文中に「街にチリ一つない清潔さ、夜でも安心して歩ける安全感」などとあるが、正月早々電車内で赤の他人を斬りつける事件があったり、渋谷での祭り事で街のあちこちにゴミを散らかしている姿を知らぬひとはいまい。確かに日本には世界の人びとを磁石のように引きつける力はあるだろうが、世界的に稀な難民受け入れ数が少ないこと、労働者の実質賃金が30年近く上がらないこと、GDPがみるみる下がっていることなど、国力が目に見えるように下がり続けていることを考えると、余りにも現代日本を美化していないだろうか。貧富の差が国力を下げていることも直視しないわけに行くまい。


 今年の社説のいずれも世界の分断、ジェノサイトと言える殺戮が起こっていることに対する懸念が示されているが、そのことの根底にあるものは何なのか、いかにして世界が共存していけるのかについての強い論説を望みたい。
 もう、「争いの目を摘む関心と関与を忘れぬ」「他者との共生の道を模索する英知が求められている」「宗教やイデオロギーの違いを超えた、もう一歩深い源泉から湧き出る理念が求められる」ことを、戦争を放棄した平和国家としての日本が他国へいかなる働きかけることができるかの具体的提案があってもよかったのではないか。社説は評論とは異なるのではないか。


 無慈悲な殺戮を行っている国はそれぞれの宗教に関わっている。ロシアが連日武器を持たないウクライナ市民にミサイルを打ち込み多数の命を奪っていることをロシア正教は是としているのか。武器を持たずハマスに関わりのない市民、それも多くの子どもの命を奪っているイスラエル政府は、ユダヤ教の神エホバがそうした行為を是と教えているのか。「汝ひとを殺めるな」という教えはないのか。多数の人々を巻き添えにした自爆テロを繰り返しているイスラム教徒はアッラーがそのことを是としているのか。(補注)

 人類の滅亡さえ叫ばれる、世界平和の望みも見えぬ現代に欠けていることの根源は「自明の理=Self Evidence」にある。他者と同じ立場で同じ感情を抱く心の作用としての「共通感覚」とは異なる。つまり、いかなる宗教、いかなる信条、国であっても「ひとを殺める事なかれ」が「自明の理」である。これなしに国、民族、宗教の共存はあり得ない。
 自らの権威主義・身分。地位、自国第一主義・自己利益の暴走がある限り、異なる主義、信条、宗教の共存できない。いま、世界に求められているのは、何があっても「自明の理=ひとを殺める事なかれ」であろう。年頭の社説を読みながらそんなことを思った。

(補注) 多くの宗教の過去は血塗られている。宗教のせいで殺された人の数は想像もつかない。これはあまりに大きな矛盾ではないか。なぜ宗教が殺人と結びつくのか。その一番の理由は、「同類を殺すな」という場合の「同類」の意味の取り違えである。それを「同じ考えを持つ者」と限定してしまうと、「自分たちの考えに従わない者は同類ではない。敵だ。敵なら殺しても構わない」という理屈になる。
 (2008年11月13日 朝日新聞「日々是修行 佐々木閑」)

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