日々の抄

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  ひさしぶりにいい気分だった

2006年03月23日(木)

 WBCで日本が見事に優勝した。たぶん日本中の多くの人びとがこの結果に狂喜乱舞したに違いない。不愉快な事件や出来事の多い昨今の中、久しぶりにいい気分になることができた。自分が参加したわけでもないのに、「ニッポン」が優勝したことで、自分が頑張ってそうなったような錯覚に陥って元気になれるのだからスポーツは素晴らしい。
 冷静沈着なイチローが感情を露わにして「ものすごいプレッシャーだった。ヤバイです。勝てた嬉しさと同時にこのチームと別れなければならないのは淋しい・・・」と語っていたのは印象的だった。彼は野球人として個人的にはメジャーリーグにいて申し分ない結果を残しているが、残念ながらチームとしてのそれはない。「・・・自分が壊れても全力でやらなければ・・・・」という言葉の影から見えてくるのは、個人が「ニッポン」の名を背負ってチームに貢献でき、ともに勝利の喜びを仲間と分かち合いたいという、連帯感の伴った勝利感が本当の喜びなのではないか。
 優秀な選手が必ずしも優秀なリーダーではないと言われる中、王貞治氏はその両方で賞賛されるに値する。大映の監督時代、勝てない試合が続いて、心ないファンに卵を投げつけられたこともあった。そうした苦難を乗り越えての昨日の喜ばしい結果は、「上から見ていて命令するだけでは選手の心は掴めない」として選手とともにあろうとした努力が今日の王監督に結びついているのだろう。彼は「経験に学べるひと」なのである。

 第一回目のWBC開催当たって問題は残った。いずれも米国に都合のいいことばかりだった。対戦カードは、米国が強敵のドミニカ、キューバと一度も対戦せずに決勝戦に臨めるようになっている一方、韓国−日本のように3回も同一カードが組まれているのは見え透いている。また、明らかに米国に有利な審判の誤審。また、米国の試合に米国人が審判するなどということは他のスポーツではあり得ないだろう。
 同じ大リーガーでも、王ジャパンに参加しなかった選手もいた。WBCが始まる前にイチローは「WBCに参加してペナントへの影響がないとは言えないが、それも知っての参加だ。それができないのはそれまでの選手なのだ・・・・」と語っていたのは印象的だった。松井がいなくても王ジャパンは優勝できたのだ。万難を排して「王ジャパン」に参加し、「野球をやりながら強くなっていったことがうれしい」と語るイチローの言葉は嬉しい。愛国心などという政治家が押しつけたい言葉を越えて、イチローは多くの国民を「日本が好き」、「日本人であることを誇らしく思う」と思わせてくれた。

 米国の「ワールドシリーズ」はもう過去の名前になった。今回のWBCこそワールドシリーズの名にふさわしい。米国は政治だけでなく、スポーツも自国に有利な結果を導こうとして、見事に裏切られたことを自省するいい機会と捉えてほしいものだ。強国の自国に都合のいい理屈がとおると思うことの間違いを見事に証明してくれた結果であった。かつて小兵の舞の海が曙の巨体をばったりと土俵に倒した場面を思い起こしてくれた。

「王様と叫んでみたい世界一」

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